12、無知な夢語り(side.S)
「そうだね」と髪を撫でてくれるお兄様はやっぱり優しいです。
先ほどは急なことに苛立ってしまっていたのでしょう。
尚のこと私が傍にいるべきです。そうしたら、いつでも癒して差し上げることができるのですから。
なのに……。
「ミュロス公爵令嬢、陛下も疲れておられますので本日はこれでお引き取り下さい。それと、今後は陛下の部屋に勝手に入られない様に。不審者かと思い、斬るところでした」
ノワールの、はいつにも増して嫌味を言って来ます。
何様なのでしょう。私は国に認められた聖女だというのに。
妃になった暁にはまず彼女を罰しなければ私の威厳を貶めることになりますね。
お兄様にも彼女を厳重に注意して頂きたいのに、帰る様に言われてしまいます。「次からは部屋の中に入ってはいけないよ」とまで言うのです。
ノワールも悪い魔女の血を引いていますから、お兄様に悪影響を与えているとしか考えられません。
お父様がノワールをどうにかすると言って下さっていますが、まったく進展しない様で心配です。早く、お兄様の害を取り除きたいのに。
お兄様に言われてしまっては大人しく帰るしかありませんでした。
仕方なく、屋敷に帰るとお父様がとてもお疲れなご様子です。
話があると言われ、書斎に行きました。
「あの忌々しい魔女の影響はまだ残っているのだろう。私には非は無くとも私を罰する気でいるようだ」
「え?」
どういうことです!?
“扉”のことはお父様の責任ではないのに、そのせいで民に物資が行き渡らず亡くなることがあればお父様の命で償わせると会議で言われたそうです。
なんて酷い話でしょう。
しかも、その話し合いの前に王太后様を会議室から酷い言葉で追い出していたなんて。
私には優しかったのにどうして……。
いえ、その前に私を責めるようなことを言っていましたから、悪い魔女の影響で不安定になっているのかもしれません。
「しかし、お前のことは深く想っているとは言っていた。このままの状況では魔女の影響で陛下の苦しみが続き、更に罪もない我々を罰した後に正気に戻る可能性がある。そうなれば、更に陛下は苦しまれるだろう」
お父様もお兄様の苦しんでいることを考え、心を痛めているのですね。優しいお父様ですもの。
「だから、お前に渡したあの薬、一度に入れる量を増やすんだ。そうすれば、すぐに正気に戻る」
「ですが、王太后様からは決して今の量から増やしてはいけないと言われております」
「薬なのだ。魔女の影響を一気に消すには少量では足りん。お前も早く陛下に正気に戻って頂きたいだろう?正気に戻られたら、すぐにでもお前と婚姻できる。国の為でもある」
それも……そうですね。
確かにあんな少量ではなく多く薬を飲んで頂いた方が早く洗脳が解けるに違いありません。
悪い魔女の魔力を消す為の薬ですもの。大丈夫ですよね。
王太后様やお父様に対する酷いこともお兄様の本意ではないでしょうから、苦しみは早く取り除くべきなのです。
そうすれば、何の憂いもなく、お兄様は私と一緒になれます。
翌日、お兄様のお茶に残った薬を全て入れて飲んで頂いたのです。
まさか、それが原因でお兄様が倒れられるとは思いもしませんでした……。
【危ない魔法使い】