6、流れに身を任せ
お父様が乗り気なこともあり、王都に向かうまでそう時間は掛からなかった。
しかし、お兄様の部下は優秀だったので、情報は得られた。十分とは言えなくとも、彼という規格外の存在であれば悪くはない情報だろう。
そうして、私は再び王都に足を踏み入れた。
貴族ではないが、ブランシュにも王都での仕事はあり、小さいながら屋敷を持っていた。
王妃候補として城に上がるまでの生活の場となる。
乗り気だったお父様は残念ながら領地での仕事があり、お兄様が代わりに付いて来て下さった。
本当は、私一人の方が都合が良いけれど、そうは言えない。
王都に付いて来て下さっても、成人したお兄様にも仕事はあるので、私の観光にまでは付いて来ることはなかった。
けれど、また時間がある時に一緒に、と約束をして下さった。……以前は、私が王都に行くことを反対して王都にも来ては下さらなかったから、この約束が嬉しい。
でも、今は大事なことがある。
大魔導主と逢わなければならない。
屋敷で少し休んだ後にさっそく観光を理由に出掛けた。
騎士の家系でも私は剣を学んではおらず、一人では行かせられないからと護衛を付けられた。
当然のことではあるが、目的の為には邪魔だ。
護衛がいたら、大魔導主と逢えたとしても二人にはなれない。大事な話が出来なくなってしまう。
加えて、得た情報によれば、何やら治安の悪い地区によく現れるという。
お兄様が聞いたら、きっと行くことを許してはもらえない。護衛がいても。
情報を持ってきたお兄様の部下にはそこには絶対に行かないと伝え、お兄様には報告しないことを約束させた。口約束なので守ったかは、五分五分。治安の悪い地区と聞き、怖がり残念がる演技はしたから行くとは思っていない筈だが……。
故郷では祭の時ぐらいしか見られない賑わいが常である王都。だからこそ、この人混みは護衛を撒くのに丁度良い。
見る物もまた故郷では見たことのない物ばかり。今の子供の私がはしゃぎ過ぎて護衛とはぐれてしまうということも有り得なくはないだろう。人混みの中なら、背の低い子供を見失い易くもある。
まずは、初めて見る王都の雰囲気にはしゃぐ子供にならなくては。
「わぁー!王都はこんなにも賑わっているのね!」
人の混み合う大きな通りを前に両の手を広げて、嬉々とした声を出してみた。
演技が過ぎたかしら?
……そうでもないわね。
護衛の一人は微笑ましげに見ているから。
撒く機会を伺いながら、護衛達と見て回る。
今の私が見ても、活気ある、故郷では見ない物が多く有るこの街は楽しいものだった。
同時に、王妃であったにも関わらず、私はこの街さえ満足には知らなかったのだと思い知らされた。
機会はあっさりと訪れた。
人混みの中で盗みを働く者がいたのだ。
過去にも、私の近くで起こっていた様に思う。
もっと離れた位置だった筈だが、行動の違いで変わった細やかなことだろう。
女性の叫びが聞こえ、護衛が私に「我々から離れないで下さい」と私を護る様に前に立った。
「えぇ」と返事をして、様子を伺う。
盗みを働いた者が逃げ道を確保する為に炎を放ちながら走る姿が見えた。
近くだった。本当に近くで……。
周囲の者は混乱し、護衛も揉まれる中で、私は人の流れに身を任せてはぐれた。
【危ない魔法使い】