15、面倒事は檻の中(side.G)
「魔女にしか作れない秘薬中秘薬。魔道具を使って精製する劣化品も出回っているが、アンタに飲ませていたこれは王家の保管庫か……魔塔から引っ張り出してきた本物。適切に体内に入った魔力を処理したから後遺症も無いだろう」
そう言いながら、見せたのは硝子の小瓶だった。
蓋の部分を摘まむ様にして持ち、小さく揺らす。
その小瓶に件の薬が入っていたのか。
何故、彼がそれを持っているのか。
簡単な話、私が倒れた時に直前に口にしたお茶を淹れ持ってきたソフィアを捕らえたのだが、その際にニュイテトワレが呼んだ部下に彼も紛れ、ソフィアを取り押さえながら薬を入れていた小瓶をくすねたのだ。
以前から持ち歩いていたのだろう。
薬を仕込む人間にしては浅はか過ぎて呆れるが……。
もしも、など考えないぐらいに自分は安全圏にいると思っていたのか。
「ニュイテトワレに渡しておくから、どうするかはアンタが決めたら良い」
目の前で、ニュイテトワレには視線も向けずに受け取れと差し出した。
それをニュイテトワレは何も言わず、両の手で丁寧に受け取った。
「じゃあ、また来る。それまでに良くなっているといいな?」
「あぁ、ありがとう」
「…………」
礼を言うと、空気が少し和らいだ気がする。
私に対してはもう何も言うことはなく、ニュイテトワレにすれ違い様に「二度無い、護れ」と低く呟き、消えた。
少しの間、彼の消えた方を見詰めてから、改めて私に向き直り頭を下げる。
「申し訳ありません、グランディミオン様」
「いや、私のあれを一気に飲んでしまわなければここまでにはなっていなかっただろうから……エトの所為だけではないよ」
「ですが……」
「それより、彼が渡してくれた瓶、あれは王太后に返そうと思う。勿論、条件付きでね」
本当は彼について聞きたいところだが、今はまだ聞くのは早いのだろうね。
ニュイテトワレは初めから不審者として認識しなかった。まるで、命を受ける様に頭を下げることもあった。
きっと、本物の王家に纏わる者だからだ。
時が来れば、教えてくれるのだろう。その正体を。
王家に纏わる者なら、私は敵の子でもあるのに……彼は私を気遣い、心配する。
なれば、その心にも報いなければならない。
「……では、陛下の目が覚めたことを報告してきます」
「王太后はたまに来るの?」
「いえ、倒れられた時以来いらっしゃってはいませんね」
「じゃあ、後何日か放っておいて良いよ。どうせ、ソフィアやミュロスは何処かに閉じ込めるか謹慎させているのだろう?その間に“扉”の件……民への支援を進めて。邪魔が入らない内に」
「現在はグリーズ主導で進めているので、そちらには伝えておきます」
「うん、お願い」
彼も言ってくれたし、私はもう少し休ませてもらおうかな。
【危ない魔法使い】