5、失われた魔力(side.?)
王都を囲む壁に並ぶ“扉”には数十年使い続けられるだけの魔力を貯めておける“器”がある。
“扉”を開く度に、“器”から少しずつ……少しずつ魔力を消費していく。
壁の内部から“器”が見える様になっていて、残りを確認出来た。
“器”は巨大な玉だった。
魔力はその玉の中に、輝く水の様に目に見える形で入っていた。
初めて、父に連れられて見た、見えない筈の魔力が見える光景は何とも不思議で美しかったのを覚えている。
残念なのは量が半分程だったことだろうか。
大きな“器”を、いつか自分が満たすのだと教えられると楽しみになった。
自分の魔力が、今ある魔力の様に美しく輝いてくれるのだろうかとも幼心にドキドキした。
それから十余年。
更に量を減らした魔力はこのまま使い方を改めなければ、後半年も持たない程までに減っていた。
あの頃あった量なら本来半世紀は持っただろう。
“器”を満たせば百年の安寧、と云われる“扉”の魔力をどうしたら十余年でここまで減らせるのか。
国の民の為に作られた筈の“扉”を、貴族達は自分達の私腹を肥やす為に不法に利用し続けていたのだ。目先の利益しか見ることの出来ず、自分達では決して満たすことの出来ない有限の魔力を消費して。
呆れてしまう。
民の為にならないのなら、半年も待ってやる必要は無い。いっそ使えなくしてしまえば良い。
奴らの周章て様は見物だろう。
「主、人が来るぞ」
小さく笑っていたら、外に見張りとして立たせている俺の騎士から声が掛かる。
ちゃんと見張りをしていたんだな、と思う。
昔は俺の命令でも「面倒臭ぇ」と言って聞かなかったクセに……随分と大人になったものだ。
また笑ったが、少し機嫌が悪そうに「おい」と言われた。返事もせずに笑っているから、怒られてしまった。……相変わらず、短気なんだから。
「解っているよ」と返して、“器”に手を当てた。
目的は忘れてはいない。
“器”を満たす者と、歴代の王のみに出来ることだ。
“器”の蓋を開ける。
蓋といっても、目に見えて開閉されるものではなく、中の魔力が外に漏れ出さない為に張ってある魔力の壁。
それを消しに来た。
当然、蓋を開けると一処に留まれない魔力は“器”の中から消えて無くなる。
そうなれば、当然“扉”は使えなくなる。
貴族達への嫌がらせではなく、これは“扉”の管理者としての責務だ。
在るべき使い方をされない時に、“扉”を完全に閉ざす、という……。
蓋を開けると、中の美しく輝く魔力が粒子となり昇り、“器”の外へ。そして、空気に溶け込み……消えていく。
一滴の魔力さえ残らないのを見届けてから、空となった“器”に額をこつりと付けた。
「また、すぐに君を満たしてあげるから……少しだけ、待っていて」
【危ない魔法使い】