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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
三章
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7、誕生日パーティー


いつの間にか眠ってしまっていた。


起きたら朝になっていて、隣にはガンはもういなかった。

いつ帰ったのだろう。

ベッドの真ん中に寝かし直して、上からシーツを掛けてくれている。

これも温かくはあるけれど、あなたが前に言ったこと、今なら素直に頷ける。


あなたと、朝まで一緒にいたいと想うから。









【危ない魔法使い】









「明日は陛下と過ごすのか?」


え?と思わず、聞き返した。


恒例となったアナベルとの気安いお茶会で、グリーズ公爵家にお邪魔していた。

情勢を織り混ぜながらのお喋り。

公爵家ともなれば閉鎖的な魔導大国(フィゴナ)の国内だけではなく国外の情勢にも詳しく、勉強になった。

そういう話が途切れた時にアナベルに聞かれた。

何故、明日?と思ったが、明日は私の誕生日だったことを思い出す。


「そう出来たら嬉しいけれど……どうかしらね」


毎夜ではなくとも寝る前に顔を見せてくれるが、都合良く来られるかは分からない。授業も無いので、ガンに逢いたいという理由だけで城に行くことは憚られた。

王の婚約者、未来の王妃、ということで国で祝う話も無かった訳ではない。王太后やミュロス公爵を中心とした貴族達が、()()()()()()()()()使()()()()()()()()と反対したらしい。グリーズ公爵やアナベルの兄君が教えてくれた。

「自分の娘が王の婚約者ならミュロスは率先して多額の国費を使わせていただろうに」と兄君は鼻で笑っていた。グリーズ公爵も頷き、したり顔で肩を竦めた。

ソフィア嬢が未来の王妃に決まらなくて良かったと、その表情で語っていた。

グリーズ公爵家とミュロス公爵家はあまり仲が良くないのだろうか。どちらも現王太后に忠誠を誓っている家同士の筈なのに。

私にも優しいから、表面的に言われていることとはグリーズ公爵家は違う様に思う。


「予定が決まっていないのなら、明日もまた来てほしい。細やかだが、パーティーをしよう」

「え、それは私の……」

「あぁ、ディアーナの誕生日パーティーだ。父上からは許可を得ているから、心配しなくて良い」

「もう許可を得ているの?」

「他に予定が無い時は、とね」


友人と過ごす誕生日……それも素敵ね。


「陛下とは予定は無くとも、家族と過ごす予定だったかな?」

「いいえ、来月にはお父様も王都に来られるから、その時に家族で祝おうと言って下さっているの。……だから、甘えちゃおうかしら」

「そうか!是非そうしてくれ」


アナベルは嬉しそうだ。

ガンには確認していないけれど良いわよね。

お兄様も来月お父様と祝って下さるから、明日はお仕事で外に出られるし。

一人で寂しく過ごしたくはないもの。

昼前に来ることを約束をした。


その晩、ガンも来ず、静かな夜を過ごしたが、楽しみでなかなか寝付けなかった気がする。

少し寝不足になったかもしれない。


昼前にグリーズ公爵家に着く様に家を出た。

馬車の中で思い出されるのは、朝食時のこと。

顔を合わせたお兄様には一番に祝いの言葉を頂いた。それだけではなく、素敵な贈り物を頂くことになった。

実際、まだだけれども、とても嬉しいことでアナベルにも早く聞いてもらいたくて仕方がなく、ずっとうずうずとしていた。

馬車が止まり、御者にグリーズ公爵達に着いたことが告げられるとすぐに外に出た。

迎えてくれたアナベルに飛び付いてしまったのははしたなかったわね。嫌がられなかったことは良かった。

一先ず落ち着く為に離れて、深呼吸一つ。

誕生日の祝いの言葉をアナベルから贈られて「ありがとう」と笑顔で返した。友人に言葉だけでも貰えるのは嬉しくなる。

誕生日を祝うパーティーを開いてくれることにもお礼を言うと、パーティーの会場になる場所に案内された。

個部屋(プライベートルーム)に使う部屋でも十分だと思う程に一部屋が広いのに、その何倍もある庭が会場になっていた。庭の一角に過ぎない場所ではあるが。

しかも、人が沢山いる。

グリーズ公爵家(ここ)で、顔見知りになった騎士達だ。公爵や兄君までいる。

私の姿を確認したら、あちらこちらから「おめでとう」の言葉が飛んでくる。

豪華で沢山の料理も並び、飾り付けもしっかりしていた。美しい花の咲く生垣に囲まれた会場は、思った以上に盛大なものだった。

私の為に、と思うと畏れ多い気もしてくる。

お洒落はして来てはいるが、言ってしまえば只のワンピース。ドレスを着て来た方が良かったのではないかと思ってしまう。

とはいえ、アナベルもワンピースなので大丈夫だと開き直る。


パーティーを盛り上げてくれたのは、騎士達。

彼らからの誕生日の贈り物として、特技の披露や魔法、演武と繰り広げられていく。

曲芸をする騎士までいた。

領地にある村で見たことのあるそれよりも荒々しさがあり、心揺さぶられるものでついつい魅入ってしまった。

職としている者より様になっていたのではないだろうか、と思う程。そう思ったのは私だけではない様で仲間の騎士達から「騎士より向いているんじゃないか」「転職しろ」と野次が飛んでいた。心の内では私も頷いた。それ程に素晴らしいのだ。

何故こんなにも上手なのかと聞いたら、定期的に開く仲間内の慰労会で披露しているものらしい。ブランシュ家に属する騎士達はこうした賑わいをすることが無いので、新鮮に感じる。

それからも、お茶や食事を挟みながら皆で楽しんだ。

こんな楽しい誕生日パーティーは初めてで、ずっと笑っていたのではないだろうか。


それが終わったら、次はアナベルから、私の眸と同じ色の宝石まであしらわれている可愛らしい宝石箱が贈られた。「これから陛下から沢山貰うことになるだろうから持っていた方が良い」という言葉と共に。

確かに宝石箱は持っていなかった。

ガンに貰ったアクセサリー型の魔道具もネヴィルに作ってもらったアクセサリーも全て可愛らしさの欠片も無い金庫に仕舞っていた。

そんな話をアナベルにした記憶もある。

だから、宝石箱(これ)にしてくれたのか。

それにしても大きくはないだろうか。見た目は可愛らしくはあるが、私が抱えて持ち運ぶのは難しい様に思える。煌びやかで重そうだ。

金で出来ていたらどうしようか。

高価過ぎて貰ってしまって良いのか迷う。

アナベルを見て、公爵、兄君と見た。

表情が……何か、試されている様な感覚を覚える。

もう一度、宝石箱を見て、触れた。

立派な物ではあるが、これからもっと深みに入っていく腐った貴族社会では日常的な物になるのだろう。恐縮など邪魔だけ。表向きは、太太しいぐらいが丁度良い。


「ありがとう、気に入ったわ」


宝石箱から手を離し、笑って見せた。

素敵な物だということは間違いないもの。

アナベルは「うん、良かった」と笑う。


「貰ってくれなかったら、どうしようかと思った」

「あら、そうなの?」

「こんな物で遠慮する様じゃ、あの王太后とは渡り合えないからね。何より、宝石箱(これ)の処分に困る。……私はいらないし」


処分と言った辺りで兄君に「お前が使えよ」と言われたが、その気は無いと首を横に振っていた。

彼女の持つ宝石は祝い事の時に公爵と兄君から貰うアクセサリーだけだと言っていたから、ここまで大きいのは必要無いのだろう。

果たして、私には必要なのか。


「じゃあ、この宝石箱に入れる初めの宝石はこれになるかな?」


……え?

振り向こうとしたら、「付け難いから前向いてて」と先に言われてしまう。

声だけで誰かは分かるが、顔が見たかった。

何故、グリーズ公爵家(ここ)にいるのだろう?

言われた通りに前を向くが、気になる。

首に掛かる重みはこれまでのシンプルなペンダントとは違っていた。

どんな物だろうか。

チョーカー型なのか、視線を落としてもよく見えない。

「鏡を」と後ろで聞こえ、少し待つと高そうな装飾が施された鏡が目の前に置かれた。流石、公爵家。

そこに映った自分に……正確には、自分の首元に驚かされる。

これまで貰った物には無い、大振りの白金(プラチナ)のネックレス。紅い薔薇に見える大きな宝石が五つも付いていた。

ガンの眸の様な、宝石。


「とても似合っているよ」


もう振り向いても良いかしら。

振り向いた先の、()()()()()()()()は魔道具で隠されていたのは残念だが、思わぬ場所で逢えたことは嬉しい。こんな贈り物まで携えて。


「ありがとう。でも、どうしているの?」


このパーティーは昨日決まったことの筈。


「ディナの誕生日パーティーをグリーズ公爵家ですると公爵から聞いて、私も来ないとと思ったんだ。お忍びでね」

「そう、嬉しいわ」


要はサボったのね。


公爵から……。

公爵に視線を向けると、「私からの贈り物(プレゼント)だよ」と笑顔を返された。

周章てて頭を下げる。

公爵にそんな気遣いをさせるとは……!


私の誕生日に逢えそうにないと感じてグリーズ公爵がガンに協力を申し出て下さったという。

公務を急激に増えた所為。

正確には、増やされたのだ。

それもこれも、王と王の婚約者(わたし)を誕生日に逢わせない様に邪魔をしたいから。婚約者の誕生日に仕事を優先させる程、婚約者には興味が無いのだと世に見せる為でもあると。

ガンには尤もらしい理由として、王の婚姻を間近に各地の重鎮が謁見を求めてきて、彼らとの繋がりを王として強固なものにしなければならないから必ず逢えと王太后まで口を出して来ていたらしい。逢ったことの無い者が多いので、替え玉は使わず逢っていた。

残念ながら直に逢う程の人格者はおらず、媚びるしか能がない者達ばかりだったとガンは肩を竦める。媚びる相手は王太后やミュロス公爵に対してだ。

心身共に疲れそう……言ってくれたら良いのに。

今日はこれまで以上に謁見を求める者が多く、我慢の限界というところで朝早くにグリーズ公爵から声を掛けられグリーズ公爵家(ここ)へ。


私の顔を見て癒されたというから、それは良かったけれど……皆の前で無遠慮に抱き締めないでほしい。





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