12、大人しくは待たない
「ヘリオ、何処へ行くの?」
「町の方にちょっとな」
そういえば、魔力を扱う練習を始めてからヘリオは私の傍に居続けていた。それまでは頻繁に出掛けていたのに。
もしかしたら、私の……為?
どうかしらね。何を考えているか解らないところがあるもの。
傍に居てくれたことに安心はしていたけれど。
「私も……行きたい」
一月、また経ってしまっている。
情報は遅れて届くし、そろそろガンの方にも何かあるかもしれない。すでにあったかもしれないし……。
その、新しい婚約者とのことも、気になる。
魔力が多少なり使える様になったので、少しずつでも動いていきたかった。
動く為にはやはり情報が必要。
情報は武器になるものだから。
「欲しいものがあるなら、代わりに買ってきてやるけど?」
「え……」
どうしよう。
ヘリオには直接私達の事情を話してはいないけれど、町に頻繁に行っていた様だから、私達のこともたぶん解っているわよね。
それでも、気にせず接してくれているのだとは思う。
魔力の使い方を教えてくれる様になってから、前より親しくなれたとも思うし、頼めば、聞いてきてくれるだろう。
一番知りたいのはガンのこと。
でも、ガンのことを話すのは……なんだか気恥ずかしさがある。
ヘリオなら、揶揄ってきそうじゃない?
悩んでいたら……。
「言い難いものか?……なら、一緒に行くか」
「良いの?」
「行きたいんだろ?」
「えぇ。えぇ!少し待っていて」
「何処に行く気だよ」
「お兄様に言ってくるの」
「これだからお姫様は……言ったら反対されんぞ」
「え」
え、それは困るわ!
「え、じゃねぇっての。あの過保護が許可すると思う方が可笑しい」
「あ、そうかしら?」
「そうなんだよ……面倒臭いから、行くのは昼過ぎな。アイツは狩りに出るだろうから、その後にすんぞ」
「……わかったわ」
ヘリオは準備があるからと何処へ行ってしまった。
一人で行かないでよ!と念押しておいたけれど、そのまま町に行ってない?大丈夫?
信じるしかないので魔力維持をしながら、いつも通りに薪を拾い、リュミの手伝いをして待ち。
昼前には何事も無く帰って来たヘリオも含めて四人で昼を食べ、その後、お兄様は村の者数人と狩りに出掛けた。
「何処の町に行くの?」
「色々仕入れるなら、ジルオロールだな」
氷潔都市のジルオロールは、“扉”のある、北で最も大きい都市のこと。
村から行くと、崖や谷を越えるのに迂回するか、お金を払い魔道具で運んでもらうかしなくてはならない。迂回したら三日は掛かるのだけれど。
「遠過ぎない?」
「乗り物用意した片道半時も掛からねぇって」
乗り物……雪の中でも走れるものなら、雪車かしら?それでも、日帰りは難しい。
行くと決めたのだから時間が掛かっても行くわ。
お兄様には後で叱られましょう。ヘリオと共に。
森に入る。
向かったのは、魔力の練習の場にしていたところ。
そこに、大きな鹿?の様な獣がいた。
白毛に立派な一角、目が……四つある。
「何これ?」
「……エルク、だな」
「魔獣でしょう!?」
どう見ても、魔獣だ。
ヘリオだって、答えに迷ったから返事が遅かっただろうに。
「うるせぇな。魔獣は元からいる獣が変化したもんだから、根本的に変わんねーんだよ。ほら、見ろ。エルクだろ?」
「何処が?一角だし、目が四つもあるじゃない?」
「そーゆう変化しただけだって。大人しくて可愛いぞ。……お前より」
「その余計な一言が腹立つわね!」
あなたよりは可愛いとは思うわよ!
私がつい大きな声を出しても暴れることはなかったから、確かに大人しいのだろう。
このエリク……が、背に乗せて町まで連れて行ってくれるらしい。
「よろしくね」
挨拶代わりに首を撫でると、頬を寄せ、擦り寄って来た。
うん、そうね。可愛い。ヘリオなんかよりずっと。
【危ない魔法使い】