14、魔法薬とペンダント(side.G)
「親も親なら子も子だな」
目覚めてすぐに聞いたのは、そんな呆れた様子の彼の声だった。
どうして、私は寝ていたんだ?
いや、寝ていたのではないな。
ソフィアの淹れたお茶を飲んだら、急に胸が締め付けられる様な痛みに襲われて……その後の記憶が無い。気を失ったのだろう。
「例の……薬?」
「適量守らなかったんだよ。原液じゃない分マシだが、数倍に薄めたって濃いの使ってたのに残りを全部入れるとか何考えてんだか」
ベッドの脇に椅子を置き、黒いローブを纏った姿で彼は座っていた。
初めて出逢った時の姿だ。
目深にフードを被り、顔を隠している様は大魔導の主を装ったあの男を彷彿とさせる。そちらより、だいぶ若い……いや、私とそう変わらない様に思う。
「……まだ寝てろ」
身体を起こそうとしたら、額に手を当てられベッドに沈められた。
何故、だろうね?
顔も分からない、口調もぜんぜん違って、男女という差もあるのに、彼が傍にいると安心する。彼女と、一緒にいる様で……。
「君に、また助けられたのかな?」
ソフィアが薬をお茶に仕込むことを教えてくれたのは彼で、影響を受けない為の魔道具……今も首に掛けているペンダントを貸してくれたのも彼。
何も知らずに飲んでいたら彼女を忘れてソフィアを愛する様になっていたのだから、何度感謝してもし足りない。彼はその言葉を受け取ってはくれないけれど。
今回のことも、彼が助けてくれたと思った。
「違う。そのペンダントのおかげ」
違わないじゃないか。
君が、貸してくれた物なのだから。
「何があったか、教えてくれる?」
「あぁ、その前に魔法薬についてな。薬の精製は植物や生物の一部を材料にするが、一般的に薬はその成分を抽出するのに対して、魔力の抽出するのが魔法薬になる。成分だけを取り出し濃縮するのと同じで魔力も圧縮するんだ。秘薬になると何百、何千と材料にしている」
「それは……」
「環境破壊もいいところだ」
やはり、か。
「人間と同じで生み出す量も、留めておける量も違うから材料を増やすしかないんだよ。そうして精製された薬には少量でも膨大な魔力が込められる。そんなもん、一滴でも摂取してみろ。“器”に見合わない大量の魔力が注がれた状態になるんだ。“器”を支える身体にも影響する。自身の魔力でもない魔力は本来害でしかない。自身の魔力でも“器”から零れたもんを身体から排出出来なければ身体を壊す原因になる。外から注がれた魔力は排出し難く、出口を探して身体中を巡るんだ。圧縮した状態から元に戻りながら……簡単に言えば、暴発、膨張してな。後、魔力自体の持つ性質でも影響してくる」
その状態になったということか。
魔力自体の影響というなら……。
「察しの良いアンタなら解るだろ?惚れ薬は心に影響するものだ。魔力の性質は《心》。下手すりゃあ、身体だけじゃなく心も壊れて生命も落としていた。……そのペンダントには同じく《心》の魔力が込められている。心を守る為の魔法式を組み込んでな。だが、少しは薄めてあるにしても相当量の魔力を一気に摂取させられたから処理が追い付かなかった。ペンダントのおかげで、心は守られ、生命は無事だったが、身体には大きな負担が掛かった。心にも少しな。これがアンタが倒れた理由だ」
「そう……」
考え無しの馬鹿共に殺され掛けたってことだね。
嫌になる。
寝込んだ四日もの時間も無駄にしたしね。
【危ない魔法使い】