4、二つのお伽噺
リュミに教えてもらうものの中には、魔導大国の歴史についてもあった。
それは、これまで学んで来た内容とは大きく異なるところも多い。
この違いは何を意味しているのか。
お父様からよく学ぶ様にと渡された書では、始めから貴族はいた。
そうではなかったと後にガンから聞き、驚いたのを覚えている。あの後、歴代書を何度も見直したぐらいだ。しかし、何処にも後から貴族が国に居座ったことは書いてはいなかった。
だから、違和感を持ちながらも、リュミの語りを嘘とは思わず、否定することもなく聞けた。
と同時に国内に広まっている歴史書への不信感が湧いた。
思えば、何処にもある歴史書も真新しいものだった。
状態を保つ魔法が使われている訳ではない。
全て新しく作られたものだ。
王城という歴史ある場所にある物さえ、日に焼け黄ばみはすれど、紙自体は傷みは少なく古くもなかった。
……全て、新しく作り直された?
なれば、先王が亡くなってからだ。
「テオ、テオはおばあちゃんが語ってくれた歴史知っていた?あまり驚いてはいなかったけど……」
書物なんてすぐに作れるものではない。
当時、幼かったとしても先王が生きていた頃にもお兄様は学んでおられた筈。
「あぁ、知っていた。だが、今の貴族中心の社会では不都合な内容だから、下手に口に出せば罰せられる」
「……おばあちゃん」
私達に教えてくれたリュミも?
本当の話を語っただけで?
そんな可笑しなことで罰せられるなんて……。
「私達が黙っていれば問題無い」
「そうね……」
不都合な歴史とは、ガンが言っていた、後から貴族達が我が物顔で居座ったことだろうか。
そういえば、歴史ではないけれど、お父様とお母様が話してくれたお伽噺があったわね。同じものだった筈なのに、あの黒い魔女の印象は違い過ぎて首をよく傾げたものだ。
……お母様?
違う。
だって、私とお兄様のお母様は私が生まれた時に亡くなられて、抱いてもらったこともないのだ。
誰かと錯覚した?
乳母と、かしら?
でも、乳母がいた記憶が無い。
では、誰と?
領地の屋敷にはそれらしい人はいないのに……。
私は、確かに誰か……母と思う程の女性の膝に乗り、よく“黒い魔女”のお伽噺を聞いていた。
お父様は悪い魔女だと語っていたけれど、その女性の語る彼女は誰より優しく強く、美しい魔女だった。
女性の語るお伽噺の方が好きで、思い返してばかりいた気がする。
お父様の語る“黒い魔女”は不気味な存在で、愛し合う王子様とお姫様を苦しめ引き裂こうとし、最後には掛けた呪いが全て自身に跳ね返り死んでしまうという愚かさの象徴。
実在した、世界的にも知られた悪女の一人で、史実に基づいて作られた話だとも教えてもらった。
一方、女性の語る“黒い魔女”は人とは少し異なる力と容姿をしていただけの只の少女。偏見の所為で虐げられながら、誰のことも呪うこともなく真っ直ぐに生きようとしていただけの。それでも弱ってしまう時はあり、その時に手を差し伸べ愛してくれた王子様と幸せになる為に一緒に頑張っていくという希望。
“黒い魔女”が実在するなら、こちらも誰かの目から見た出来事なのかもしれない。
お父様の語る理想的な王子様とお姫様のお伽噺より、細かなところまで語られている様に感じたからだ。
それに……
リュミの語る魔導大国建国までの話と、女性の語る“黒い魔女”のお伽噺は何処と無く……似ていた。
この話を聞いた夜。
私は、私によく似た金色の眸の少女の夢を見た。
【危ない魔法使い】