16、忘れた何か
「この国の何処かに在る“真炎の墓”を探すと良いよ。欲しい答えの全てがあると思うから」
しんえんの、墓。王……真炎?“真炎の墓”?
王都にある王家の墓とか別にあるということかしら?
欲しい答え。
一番知りたい……私が過去に戻ってやり直している理由も、解る?
ヘリオも「そんなものがあるのか?」と少し驚いた様子だった。
何処かではあまりに情報量が少な過ぎる。
「エメさんは場所を知っているのですか?」
「いいや、僕も在ることだけ教えてもらっただけで場所までは知らない。ヒントはくれたけど。でも、場所が分かったとしても僕には行けないかな」
「どうしてです?」
「資格が無いからね」
……資格。
なら、私はどうなのだろう。
場所が分かっても、私も行けないのでは?
「資格は行くべき人間には自然と与えられるものだよ。ヒントは、“真炎を灯せ、我らの灯は汝と共に在らん”。本来は資格の無い者には教えることはない言葉ということを頭に置いてね」
“真炎”は、この国の王を表す言葉の筈。
灯せ、とはどういうことかしら?
「僕が知っているのはここまでだけど、各地に歴代の王達が残したヒントになるモノがあるかも。“真炎の墓”は、王とその妃や王配の為の墓だから、彼らと縁のある場所には何かあると思う。推測でしかない行くかは君達が決めたら良い」
頑張ってね、とあっさりと席を立ってしまうエメ。
「……ヘル、立場は変わっても僕達は兄弟だよ。忘れないで」
フードの上からポンポンと優しく慰める様に頭を叩いて、去って行く。
ヘリオはその背を見ていたかは分からないけれど、「解ってる」とだけ小さく呟いた。
たぶん、エメの耳には届かなかっただろう。
何か、複雑な関係に見えた。
今一知りたかったことは聞けなかった様に思うけれど、“真炎の墓”は気になる。
白い町を、何故かまだ手を繋いだまま歩く私達には会話は無く。
どうしようかと考える。
このまま帰るのかも分からないし……。
恥ずかしさはなくなったから、手は振り払わなかった。
沈黙だと少しの時間も長く感じる。
北の地は、南の地より日が沈むのが早い。
そろそろ帰らないとお兄様が心配するかもしれない。
鹿の魔獣に乗れば、半時程と考えたら、もうここを出るべきか。
ふと見上げた先に、白い塔が見えて、上部が光っている様に見える。
「ねぇ、ヘリオ。あそこ光っているわ」
「あそこ?……あぁ、初大王が遺した光だ」
「本当に初大王の?」
「じゃねーの?あの塔はその時代から中には入れないらしいから」
「じゃあ、あそこも王の縁の場所にはならない?そんなに古くからあるなら、何か残されていないかしら?」
「どうだろうな。初大王縁って思われがちだが、二代目大魔導の主が娘の為に初大王に頼んで光を灯してもらった場所だから……初大王より二代目大魔導の主縁とも言える」
「詳しいのね」
「お前が知らな過ぎなだけ」
「そんなこと無いわよ。歴代の王や大魔導については殆ど記述も残っていないのだから、知りたくても調べようが無いんだから」
「まぁ、文字では残してはいねぇな。国の民には“祝福”がある。“祝福”は、加護、才能、知識が与えられるんだ。加護は生命を護る力。才能は魔力を感じ使う力。知識はその才能を伸ばす力と国の記憶。“祝福”はあるのに、お前には知識の部分が欠如してるんだ。魔力を使う才能はあっても、それを使えないのがその証拠。正確な言い方をするなら、忘れさせられたんだよ。何らかの力でな」
「忘れ……させられた?」
何かの力で?
“祝福”は“神獣”から与えられるもの。
言い換えれば、“神の力”。
そこに作用する力は、相当するものになる。
私に、そんなことをされる様な理由があるの?
他にも何か忘れていることがある……?
【危ない魔法使い】