幕間、剣の《ちかい》
一度置いた剣を、手にする。
彼は、かつてそれだけを磨き鍛えてきた。
“魔”に優れたと自負する家に生まれながら、“魔”を持たぬと言われ、蔑まれてきた彼にはそれしか自身の存在を示せなかった。
幼くして騎士の一人と数えられるまでの剣技を身に付けるまでになる。しかし、彼の家は彼を認めなかった。この国が魔導の国であったからだ。
それでも、彼は一つの光を見る。
『大きくなったら、僕のたった一人の騎士にならない?』
鍛練鍛練と余所見もせずに剣を振るっていた。
そうすれば、家族からの蔑む声も気にはならなかった。
そんな彼に、見知らぬ男が言った言葉だった。
まだ少年の雰囲気を残し、屈託のない笑みを向けた年若い男。
男が何者なのか知った時に驚きと共に歓喜した。
自身を認めてくれた唯一人の、この方の為だけに剣を振るおうと、その時を待っていた。
けれども、時は訪れなかった。
失ったからだ。
光を、失った。
奪われたといえるだろう。
奪ったといわれる者を恨みもしたが、剣は置いた。優しい光が望まぬことだと知っていたから。もう誰の騎士にも為れず、誰の為にも剣は振るえないと思ったから。
彼は、役立たずになった。
月日は巡り、彼の前に小さな光が現れた。
光が残した、小さな光。
その子が教えてくれた。光を奪った者が誰かを。光の為に、彼が出来ることを。
それから、今まで見えなかったものが、見てこなかったものが見えてきた。まるで、光が照らしてくれている様に。
「私にもう一度貴方の騎士に為る機会を」
誰も座っていない玉座の前に片膝を折り、頭を垂れる。
「我が真炎にこの剣を誓う」
剣を捧げる様に持ち、あの日交わした約束を再び自身の王に立てた。
勝手に言っていること。
為し遂げたとして、亡き王の騎士には為れはしない。
彼は、静かにそこを去ろうとした。
すると、背を向けた玉座の方から小さな笑い声が……聞こえた気がした。
振り返っても、誰もいない。
それでも、もう一度玉座に頭を下げた。
「お任せ下さい……メルヒュペリオン様」
【危ない魔法使い】