幕間、時の《おわり》
過ぎ去った時間が戻ることは無い。
過去を決して変えられはしない。
それが“自然”だからだ。
ならば、現在起きていることは……。
「まさか、ここまで大きな力とはな。……いや、神の力であるなら有り得ないことでもないか」
かつて、交わされた神との約束。
それを守れる様にと与えられたこの世に二つとして無い力、に因るもの。
「しかし、過去に二度と行われた《時》の消失もこれ程ではなかった」
数年という時間が無くなったことにされた。
永い、永い刻を見守り続け、刻の揺らぎを調整してきた者でも動揺してしまうことであった。
一度起きたことを無かったことに、言葉で否定することは簡単だ。そうではなく、神の力で事象自体が否定された。そして、その後の未来も。
辿ろうとしていた未来が否定され失われたことで、世界の刻は停まり。世界は、再び動き出す為に事象より前に戻された。本来ならば、少し前に戻るだけだった筈が、何故か数年前まで。
何者かの意思が働いたのかもしれない。
「これ程前に戻さなければ、調整が出来ないということか。だが、起きていないことは人の記憶にも残ってはいない。同じ選択をし、同じ道筋を辿るだけ。再び同じ事象が起これば、今度こそ世界は終わる」
否定された未来は失われたまま。
同じ未来に辿り着いても、刻むべき未来が存在しない。
「後、六年だ」
それまでに違う未来を手に入れなければならない。
ただ、時を見守ることしか許されない者には何も出来ず、歯痒さを感じさせた。
もし、出来ることがあるとすれば助言だけだが、彼らがここに来なければ、それも叶わない。
「どうか、あの子達を導いて下さい──エマ様」
今出来ることは、《刻》の消失が来ないことを、エマの幼い子供達の幸せを祈ることだけ……。
【危ない魔法使い】