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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
三章
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11、未知の土地へ


私の誕生日から数日。

月も変わり、お父様が来てくれた。

領地の仕事も大変なのに……。

無理をされていないかと聞くと、「お前の嫁入り前に家族三人で過ごせるのは今だけだからな」と抱き締められた。

成人を迎えた娘を抱き締めるなんて……恥ずかしいわね。でも、こんな風に出来るのは今だけだから、少しぐらいは良いかもしれない。


一家団欒。

久しぶりに、家族の時間を楽しんだ。









【危ない魔法使い】









「ディアーナ、寝不足か?」


場所に乗る直前、うっかり欠伸をしてしまったのをお兄様に気付かれた。


昨夜は、あまり眠らせてもらえなかったから……。

遠出の前夜で、次に逢うのは二週間は後になる。

そんなにも逢えないのは、王妃候補の頃以来か。

ガンが寂しいと言って離してくれなかったのだ。

私も寂しいけれど、逢えなくなる訳ではないから、遠出は遠出として十分に楽しむつもり。

領地と王都以外を知らないから、ついでとばかりにこれから行く海底都市(メラネス)や西に掛けて土地のことを聞いた。抱き締められたまま、何時間もそうして過ごすことに。

途中、何度も眠ってしまうところだった。……少し眠った気もする。そんな時は無理に起こされなかったけれど、寝顔をガン見は嬉しくないわ。涎を垂らしていたかもしれないもの。

夜だから眠いというより、ガンが温かくて心地良いから眠ってしまうの。直前までは遠出が楽しみで興奮して眠れなかったのだから。

そうして明け方まで、共にいた。

別れ際には、寝不足で酷い顔に何度もキスをされた。勿論、唇以外に。「僕のところに無事に帰って来てね」とも、甘く囁かれた。

当たり前よ。沢山のお土産話も聞かせてあげるわ。

次に逢えるのを楽しみに、私達は別れた。


ということで寝不足になったのだが、本当のことをお兄様達に話す訳にはいかないので……。


「楽しみであまり眠れなかったんです」


ガンが来なくても楽しみで眠れなかっただろうから、完全に嘘ではないわ。

嘘ではないけれど、良くなかったかしら……。

「ディアーナはまだまだ子供だな」とお父様には笑われて、お兄様もお父様に同意して「本当に」と言いながら頷いていた。

中身は良い歳なのに、そんなことを言われるなんて恥ずかしい。

「もう行きましょう!」と勢いで言ったことが恥ずかし紛れになってしまった。


「……気を付けて行って来い、二人共」

「はい!行ってきます、お父様」

「行って参ります」


お兄様の手を借り、馬車に乗り込む。


せっかく王都に来て下さったのに、お父様には悪いことをしたわね。

お父様とはここ数日共に出掛けて、食事や買い物を沢山したけれど、遠出は留守番をさせることになったから。

遠出のことはこちらに着いてから伝えることになって、当初は「親不孝者!」とお兄様を罵倒していた。お父様には相談せず、お兄様の独断で決めたことの様だ。しれっと「留守をお願いします」と言っていた涼しい表情が思い出される。

つまりは、自分の仕事をお父様に押し付けたのだ。期限の迫った物だけは片付け、残りの山を全て。

完璧な方の様に見えて、意外とそういうことをする。いや、ある意味これも完璧なのかもしれないが……。

一人残すお父様にもお土産をいっぱい持って帰らないとね。


“扉”に向かって走り出した馬車の中から、手を振った。王都に来る前と同じ様に。


“扉”は、二度通ったことがある。

どちらも王都に向かう時だ。かつてと、現在(いま)と、どちらも王妃候補になる為。

残念ながら、ブランシュの領地には“扉”は無く、離れた場所にある東で一番大きな都市まで行かなければならないが。

ブランシュの領地に無いのは仕方がないこと。

他国から侵入され易い穴の近くに、国の中枢である王都に一瞬で行ける“扉”を置く訳にはいかないからだ。

別の目的、今回は初めて遊びにという理由で“扉”を通る。

王都はよく話を聞いていたし、東の都市とは規模が違う程度で言ってしまえば普通だが、これから行く場所は未知。

海底都市、なのだ。

響きだけでも楽しみで、胸が踊る。


開かれた“扉”に入っていく馬車が見えた。

許可証を見せて、私達の乗る馬車も“扉”へ……。


「うわぁ……!」


思わず声が出てしまった。

目の前が真っ青な光に包まれた様な……錯覚。

実際は、青い光ではなく、海底都市という言葉の通り都市が丸々海に覆われ、その海の青さに反射した光が青く見えるだけ。

だけ、というには壮大な光景ではあるが。


あ、大きい。

魚かしら……泳ぐ巨大な影が見えた。

光は、太陽ではなく、光の魔法だろう。

太陽と見間違う様な光の球が頭上遥か上で輝いていた。


「ディアーナ、どんな物が見える?」とお兄様に聞かれる。

いけない。感嘆の声しか上げていなかったわ。

見える景色を、私なりに分かり易く説明していった。

建物は石造りで、殆どが白い。

街の中を多くの水が流れ。草木、花の代わりにあちらこちらに水の球があり、中には色とりどりの海草や珊瑚が生えていた。

地面だけではなく、空中にも水の球が幾つも浮遊する。

都市を覆う海、街の中の水の揺らぎに合わせて光も揺れ、神秘的に見えた。


泊まるホテルに先に向かったのだが、まるで城だ。

王都にある様な城ではなく、書物で見た東方の国にある城に似ている。

木造と石造りの大きな違いがあっても、東方の国を意識しているのではと思う。

お兄様にも話したら興味深げで、直に見れなくて残念そうだった。

中に入ると、巨大な水槽(アクアリウム)の中にいる様に感じる程に足の下にも壁にも天井にも魚が泳いでいた。

海底にいるのを全面に押し出しているわね。

部屋も似た様なもので、落ち着かない気がした。見たことの無い魚ばかりが何という魚か気になって仕方がないのよ。

ここにはいないのかしら……魚の中で一番大きいと言われているサメというのは。どれだけ大きいのかしら?

水槽を眺めていたら、ノックと私を呼ぶお兄様の声。

あ、荷物を置いたら、ホテルの入口(エントランス)でと約束していたのを忘れていたわ。


海底都市(メラネス)には、二泊三日。

初めて来た場所だから足りないと思うけれど、“扉”が開かれる日に間に合わせる必要がある。途中で何があるかも分からないから、余裕を持って“扉”のある街には二日前に着く予定でいた。

初日は、私が寝不足だから、ホテルの近くを見て回ることになったのだ。


海とは疎遠に育ったから、見る全てに目移りしてしまう。

王都に出て来た時も似た様なものだったかしら?

その時より、見たことが無い物ばかりで上手く説明が出来ないわ。

下手な説明でお兄様には「なんだ?それは」と笑われてしまった。難しいのよ。

触れる物は共に触って、触感を確かめた。

なんて表現したら良いのかしら……ふわふわ?ぷにぷに?つるつる?一つでは表せない不思議な触感の、置物や家具もあったわ。

お兄様とも笑ったし、楽しい。

楽しいけれど、ガンとなら……と考えてしまう。

もっと面白い反応をしそう。いらないと言っても買ってしまったり、私が気付かなかったことにも気付いて教えてくれる。きっと……もっと楽しくなる。

早朝別れたばかりなのに、もう逢いたくなるなんて……。考えない様にしないと。

今は、思い切り楽しむのよ!


その後も、お兄様とホテルの周りを見て回った。

思ったよりも沢山歩いて、空腹感が心地良い。

そこに、海底都市(メラネス)で取れる海の幸を使った料理はとても美味しかった。

新鮮だからこその刺身。始めは、生の魚なんて、と思ったけれど生臭くもなく甘味を感じた。

ガンは食べたことがあるかしら…………いけない、またガンのことを考えてしまったわ。

出された魚以外にも沢山の魚が刺身で食べられると料理の説明をしてくれた従業員(スタッフ)に聞き、他にも試したくなる。中には、踊り食いなる食べ方もあるというから、目を丸くした。

踊る?生きているものをそのまま?口の中に?

美味しい、と聞いたら興味深い。

つい、従業員(スタッフ)に質問ばかりしてしまい、食事が進んでいなかったからお兄様に「後にしなさい」と注意された。

とはいえ、静かに食べていたら、「試してみるか?」と聞いて下さった。

踊り食いなるものをですか!?

前のめりに聞くと、一度名前を呼ばれたので大人しく座り直す。落ち着くのよ、私。

やはり踊り食いの話で、海底都市(メラネス)か、海上に上がってからも暫くは島を渡ることになるので、その期間で踊り食いの出来る店を見付けたらやっても良いと言ってくれた。

楽しみが一つ出来たわね。

ガンにも楽しいお土産話になるかもしれない。

あ、またガンのこと……。

まぁ、いいわ。離れていても、私のことを考えていると彼は言っていたのだから、私だって考える。


食事が終わり、一日目は早めに休むことにした。

ベッドから水槽の魚をぼんやり眺めていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

寝不足なのもあるが、微かに聞こえる水の音に、眠りに誘われた気がする。


水に沈んでいく様な、不思議な感覚だった。






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