14、欲しい情報の在処
氷潔都市は、白い建物が建ち並ぶ真っ白な街。
月の光を想わせる淡く優しい光が常に満ちていた。
その優しい光は初大王が遺したもので、二代目大魔導の主もこの街を愛したと云われる。
しかし、何処と無く、寂しさを感じさせる。
「人が、少ないのね」
北で最も大きな町なのでもっと人が多いかと思ったが、通りの先を見渡せる程に人は疎らだった。
「そりゃあな。“扉”が使えなかったら不便でしかないんだ。北から下った奴らは多い。特に貴族や商人達は留まってもここじゃあ大好きな金を稼げない。入って来る物資が少ないからな。反対に残って、少ない物資を高額で売って稼いでいる奴もいる」
ほら見ろ、と言う様に店に並ぶ品に視線を向けた。
私もそれを追うと、そこに書かれている品物の値段に驚かされる。
以前の三倍は高く。物によっては五倍、それ以上にもなっていた。
貴族や裕福な者なら未だしも庶民には買えないだろう。買えないままだと生活は出来ず、他へと移って行くしかない。貴族達も支出ばかりが嵩むから、利の無いところはあっさりと棄てる。
とは言っても、北から下るのは命懸けだ。
崖や谷の多く、簡単には越えられない場所ばかり。雪や氷に阻まれているから危険性も増す。どれだけの者が無事に下れただろうか。
“扉”が使えた頃はお金さえ払えば一瞬で王都。物資も多く、危険な場所を難なく越える為の魔道具も望めば手に入れられたというのに。
“扉”一つ無いだけで大きく変わってしまったということか。
こんな高額ではお土産どころではない。
鹿の魔獣には村で育てた余った野菜を贈ろう。村の野菜は美味しいもの。
気を取り直して、情報収集をしないと。
「ヘリオ。情報収集と言ったら、ここでも酒場が良いかしら?」
「酒場ぁ?お前がぁ?んな絡まれるだけのとこ止めておけ」
「他に情報が得られそうな場所知らないもの」
「解った。良いところがあるから付いて来い」
で、連れて来られたのは白い建物。
何処の建物も白いから特徴なんて無いわね。
一人で町を歩いていたら、迷子になりそう。
「入るぞ」と手を引かれて中に入ると意外と人が多く、賑わっていた。
「ここは?」
「職能団体だよ」
「ギルド?」
「色んな資格や技能を持った奴らがそれに応じた依頼を受けられる場所。例えば、魔道具に魔力を充填や薬草摘みみたいな採取採掘の簡単な依頼から、荷を運ぶから護衛や手伝い、悪さをする魔獣の討伐といった難易度の高いものまで多種多様。金を払えば秘匿情報も得られるかもしれない」
「依頼しろってこと?」
「それも一つの方法だが、ギルドを利用する人間にとっては基本的に情報交換は交流の一環だからな。こちらも何か情報を渡せば、タダで欲しい情報が得られる」
「私に渡せる情報なんて無いけど」
「任せろ」
ギルドの奥へと入って行き、一つのテーブルの前まで来る。
そこには何処か見覚えのある男がいた。
何処……だったかしら?
「ヘルがこんなところに女の子を連れて来るなんて驚きだね。良い土産話になるよ」
ヘル、とはヘリオのことだろうか。
男の向かいに座り、ヘリオは私にもその隣に座る様に椅子を叩いた。
「町に出たいって言うから連れて来ただけ。で、本題な。例の侯爵令嬢は婚約者に納まって、ど?」
「どうもこうもないよ。元から前大魔導の主の孫とか言って高慢さはあったけど、あれを未来の王妃に据えようなんてよく考えたね。民の為に奔走している王を尻目に贅沢しているんだから。ま、元公爵令嬢とどっこいどっこいかな。どっちが妃になってもこの国は終わるよ」
この話は……ガンの婚約者の話?
侯爵令嬢は、キャロライン嬢?
元公爵令嬢とは誰のこと?
「王は、ちゃんと元の婚約者……君を想っているから大丈夫だよ?お姫様」
え?
【危ない魔法使い】