15、真綿で息絶える
プリンセス……。
「オッサンが気持ち悪いぞ?」
「オッサンじゃない!」
「十六の若者からしたら三十半ばは十分オッサンだからな」
「まだ半ばまで行ってないよ!あーやだやだ、最近の若者はすぐ敬愛するべき歳上を年寄り扱いするんだからぁ~」
「現実見ろよ。親子程の歳の差があんだろ」
勝手な言い合いが始まってしまったわ。
よく解らないけど、王……ガン?が元の婚約者……私?を想ってくれていると言っていたのよね。
噂なのかもしれないけれど、本当だと信じる。
だって、ガンだもの。
それにしても、気安い雰囲気ね。この二人。
「……あの、あなたは?」
「ん?あぁ、まだ名乗っていなかったかな?」
「ボケてんな」
「お前は一々五月蝿いから、ちょっと黙っていなさい。……僕は、エメ。先王陛下の縁の者でね。詳しくは追々話すけど、君を在るべき場所に返す為に動いている密偵みたいな感じかな?」
密偵なのに、簡単にバラしても良いのかしら?
「欲しい情報があったら何でも言って、手に入れて来てもらうから」
しかも、密偵なのに、自分で仕入れて来るのではない!?
私の隣に座るヘリオからも呆れの様な雰囲気を醸している。
「エメ、人任せにすんな。あの人に何かあったらどうすんだ」
「えー、僕に何かあったらどうすんの?僕は隠密より戦闘向けなのに」
「その戦闘にも参加しないクセに。たまには働けよ」
「お前は前から思っていたけど、僕にだけ冷たくない?お兄ちゃん泣きたくなるよ」
「一番兄らしくない人に言われたくない」
あら?
「お兄ちゃん……?エメ、さんは……ヘリオのお兄様なの」
問い掛けたら……。
「うん、そぉ……」
「違う」
ほぼ同時に返ってきたが、エメはヘリオの返事を聞いて語尾が弱々しくなった。
そして、「ひどい」とシクシク顔を両手で覆って泣いた。……泣き真似っぽいけれど。
少し面倒臭いタイプに思えるわ。
「本当は?」
「違う。兄弟の様には育ったけど、俺には帰るところがあるから」
そういえば、国外で育ったと言っていたわね。その時に暮らしていた家族ということかしら?
「でも、仲の良い兄弟の様に見えるわね」
「お前に言われたくない」
なんでよ。……拗ねたの?
ヘリオはそっぽを向いてしまった。
やはり泣き真似をしていたのか、エメがその様子を何故か微笑ましげに見ている。
「お姫様、あんまりウチの末弟苛めないで?」
「え、私……ですか?」
「案外、繊細なんだよね。もう壊れない様に真綿にくるんで閉じ込めてしまいたいぐらい可愛いんだけど、そんなことしたら嫌われちゃうから我慢しているんだ」
「は、はぁ……」
何だか、物凄く……大丈夫なの?とヘリオに聞きたくなる。
視線を向けたら、そっぽを向いたままのヘリオが溜め息を吐いた声が聞こえた。
「……息苦しくて窒息するわ」
「だろうね。だから、この国に来た。本当なら死んだ後にしか帰ることはないだろうと思ったこの国に。お前が思っている以上に、僕達はお前を大切に想っているよ?可愛い可愛い末弟だからね」
「………………」
「お姫様も生きてね?」
真剣な話の様に感じて、空気になろうと思っていたのに私にまで話を振られて少し驚いてしまった。
その流れで私に振る?
生きる気は満々だもの。勿論、返事は……。
「えぇ、長生きするわ」
「その意気だよ」
満足そうに微笑むエメを見て、漸く思い出した。
王都の酒場に来ていた人だ。人を捜して、情報収集に来ていた男の人。
「長生きしてもらう為にとっておきの情報をあげよう」
内緒の話だよ、と雰囲気をガラリと変える。
好戦的な微笑みに、背中に……ゾクリと何かが走った。
【危ない魔法使い】