16、思い込み激しく(side.S)
普段なら隣に座ることを許して下さるのに、ずっと立ったまま。
なぜ、王太后様は怒っているのかわかりません。
自分達のやったこと?
お父様も何のことかわかっていないようです。
お兄様のことで呼ばれたと思ったのですが、違うのでしょうか?
お兄様が目覚められて、私たちには何も非はないと言って下さったから、あの部屋から出してもらえたのでは?
王太后様がこんなにも怒っているのを見たことがありません。
だから、私もお父様も困惑しているのです。
「何のことでしょうか?」
恐る恐るお父様が聞いて下さいました。
ですが、それが更に王太后様を怒らせてしまったようで……。
テーブルを強く叩きます。
「本物に、解らぬのなら貴様らはその程度ということだ。いや、理解出来ていれば、これ程愚かではなかろう。公爵は過ぎた立場だった様だな」
王太后様!?
「いったいどうしてしまわれたのですか!?」
あんなにも優しい方だったのに……なんだか怖い。
「どうして?それは此方の台詞だ。何故、言い付けを守らなかった?」
「え?」
「本当に解らぬ程に使えない頭の様だな。……貴様に渡した秘薬、一度の使用量は一滴と言った筈だ」
「そ、それは量が多い方が効果があるかと……ですから」
「黙れ!使用量は何があっても守れと言った!ミオンを殺すところだったのだぞ!!」
え、なぜ……?
薬は良い物のはずです。
量なんて……。
それを飲んで害されるはず、ありませんのに。
「貴様らの所為でミオンにも薬の存在がバレた。それを盛っていたのが誰かもな。命を優先する為に取り込んだ魔力も抜かれて、効果も消えた。……因って、国王陛下の命を脅かした貴様らを処罰せねばならない」
……うそ。
命を、優先……?
お兄様の命を脅かした?
私がそんなことするわけないのに……。
薬が抜かれて、効果が全部消えてしまった?
悪い魔女にまた洗脳された状態に戻ってしまった、ということですか?
だから、だから……私たちをまた悪者にするのですね。
王太后様まで、悪い魔女に洗脳されてしまったのかもしれません。
この後も酷く罵られました。
家は降格……「侯爵さえ身に過ぎた位だな」と言われ、伯爵まで落とされました。
お父様にも領地で隠居するように、と。
伯爵位は幼い弟が継ぐことになりました。
私にも「王の命を危険に晒す女を王妃にはしない」と言い、北の端にある修道院に行くように命じます。
お兄様の命令だと言われたのです。
そんなの、嘘です。
お兄様が私にそんなことを言うはずないのですから。
お兄様に会って話をしたら、きっと、命を取り下げて下さると思って、会いたいとお願いしたのにそれも叶いませんでした。
家族とも引き離され、“扉”も使わず、悪路を長い長い時間を掛けて……粗末な馬車で修道院に向かうことになりました。
きっと……。
きっと、いつか、お兄様は目を覚まされます。
その時、私はお兄様の力に……。
悪い魔女なんかに、負けません……!
【危ない魔法使い】