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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
五章
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5、異様なもの


グランを連れて、また森に出向いている。

毎日やることは同じ。


優秀なお兄様の妹なのだから、私も狩りの手伝いが出来るだけの力があれば無力感は感じなかっただろう。

騎士の家系だもの。

女性騎士には憧れた。

アナベルと出逢ったことで格好良いとも思った。ガンの側近のニュイテトワレ卿もまた凛とした雰囲気で美しかった。

幼い頃にはお兄様からお母様が女性でありながら国一の騎士だったと聞き、剣を握ろうとしたこともある。見付かって、危ないからと止められてしまったけれど。

あの頃、魔法が使えないまでも、せめて剣を教えてもらえていたら、こんなにも足手まといにはなっていたかったのではないかと思ってしまう。


薪にする枝より、太く長いものが雪の上に落ちているのが目に入った。

普段なら拾うことはないそれを持ち上げる。

私の手には少し太いが、握れない太さではない。

試しに振ってみる。


何度か繰り返して振っていると、それを見上げていたグランがふいにじゃれ付く様にスカートに飛び付いて来た。

仔犬同然とはいえ、抱き上げるには重たく、勢いもあって、身体が傾く。


倒れても雪の上。

怪我はしないだろうと解っていても、「あっ」と意味を持たない声が出る。


トサッと雪に落ちる音がしたが、雪にまみれる冷たさは感じなかった。

代わりにあったのは、包み込む様な温もり。

咄嗟に閉じた目を開けると黒一色が視界に広がる。それが誰のローブか気付く。雪に倒れ込まない様に肩を抱き、支えてくれたのだ。


黒いローブと、見覚えのある刺繍。

あの男を彷彿とさせる格好はどうにかならないものか。

度々期待して顔を上げて、違うと解ってしまうと少し残念に思ってしまっている。

同じ様にフードを目深に被り、はっきりと見えるのは口元だけ。

「助けてくれて、ありがとう」と言えば、その口元が綻んだ。

手を借りたまま、立ち上がらせてもらう。

背は私より少し大きいぐらいだが、足場の悪い雪の上でもしっかり支えられた。

もう手は良いのだが、掴まれたまま。

グランもいるが、もうすっかり大人しく、私達の傍に座っている。獣のこの仔が始めから警戒しなかった人だから、悪い人ではないとは思うのだけれど……。

何か喋ってほしい。

ずっと黙ったままなのだ。


「ねぇ」と声を掛けようとしたところでガサガサと音が響く。

次いで差す影に、見上げると猿の様な……けれど、猿より大きな魔獣が木の上にいた。

大きなぎょろりとした目が落ち着きなく動く。

私達を見ている様で、見ていない。


魔獣とは、グラン以外にも逢ったことがあるが、こんな……だっただろうか。

もっと穏やかな魔力だったと思う。

荒々しく、周囲の魔力まで震わせている。

それに……何だろう。この魔獣の身体を覆った()()()は。


不気味さに、後退りたくなるのを抱き留められる。

静かに、と言う様に人差し指を自身の口元に持って行く。


あぁ、そうだ。

下手に動けば刺激してしまうかもしれない。

このまま去ってくれれば、と望むが、残念ながらそうはいかなかった。

突然、奇声を上げて、木から木へ驚く早さで飛び回る。


「チッ」と間近で舌打ちが聞こえた。たぶん、舌打ち。

見やれば、口元からは感情は伺えない。

足元に落ちていた、先程私が握っていた枝を足で掬い上げて手にする。

そして、私の肩を抱く手に少し力が入り、より身を寄せることに……。


「セレン、俺が魔力の使い方を教えてやるよ」


振るい易い様に持ち変え、私の目の前に枝が寄せられる。

その枝に、()の魔力が流されるのを見た。









【危ない魔法使い】






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