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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
一章
9/101

8、塵溜まりの貴人


他よりは広く造られていても、気付かれずに、ということは無理だろう。

解ってはいたが、身体が強張る。

湿気のある空気、薄暗さが恐怖を煽る様に私を包み込む。

大人の私なら、もう少し気持ちを強く持てたかもしれない。

しかし、子供の私は……恐怖していた。


誉れ有る騎士の家、魔法にも長けた家。

そこに生まれながら、私には魔法は使えなかった。

剣を習わせてもらえなかったのもこの所為だ。

ブランシュの剣は魔法と共にある。

魔導大国と呼ばれる国で、誰もが魔法使いとして生きている国で、魔法が使えないなど落ちこぼれも良いところだ。

王妃候補として城に上がった時に、疎まれたのは貴族ではないということだけでない。魔法が使えないこともあった。

だから、誰より努力し、王妃に相応しい品格を身に付けた……つもりだった。

それなのに、あんな最期を遂げるなんて……。


今も、それ以上に、何一つ成せないまま危ない状況に置かれている。

私は、何をやっているのか。


「ガキだが、なかなかの上玉じゃねーか」

「ああ、高く売れそうだなあ?」


値踏みする目付き。

それから逃れる為に下がる私を追い掛けてくる、ゴロツキ達の手。

触れられそうになって思わず洩らす引き攣る声は虚しさを助長した。


──助けて!


上手く声も出せず、心の中で叫ぶ。

誰にも届きはしない。

誰にも気付いてもらえはしない。


けれど、()はそこにいた。


何かの塊が飛んできた。

あまりの早さに誰も反応出来ず、ゴロツキの一人に当たる。

当たって倒れるゴロツキに乗るそれは……塵の入った麻袋だった。


先程、横切った塵溜まりの?


「いったいなんだ!?」と声を荒げる男たちから目を反らし、振り返る。

気付かなかった。

先程からそこにいたのだろうか?

塵の山の上から垂れる脚がある。

寝そべっているのか、顔……いや、膝から上が全く見えないが、誰かがそこにいた。

後ろのゴロツキ達が騒がしい中、微かに聞こえる小さな呻き。

がさりと音を立てて起き上がる誰かは、黒いローブに身を包む。

今は少ない、古典的な魔法使いの様な格好。


「ヒトがキモチよーく寝てんのに邪魔するバカは誰だぁ?」


横になっているだけではなく、本当に寝ていた?

目深に被ったフードの上から頭を掻いて、立ち上がる。

スラリとした、男の様だ。

塵の中にあったのか、傷んだ箒を手にしていた。

此方を向き、「お前らか」と見える口が弧を描く。


塵を当てられ、喧嘩を売られたとばかりのゴロツキ達は荒っぽく魔法を放つ。

炎の弾、鋭く尖らせた石、が男を襲う。


かと思えた。

男は驚く程あっさりと、埃を軽く掃く様に箒で払う。

そして、ゆっくり近付いてくる。

静かに壁際に寄る私を気にも留めず、ゴロツキ達と向き合った。


その後は、瞬く間と言える程に呆気ない。

襲い掛かるゴロツキ達を簡単に躱して、箒で一撃ずつ叩き込んだだけ。

地に伏して動かないゴロツキ達と、目を見張る程に見事に黒いローブを翻し何事も無かったかの様に佇む魔法使いが一人立っていた。


塵溜まりから出てきたことを除けば、惚れ惚れしていただろう。









【危ない魔法使い】






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