3、愚か者は解らない(side.S)
素敵な庭園をお兄様と歩き、そしてお茶にしました。
お茶はもちろん私が淹れて差し上げます。薬も二滴、三滴と気づかれないように落としてから、お兄様の前に。
「ありがとう」と穏やかに微笑んで下さるお兄様が好き。
そう、お兄様はそういう方なのです。
誰に向けるより私に向ける方が甘く優しい。私のことを真に想って下さるのを感じさせてくれます。
今までが可笑しかったことの証明です。
悪い魔女は本当に愚かですね。洗脳なんかではお兄様の心は手に入れられないのに。それが分からない彼女は可哀想な人なのでしょう。
だからといって、お兄様を苦しめて良い訳ではありませんから、分からせなければいけません。私たちの真の愛で。
婚約を発表し、そして婚約する。
幸せな私たちを見たら、どれだけ愚かでも分かるでしょう。
愚かだからこそ、見当違いな嫉妬で私たちを恨み害してくるかもしれませんけど……。
その時は私も容赦しません。
まず、お兄様にこの薬が必要ないと判断されるまで待たなくては。
一口飲んで「美味しいよ」と微笑んで下さるのを見て、幸せな気持ちになります。
もう大丈夫なのでは?と思うのですが、王太后様はまだ飲ませ続けるようにというので完全に洗脳が解けた訳ではないのでしょうね。
でも、後少し……後少しで私たちは夫婦になれます。
その前に、今宵はもしかしたら……。
ふふ、と笑いが溢れてしまいます。
お兄様が「楽しそうだね」と笑いかけて下さるので、「お兄様と一緒にいて楽しくない訳ありませんわ」と笑顔を返しました。
そんな楽しくも幸せな二人の時間。
けれど、突然、無礼にも騎士が一人飛び込んで来ました。
今は王のプライベートな時間でもあります。
そこに許可もなく入ってくるなど許されません。
立ち上がり、一歩前に出て「無礼者!」と私がお兄様の代わりに声を上げると護衛に付いている騎士たちが姿を見せます。
空気の読めないノワール家の後継以外の者たちは姿を見せないようにしているのですが、姿を見せないだけではなく本当にいないのかと思ってました。只の騎士一人にも気づかず、通してしまうなんて怠慢です!後で罰を与えねば。
それよりも、先にこの無礼な騎士です。
力の無い伝令役の平民騎士でしょう。見たこともありませんもの。礼儀も成っていないのもそのせいです。
身分を軽んじられては国の秩序を乱すことにもなりますから、ここで私がしっかりと……。
「下がれ、ソフィア」
「え、でも……」
「緊急なのだろう」
お兄様も立ち上がり、騎士に近付いて行きました。
緊急だとしても、良くないことは良くないと言わなければ……。
「ソフィア、問題が起きた。悪いが、ここまでだ」
「そんなっ……」
騎士から何か聞いたお兄様は厳しい表情をして、私に言いました。
ようやく二人で過ごせると思ったのに……。
問題が起きたとしても、わざわざお兄様が対処しなければならないようなことなんて、私との時間より優先しなければならない大事なんて……ないはず。
「お兄様でなくてもいいのでは?」
「我儘を言わないでくれ。君も“聖女”と呼ばれる立場ある者だ。問題が起きた、と聞いた時点でまず民の心配をするべきだろう」
「それは……」
「あまりがっかりさせないでくれ」
言い終わった後に溜め息が聞こえました。
なぜ、そんな言い方をするのですか?
まず、心配するべきは王であるお兄様のことです。そして、王族の繁栄あっての国です。
替えの利く国民より、代わりのいない貴い立場、血筋の王族を第一に考えるのが普通ではないのですか?
私に、そんな冷たい目を向けるなんて有り得ない。……きっと、悪い魔女の洗脳のせいに決まっています。
【危ない魔法使い】