8、然るべき時を待つ(side.G)
「“扉”の魔力が失われたというのは本当なのか」
「陛下も確認されたようだ」
「“扉”が無ければ、我々はどうしたらいい?」
「まさか誰かが“器”から抜いたということか?」
「いったい誰が……」
「誰だろうと、グリーズ家がしっかり見ていないからだ」
「ノワール家も確認出来る立場だろう」
「今はブランシュも王都にいる」
「誰がこの責任を取る気だ」
集まった貴族達の言葉は話し合いが始まってから、ずっとこうだ。
自分達の心配と誰に責を負わせるか、ばかり口にする。解っていたこととはいえ、目の当たりにすれば呆れる他無い。
責め立てられているノワール公爵の代理で席に着いていたニュイテトワレとグリーズ公爵は普段と変わらぬ表情で貴族達の言葉を聞いているところは流石といえる。
ただ、彼らの意識は私に向けられている様にも感じた。
彼らにとって、私は王ではない。
王ではないから、試されているのかもしれない。その座に相応しい者かを。
試されているだけマシなのだろう。
これまでノワール公爵もグリーズ公爵も形式的にしか関わって来なかったが、私に婚約者が出来てからは私を試す様に視線を向けて来る。そして、その婚約者が消えた今はより顕著になった。
彼らにどう応えるか。
聞こえてくる貴族達の言葉の数々に、あからさまな溜め息を吐いて見せる。
気付いた者から口を閉じ、私に視線を向けた。
「陛下?」と伺う様に投げ掛けられ、貴族達の顔を流し見る。
「お前達はいったい何の為に集まったんだ?」
事態に気付き、連絡を受けて素早く集まったまでは国の中枢を担う者として優秀だと言えるだろう。
だが、今一番大事なことを口にする者はいない。
彼らは敢えてこの雑音に紛れてしまわない様に口にはせず、私の言葉を待っていたのだ。
そもそも、彼らの沈黙は正しい。
王が許可も出していないのに、王が席に着くと共に勝手に王太后や貴族達は無駄な擦り付け合いを始めた。
一応、ここで一番偉いって貴族が言っていた筈なのに可笑しな話だね?
「それに前にも言いましたが、何故王太后までこの場に来ているのですか?未だに御自分が王権を握っているとでも?無駄話をする様なら出て行って下さい」
「なっ……無駄話?」
「王である私の発言も待たずに貴方が勝手に始めた……誰に責任を取らせるか、という話です。幾ら王太后と言えど、位は王が上です。貴方も言っていたことでしょう?と言っても、貴方はお忘れの様なので今一度ハッキリさせます。王は私だ。王の前で王の許し無く口を開くな。貴様らが常々口にしている王侯貴族を貴ぶ身分社会の規則だろう?不敬であるぞ」
例え、王太后でも王より身分は下だ。
お願いは出来ても、命令は出来ない。
「王太后、ここに貴方の仕事は無い。出て行って下さい。王命です。……貴方が聞かなければ、今後誰一人として王に従う者はいないでしょう。私を無能な王にしたいのなら別ですが」
ここで王太后が引かなければ、王太后を何らかの形で罰する必要があるな。
見る者が見れば独裁者に見えるだろう。実の母を裁くのだから、“三大悪”にも並べる愚王になるかも……。
貴族達に今後舐めた態度を取らせない為には必要なことではある。
が、出来れば、そんな些細なことで王太后を裁きたくはない。
然るべき時に、然るべき裁きでなければ。過去の大罪を有耶無耶にはさせない為に。
真っ直ぐに見据えると、王太后は苦虫を噛み潰した様な表情をした。
【危ない魔法使い】