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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
五章
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10、垣間見た黒


──ズドンッ


そんな音が響くと同時に、強い風……衝撃と言うべきだろうか。細かな白が一帯を覆う様に舞い上がり視界を奪った。

身体も吹き飛ぶかと思う程ではあったが、ヘリオが後ろから抱き込んでいたので飛ばされずには済んだ。あまりの衝撃に目を開けてはいられず、すぐに目を閉じてしまったけれど、周章てずにいられたのはそのおかげかもしれない。

片手は枝を掴んだ手を握ったまま、もう片方の手は腰を抱き込み支えてくれた。


数分は白い世界に包まれていただろう。


落ち着いても、雪を被った身体はより冷えてしまった。抱き込んだままのヘリオの体温も、耳を掠める吐息も熱く感じるぐらいで。


目の前の、折れた木の太い幹と、倒れた木の上部を私は呆然と見た。

これを私が……?

と思っていると、「ヘタクソ」と言われた。


「ヘタクソ!?」


何が?何処が?

そこを言わずに悪口は許さないわよ。


身体を捩り、振り向く。

先程の衝撃でヘリオのローブも乱れた様で、顔はフードをすぐに深く被り直してしまったので分からなかったが、髪がフードの外に流れ出ていた。

黒い艶のある長い髪だった。私の方が艶があるけれどね。

黒に混ざって、一房程度の赤い髪も襟足付近から覗いていた。飾り、かしら?


「……あなた、黒髪なのね」


南から北へと回って来て思ったのは、黒髪は珍しいということ。

魔導大国(フィゴナ)に古くからいるという民や村の者は黒髪が多かった様に思えるが、出逢ってきた多く……貴族や大きな商いをしている者、裕福そうな者達に黒髪はいなかった。

ガンの側近のニュイテトワレ卿ぐらいか。大きく分けるとエオも黒髪になるのかもしれないが。


「あぁ……そうだな」


ヘリオは背中を向け、髪とローブを整えている様だった。


「隠さなくて良いじゃない。(ここ)じゃ珍しくないし、誰も何も言わないのだから」


向き直った時には、いつも通り髪も隠した状態に戻っていた。

黒髪同士なら兄妹らしさを表せるのでは?と思うのに。


「こうしてる方が楽なんだよ」

「長くて邪魔なら切るか結うかしたら?」

「どっちも却下」

「我儘」

「うるせぇ」


あら、否定しないということは我儘なのね。


私も短くしたら、手入れが楽なのだけれど……貴族達には只でさえ黒髪というだけで汚いものを見る様な目を向けられているのに、短くなんてしたら淑女らしさにも欠けると言われる。髪一つで何かが変わるとは思えないのだけれど。

ガンがこの黒くて長い髪を好きだと言ってくれるから切りたくない。

それに、物資の入って来ない村だから手入れは難しいと思っていたのに、村の者達は精油を作っていた。おかげで良い香油が作れて、手入れをするのに申し分無かった。


髪の話はおいといて……話を元に戻しましょうか。


「……髪の話はもう良いわ」

「お前が勝手に脱線したんだろ?」

「五月蝿いわね。もう良いの!……それで、何がヘタクソなのよ。そこを言わないと只の悪口でしょ?」

「只の悪口とは思わねぇの?」

「思わなくはないわよ?あなただし」


何故だか、ヘリオを相手にすると私も子供みたいな口論をしてしまうから、思わないことはないわ。

「そ」と肩を竦めた様に見えた。


「握った枝見てみろ」

「枝……」


言われた通り、見る。

折れてもいなければ、皹も入っていない。

が、よく見ると……。


「あ、魔力が……」


込めた魔力が消えていた。

木を叩き付けた際に飛び散ってしまった様だ。


「打ち込む度に魔力飛び散らせてたら、幾ら魔力が有っても足りなくなんぞ」

「そう……ね」


魔力は無限ではないもの。

それに……私の中の魔力はそんなに多くはない様に思う。

だから、魔力の維持が出来れば、一定量で継続的に使い続けることが可能になる。

私には有効的な使い方だ。


「当面の目標は魔力維持な。その前に魔力を上手く注げる様になれ」

「……わかった」


従うしかないわ。今は。


この日から、枝と睨めっこする日々が続くことになった。









【危ない魔法使い】






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