10、愚かでも命は等しく(side.G)
「何を言っておられるので……?」
本気で解らないという表情は滑稽に見える。
民が亡くなれば、その命で償ってもらう。
そう伝えただけのこと。
建国時からある、たった一つの魔導大国の法を犯し続けているのは、王太后と貴族達だ。
解らない方がどうかしている。
「平民など幾らでも替えの利く者達と貴族のような貴き血を持つ者とでは秤に掛けること自体可笑しな話ですぞ」
……どうか、しているのだろうな。
むしろ、替えの利く存在はこの貴族達の方ではないか?
どれ程愚かでも命は命。簡単に奪って良いものではないが、魔導大国にとっては害悪以外の何物でもない。
「それで貴族も入れ替えた民も全員が魔導大国と呼ばれる我が国に相応しい魔力、魔法が使えるのか?」
「教育をきちんと施せば問題ないかと」
「教育、ね。何十年経っても使えない者がいるのに?素質の無い者に延々税を掛けろと?無駄な支出だな。なら、今困窮する優秀な魔法使いである民に掛ける方が余程有意義だと思わないか?」
そちらは延々とでなくても良い。
自分達で食料、物資を確保出来る様に地盤を整える手伝いをするだけ。
土地が荒れている所為で畑も碌に作れず、貴族達は搾取するだけで支援などしない。その為に貧しくなる一方で食べることもままならずに心身共に弱っている。それを満たすことが出来れば、民は魔法で土地を潤し、畑を作り。悪路も整え、物資の運搬も問題が無くなる。
貴族達は不満を漏らすだろうね。
故意に、民を飢えさせ、弱らせてきたのだから。貴族達に逆らう力を奪う為に。
魔力や魔法においては彼らには敵わない。
反旗を翻されたら、せっかく握った国の実権を奪い返される。そうさせない為の措置というところだ。
王太后主体に、民を虐げてきた。王太后の母国シジルの“呪い”を使って。
でなければ、始めの時点で魔法でどうとでもなっただろう。
同じ魔力を礎にしながら、魔法とは違う性質を持つと云われる“呪い”。一説では神さえ殺せる力だと……。
王太后のそれは厄介だね。
国を巡る争い事に血縁は関係ない。
自分の邪魔になる様なら、あの人は私のことも切れるだろう。私の魔力を厄介だからね。対策も無く、害することは出来ない。……黒い炎は王太后の使う“呪い”と良く似た性質なのだから。
向こうが手を拱いている内に、貴族達の力を削いでおくべきか。
各地に手を回すことになるから、ついでにこれまで民を苦しめていた馬鹿な貴族達の調査もして一掃。も難しくはない。ノワールとグリーズが協力してくれたならだが。
「何と言われようと決定は覆さない。民に誠心誠意尽くせ。それが、この国の上に立つ者義務だ」
文句など言わせない。
グリーズ公爵がここで笑顔を見せた。
及第点なのだろう。
ニュイテトワレと視線を合わせた後、立ち上がり「真炎の御心のままに」と二人共に頭を下げる。
貴族の最高位である三つの公爵家。
その二家が頭を下げ、王の意向に沿う意思を見せた以上は下位の貴族には背くことは出来ない。
残った、否定的なミュロスに付いたところで立場が悪くなるだけだ。例え、王太后に気に入られているとしても、立場は王の方が上だと先程示したばかりなのだから。
当面の対策は決まった。
足りない部分を話し合い、会議は終わる。
黙ったままのミュロスが少し不気味だったが……。
「陛下は私まで裁くおつもりですか?私はソフィアの父親ですよ」
会議後にこんなことを言ってくる。
裁く?先程の取り決めのことか?
民を支援する気は無いと言っているのだろうか?
ソフィアの名前をわざわざ出したのは薬が効いていると思ってとは思うが……面倒だね。
惚れ薬で惚れさせられた相手に夢中になるらしいけど、その家族に対しての気持ちがどうなるかとか聞いていないし。
まぁ、薬を入れられる様になってから特別ソフィアから家族への気持ちを聞かされたこともないのに、ミュロスの言葉で気持ちが動くフリは必要無いか。
「ソフィアの父だから何だ?」
……あ、我ながら冷たい声になった。
【危ない魔法使い】