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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
三章
54/101

9、意思有るもの(side.G)


せっかくの、彼女の為のパーティーだから、最後まで楽しい気分でいられたら良かったのに……顔を合わせなくても不快にさせてくれる。


笑顔は保てていたとは思う。

彼女には楽しく、幸せな時間であってほしいから。

でも、君は気付くんだね。

別れ際になってから、「大丈夫?」と心配してくれた。

大丈夫、と笑って返せる程強くはなくて、黙って彼女を最後に抱き締めた。









【危ない魔法使い】









大事な議題として、無意味な話を繰り返す貴族達を黙って眺める。

話には加わらずに同じ様に眺めているだけの、ノワール公爵とグリーズ公爵の心情も私と同じでそんな話はどうでも良いと思っていることだろう。

相も変わらず、未だに会議に参加し続ける王太后にも困ったものだし。

何処で、どう口を挟んでやろうか。


次?次の次だったかな。

どうでも良過ぎて聞き流していた。

その議題が上がったことで、口を出さざるを得なかった。

何故、そんな議題が上がるのか。

まだディナと婚姻も済ませていないのに、勝手に第二や第三の妃、側室の話とか無いよね。

妃を多く取っている国は王族も増え大きく栄えていると言うが、その分、嫉妬や跡継ぎ問題で揉めているところも多いだろう。

傍目からしたら、王族は私と王太后だけ。しかも、魔導大国(フィゴナ)の正統な血筋は私だけということになっている。

王族が途絶えるかもしれない心配から早く跡継ぎが欲しいのも解るし、政をするにもこの少なさに負担があるのも解らなくはないけど。

他の妃達を貴族(じぶん)達の娘の中から出すことが前提なのが、本当に欲深いよね。


そういえば、小箱の記憶でも私の許可を得ずに勝手に手続きをしてソフィアを第二妃に据えたんだっけ?

その記憶の私も知った時は「は?」ってなっていたね。ちょっと笑っちゃったよ。

王太后には散々ソフィアと子を作れと言われていたけど、一度も触れることは無かったし、触れてくることも許さなかった。そもそも、二人きりでは逢ってもいない。彼女を死なせた不甲斐ない(おとこ)だとしても、そこだけは褒めるよ。

なのに、ソフィアと子が出来たことになっていたのは頂けないね。それに嫉妬して、彼女が毒を盛ったことにもなるし。

子はおらず……いたとしたら、それは不義の子だから裁かれるのはソフィアだ。子は嘘だと泣きながらソフィアは訴えていた。

王太后はそんなソフィアを庇い、お前に構ってほしかったのだろうと私を責めた。そして、彼女が毒を盛ったことは間違いないと。

けど、明確な証拠が無いから罰を与えさせなかった。やっていない証拠も無いから、長く……一人であんなところに閉じ込めることにもなった。

子もいなくて、ソフィアも大事には至っていないのに王太后もミュロス公爵も頑なに極刑を訴えていたな。

あれを見たら、仕組まれたことだと思うのは仕方ない。

子がいると嘘を吐き、王妃を煽ることをしたことは事実。子がいたとしたら不義。いなかったとしても、ニュイテトワレ経由で信頼出来る医師を雇いソフィアが純潔では無いことは明らかになり不義はあった。その罪を問うことになると脅したら、渋々二人は引いた。

そう、それを不問に付すことで彼女のこともまた問わないことになった。しかし、私が迎えに行った時には……。

本当に、不甲斐ないよ。


「ディアーナ以外の妃は必要無い」


聞くに耐えない話を遮り、言った。

案の定、食い下がる者ばかりだ。


「ですが、今は王族が少な過ぎます」

「陛下にもしものことがあれば国は終わりです。より多くの御子を」

「聞けば、婚約者殿は魔法も使えないというではありませんか。ならば、優秀な魔法使いを妃にする必要もあります」


言うことは皆同じ様なこと。

だから、我が家の娘を、か?

何一つ惹かれないね。

そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

他の女の子ではどうしたって、この魔導大国(フィゴナ)の王になれないんだよ。


あぁ、面倒臭いなぁ。


「いいよ。好きなだけお前達の娘を妃に据えろ」


この言葉に歓喜する声が聞こえてくるけど、普通に考えたらそれだけな訳ないじゃん?


「但し、妃の名は与えてやるが権限は与えない。勿論、王族としても」

「そ、それは……」

「私が愛していない……認めてもいない女に大切な国の権限を与えると思うか?だが、妃の名を名乗るのだから国に奉仕はしてもらう」


妃の名を使えば、商売の役には立つだろう。

胡散臭い物を売られたら困るけど、お前達の大好きな金は稼ぎ易くなる。


「陛下、それでは御子は……」

「名だけと言っただろう。妻としての権利も無い。王族ではないからね、勝手に私に触れることがあれば不敬罪だ。私に触れた手は失くなるものと思え。それで良いなら好きなだけ妃に自分達の娘を上げろ、と言っている」


気持ちが無くても抱けるというけど、今の私からしたら気持ち悪さしかない。彼女以外となんて。彼女以外との子を愛せる自信も無いしね。

今、だけじゃないか。

彼女に気持ち悪いと言われそうだけど……彼女に愛されなくても、私は彼女だけを愛している。


「それから、この件とは関係無いんだが……私の大切な婚約者(ディアーナ)のことを、私に黙って勝手に決めた不届きな者がいるんだ」


もう他の無駄な議題もうんざり。


「誰かな?婚約者ディアーナの遠出を、私に話を通さず許可したのは」

「……私だ、ミオン」

「でしょうね」


違ったらソイツの首落としていたよ、王太后(ははうえ)


「何故、私に何も言わずに許可したのです?」

「忙しいお前を煩わせる訳には行くまい」

「だとしても、何故事後でも報告して下さらなかったのですか?私の、婚約者のことですよ。私には知る権利がある。いつまで、子供扱いするつもりで?」

「子供扱いなど……!」

「なら、未だに王太后(あなた)会議(ここ)にいるのは何故?私が王太子の頃は致し方無いとしても、戴冠した王となった今も会議には出続けるのです?」

「まだ王になって一年足らずだ。まだ分からぬことも多いと思い……」


育てる意思のある者の言葉だね。

そんな気持ち無いくせに。


(わたし)を差し置いて話を進め、(わたし)に一切の意見も仰がず決定するのに?」


そう装うなら、せめて意見ぐらいは聞いてほしいよね。


(わたし)は必要ですか?」

「当たり前だろう!」


王太后が声を荒らげる。

それ程必死になるなら、もっと考えを巡らせてよ。


「何も言わずにただ黙って座っているだけの王が欲しいなら、私はいらないでしょう?」


王に限ったことじゃない。

王太后は、母としても、一度として私に意思を求めて来なかった。

ただ、可愛がるだけの……意思などいらない子供(にんぎょう)が欲しいなら、私でなくとも良い。


自分でも何が可笑しいのか解らないけど、笑ってしまっていることに気付いた。


王太后(あなた)の求める王は、貴族(おまえ)達の求める王は、そういう王だ。違う?」


テーブルを指で叩きながら、言う。

これでも、結構腹が立っているんだよ?

少しざわつくけど、貴族達は何かを言ってくることは無い。

本当に、すごく面倒だね。


「違うというなら態度で示しなよ。違わないなら、これまで通りにやっていけば良い。その場合は、私はお前達の(にんぎょう)でいるつもりは無い」


私と話す気が無い者達といても時間の無駄。

立ち上がって、後ろに控えていたニュイテトワレに「行くよ」と声を掛け、出ていく。


途中から王太后は黙っていた。

言葉を失った、という方が正しいかな。

親に対して「私はいらないでしょう?」だからね。自分でも馬鹿なことを言ったと思うよ。

意思を求められなかったけど、少なくとも愛してはくれていたから。

でもね、意思も含めて、私なんだよ。


「彼等次第で私は王を止める。後少しかもしれないけど、エト、付き合ってね」

「当然のことを言わないで下さい。それに、後少しかは私が決めます」

「そんな風に言われると期待、しちゃうよ?」

「ご自由に」


本当に期待しているんだよ?

私の味方じゃなく、彼女の味方で居続けてくれるだろう君には。


「素っ気ないなぁ。でも、面倒見の良いところは君がお姉さんだからかな。弟がいるんだっけ?」

「はい、弟がいました」


過去形……忘れていた。

少し前に亡くなったんだった。

領地で事故にあったと聞いた気がする。

ニュイテトワレに負けず劣らずの美少年という話。

魔法にも長けた天才。

歳は十三か四か、早過ぎる死だ。


悪いことを聞いたな。

と思っていたら、「気にしないで下さい」と。

気にするなって方が無理だよ。


彼女も、二十二という若さで死を体験した。

その意識があるまま、現在(いま)を生きている。

気持ちを理解し切ることは出来ないだろう。

それでも、支えにはなりたい。


小箱に教えられた、重みと冷たさが忘れられないでいる。

実際に、この腕でそれを感じることになったらと思うと怖い。

彼女を抱き締める度に、温もりと鼓動に安心する。

度々、抱き締めてしまっているから、鬱陶しがられているかもしれないけど……許してくれたら良いな。


塵の処理(しごと)もする気にはなれず、私室に入ろうとした。


「……お、お兄様」


頭が痛くなる。

仮にも王の私事空間(プライベートエリア)内に許可も無く入って来るってどういうこと?

共も連れずに、男の部屋に来るのも、日頃品格がどうとか言っている筆頭貴族のご令嬢のすることではない。


「エト、追い出せ」

「はい」


話がしたいなら、正式な手順を踏むべきだ。

成人はまだだとしても、既にデビュタントも済ませ一人前と認められている淑女(レディ)なのだから。

私には婚約者(ディナ)もいる。

いつまでも子供同士の感覚でいてもらっては困る。


「待って……お兄様、ひどいです」


酷い、ねぇ。

悲劇の、という様に涙を流して……こちらを悪者にしたいのかな。

何度も話し合いはしたのに。

まぁ、話し合いというのもお粗末な場だったけどね。ソフィアやミュロス公爵の保身的な発言ばかりで謝罪じゃないし、私の話は一切聞こうとしないじゃない?王太后まで立ち合うからますます私の気持ちなんて言わせてくれないし。


「前はもっと……ずっと優しかったのに。お兄様は変わってしまわれました。あのディアーナのせいですか?」


黙って帰ってくれたら良いのに。


「直に王妃になる女性(ひと)だよ。呼び捨てることを誰が許したの?」

「え……」


呼び捨ても腹立たしいし、所為(せい)って言った?


「私は変わっていないよ」


お前達が私を見ようとしなかっただけ。

結構、お前のことも雑に扱っていたよ?

幼い頃から自慢話ばかりでつまらなくて、殆どお前の話は聞き流していたからね。

優しいって言っているけど、お前に手を差し伸べたことも無いし。

美化し過ぎじゃない?

ニュイテトワレに視線を向けたら、肩を竦められた。流石側近、良く解っているね。


余計に疲れた。

ソフィアをニュイテトワレに任せている内にディナに逢いに行こうかな。

と思っていたら、「直ぐに戻りますので、陛下は部屋にいて下さいね」と釘を刺された。






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