7、小さな出逢い
私は一人、街を進む。
護衛から上手く離れることに成功して、情報にあった地区に向かっていた。
そこに向かう度に人の数は減っていく。
建物も古く、修繕もされていないものになっていく。
店も少なく、人の表情にも活気は無い。
治安の悪さの所為だろう。
華やかな印象のある王都にもそんな場所があったとは知らなかった。
実に、愚かなことだ。
王族も、中枢を担う貴族達も目を向けなかった。気付こうともしない。
私も、その一人だった。
今の私では知ったところでどうすることも出来ないが……。
「この辺じゃ見ない顔だね、君」
「……?」
私に、言ったのか?
振り向くと、綺麗な子供がいた。
今の私と同じ年頃だろうか。
澄んだ碧い眸が美しい。それ以上に、印象的な青みを帯びた黒い髪に一瞬目を奪われた。
黒い髪はよく有る色だ。私も黒い。
けれど、青みを帯びた髪は聞いたことが無い。
青は、神の色と云われる神聖な色。
世界で最も多く、そこに神は宿り、私達を見守っている。
青を人が持つとしたら、眸だけだ。
その眸からも、神は見ている。
髪に青色は無い。青みさえ持つことは無い、と云われる。
青みを帯びた、長く美しい黒髪を不躾にも見過ぎた。
しかし、嫌な表情はせず微笑む。子供とは思えない、穏やかさがある。
「ここはあまり良くないんだ、気をつけて?」
「……あ、ありがとう」
抱えていた袋から林檎を一つ手に取り、渡してきた。「きっと役に立つよ」と。
そして、「またね」と去っていく。
不思議な雰囲気をした子だった。
受け取ってしまった林檎。
役に立つと言っていたが……食べる、べきでないのだろうか?
胸の前で両の手に包み込み持って歩くことにする。
ますます人の姿は見なくなり、聞いていた路地はすぐそこだろう。
偉大な魔法使いと云われる大魔導主がいるとは思えない、寂れた場所。
漸く見付けた路地は他よりは広く造られている様だが、薄暗いことには違いはなく、入ることに少しばかり抵抗を感じた。
剣を、習っておけば良かっただろうか。
今更、習い直してくる訳にはいかない。
深呼吸一つして、薄暗い路地に踏み入る。
日のあまり当たらない、そこは湿気を多く感じた。カビ臭いというべきか。
何処からか人の怒鳴る様な声が聞こえ、林檎を持った手に力が入る。
塵溜まりの横を通り、奥へと進む。
人の姿が見えたが、明らかにゴロツキと世間では言われる風貌の男達で、その横も足早に通り抜け様とした。
手に刃物を持っている。関わり合いにならない方が良い。大魔導主のことを聞きたいが、この者らは止めた方が良いと本能的に思った。
けれど、そう簡単なことではない。
「なんだあ、嬢ちゃん一人かぁ?」
ゴロツキの一人が私に気付いた。
【危ない魔法使い】