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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
五章
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3、知らないことは沢山


村は空き家だらけで、その空き家を温室代わりに野菜や果物を育てていた。

只の温室より自然に近いだろうか。

火の性質を持つ魔力や魔法で温かく保ち、土の性質で豊かな土壌を作り、水の性質で育み、風の性質で実りを助け、光と闇の性質で昼夜の環境を作り出す。

一軒一軒温度や湿度も変えて、様々な種類の野菜や果物がある。

村に暮らす全員で協力し合っているのが良く解る。

こうした魔力や魔法を行使して生活するだけの余力は無くなっていると聞いていたので、まだ生活を繋げていられるところはあったことは喜ばしいことだった。


ただ、彼らは戦いには不向きな為に猟も苦手としていたので肉はあまり口には出来ていなかった。

そこに、騎士として優秀で猟も得意なお兄様だ。

村に住まわせてもらい、更に野菜や果物を分けてくれるお返しにお兄様が猟をした獲物を分けることで私達も気兼ねすることは無く居られる。

とはいえ、私自身は何も返せていないので何か出来たら良いのだが、なかなか思い付かないもので、居候させてくれた老女リュミのお手伝いしか出来ていない。


今も、リュミと共に夕飯の準備をしている最中。

大体は汁物にしてしまうから、野菜は切るだけで済む。後は味付けを焦げない様に気を付けて火を通し、味付けを軽く行えば完成。

私の隣に寄り添う様にぴったりくっついて丸くなるグランを片手で撫でてやりながら、もう片方の手で鍋を混ぜていく。

この村に来てからのいつもの光景をリュミは穏やかに微笑んで見ていた。


彼女は村に来て始めに出逢った人だった。

村の者は皆優しいが、やはり彼女達が私達をまず受け入れてくれたことが大きい気がする。

村長という訳ではなくとも、信頼されているのはすぐに解った。

私も多くを教えてもらいながら、頼ってしまっている。

祖母という存在とは縁はなかったが、いたら、こんな感じなのだろうかと思う。


村の者を装う際、私は訳有って彼女の孫ということになっている。「お祖母(ばあ)ちゃん」と呼ぶのは未だに照れが……。


「セレン、ただいま」

「あ、おに……テオ、おかえりなさい」


いけない。

うっかりお兄様と呼んでしまうところだった。

いざという時にそう呼んではいけないから、日頃から名前……愛称で呼ぶ様に言われていた。


お兄様とは、あまり似ていないことから、私が成人していることもあり……夫婦を装っている。兄妹で逃げていると私達を狙った者は知っているだろうと思われるので偽装する為。婚約者ではなく、夫婦の方が私を守るには良いらしい。婚約者と夫では他者からの介入があった時に口を出せることにも大きな差があるのだと。

というのは、後付けの理由。

思わぬ事態にそうなってしまったのだ。

ディアーナという名前も今では悪女?魔女?として知れ渡っているので、偽名を「セレン」にしている。何故この名前かというと、ガンの呼ぶ愛称(ディナ)も知られているだろうし、元の名前とは響きの違うものにするべきだとお兄様が付いて下さった。不思議と耳に馴染み、呼ばれてもすぐに反応出来ていると思う。

考え事をしながらだったのに、今もちゃんと反応出来ていたものね。


兎も角、猟から無事にお帰りになって、ほっとする。村の近辺には魔獣もいるから毎日が心配でならない。幾らお兄様が強いと言っても、絶対なんてないもの。


すでに捌いて包みにくるんでくれている肉を受け取り、メインになる肉料理を始める。

細かく切り分けて焼くだけの簡単なものだけれど、シンプルでこれがなかなか美味しい。

焼ける良い匂いがしてくると今にもお腹が鳴ってしまいそう。


なのに、魔獣で、肉食系の獣の姿をしているのにグランは不思議な程無関心。

焼けた肉をちらつかせても食い付くこともない。

食べるのは、果物だけだ。


魔獣とこうして接するのは初めてだが、通常の動物とは生態が異なるのだろうか?


肉食で、私達を餌にしないなら良いんだけれど……。









【危ない魔法使い】






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