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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
三章
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6、試される戯れ


グリーズ家でのお茶会も無事に終わり、また穏やかに過ごす。

あれから、何度も互いの家を行き来し、アナベルとの関係も良好。


「それでね、アナベルが……」

「ディナ、もうその話は一旦終わり」


ただ、ガンが少し不機嫌なのよね。

私が話していても途中で終わらせるもの。

そして、寄り掛かってきたり、甘えてきたり。

帰る頃には機嫌は治っているから良いのだけど、話ぐらいは聞いてほしいわ。









【危ない魔法使い】









「それはズバリ……嫉妬ね!」


グリーズ家でのお茶会が無事に済んだことへのお礼をカティとネヴィルにまだしていたかったので、まず家から近いネヴィルの工房に行くとまたカティがいた。

ついでだからとお礼のお菓子……グリーズ家でまた貰えた野菜のクッキーを渡すとそこでお茶をすることになり、近況報告もすると前のめりに言われた。


「何故?」

「何故って、ディアーナちゃんがアナベルちゃんのことばかり話すからよ」


そうなの?


「訳が解らないって表情(かお)しているね」


確かにアナベルとのことは話しているけれど……。


「只の友人よ?」

「だとしても、恋人と一緒にいるのに他の人の話ばかりだとつまらないじゃない。傍にいる自分のことをぜんぜん考えてくれないんだもの」


あぁ、それは嬉しくないな。

反対にガンにされたら、腹立たしくなるわね。

言ってくれたら良いのに……。

そういうのを遠慮する間柄じゃないじゃない。

いや、私が初めての女の友人にはしゃいでしまっていた所為で、言い難かったのか。


「気を付けるわ」


そう言うと二人共頷いていた。

私はあまり敏い方ではないから、相談していくべきかもしれない。

関係を悪くしたくないもの。

ガンとも話さないと。


お礼に持ってきたのに、考え事に夢中になって、うっかりクッキーを私ばかりが食べてしまっていた。

二人は「気にしないで」と笑ったが、申し訳無いから、また今度何か持って来ると約束した。

残ったクッキーは二人に食べてもらうと少量ではあっても喜んでくれたのは良かった。

美味しいものを食べているとうっかりしてしまうことがあるから、気を付けないと。

やはり、肥るかもしれない。

ガンにまた重いと言われてしまうかもしれない。


溜め息を吐きそうになるのを我慢し、帰ることにする。

カティが追加でお菓子を出そうとするから、本当に肥ってしまいそう。二人の工房や店に行くと美味しいものが出してくれるのよね。二人には食べ物の好みは言っていないのに、私の好みど真ん中の味のものを。まるで、始めから知っているみたいで不思議。

遠慮したのにお土産にお菓子を頂いてしまった。二人から、それぞれ。

肥らせたいのかしら?


こういう心配をすることは平和な証拠ね。

かつての人生ではそんな余裕は無かったし、むしろ痩せていっていたから。


本当に、平和過ぎて、死ぬかもという不安を忘れてしまいそうになる。気を抜いてはいけないのに。

人間関係は変わってきてはいるけれど、明確に何が変わったとは言えない。

私には、まだ、きっと死が付き纏っている。

はっきりともう大丈夫と思える時が自分でも解れば良いが、実際それが解る時が来るかは解らない。

大魔導主が教えてくれるのだろうか。

今、何処にいるのかも分からないのに……。

ガンの方にも変わらず応答は無いらしい。

何か一言ぐらいあっても良いじゃない、あの男は。


まだ“不自然”捜しは続けていた。

ガンと王都のあちらこちらに足を運び、アナベルには私の知らなかった様々な店を教えてもらい行った。

効果は出ていてくれたらと思うしかない。


私の誕生日まで僅かになる。

その後、二ヵ月程で王妃として再び城に上がることになる。身動きも取り難くなる前に他に出来ることはないか。

気持ちだけが焦ってしまう。


ガンと逢っていても考えてしまって、これからのことを話しているのに集中出来ない。


「いつもより大人しいね、どうかした?」


その言い方だといつも騒がしいみたいじゃないの。

横から抱き締められて、子供っぽく剝れてしまう。


「眠い?なら、もう帰るけど……」

「別に眠くないから、まだ帰らないで」


まだ、帰ってほしくない。


「……少し考えていただけだから」

「どんなこと?僕も一緒に考えるよ」

「城の外にいる内にもっと出来ることがあるんじゃないかって。今が平穏だから、余計に不安になってしまうのかしら……」

「確かに、何も無さ過ぎて不安になるね」

「ガンも不安になるの?」

「そりゃあ。黙って全てを受け入れる連中じゃないからね。王宮で何かするより、外で“自然”を装って事を起こす方が問題は少ない。責任は、警護に当たっていた者達と……ディナ自身の軽率さを問えば良いだけだから」


私も悪いことにされるのか……。

遊び歩いていたことにでもされるのかしら?

死んでも、生きてても、そんな軽率な人間は王妃には相応しくないとまた言われる気がするわ。


年々、盗賊の様な輩も増えて、被害は後を絶たず。

ガンの調べたところによれば、貴族達が私腹を肥やす為に各地で植物や鉱物などの資源を好き勝手に掘り、土地を荒らす所為で自然災害も増えているという。


私が外で人に襲われようと、災害に巻き込まれようと、日常の一部。たまたま、それが要人だっただけの話だ。


「ディナに何かあったら……って毎日不安。前にも襲われたことがあるしね」

「でも、外の方が良いと賛成してくれたのはガンでしょ?」

「王太后の傍にはいない方が良いと思ったんだよ。言ってしまえば、君はまだ只の婚約者だ。王妃の立場なら未だしも、身分自体は変わっていない今は簡単に不敬罪を問える。近くにいるとその機会は幾らでも作れてしまえるんだ。……元気に走り回るディナなら、尚更ね」


最後の一言は余計ね。……否定は出来ないけれど。

だから、外でも安心出来る様にと護身用の魔道具を沢山贈ってくれるのね。通常なら一個、二個あれば十分なのに、婚約者期間も後三月も無い今も贈ってくれる。

指輪型、ペンダント型、イヤリング型、髪飾り型、ブローチ型など複数付けられる様に考えてもくれている。

誕生日でもないのに、沢山。

デザインも良いから、護身用ということではなく、只のアクセサリーとして身に付けられたら良かった。

勿論、魔道具は嬉しい。

けれど、好きな人から貰うなら、他の用途など無く、単純に……。

贅沢な望みだとしても、思ってしまう。


「何よ、まるで子供みたいに。そんな私だから、良いのでしょう?」

「ははっ……そうだよ。元気に走り回って、木にも登ってしまうお転婆な君だからこそ好きになったんだ」


言ってくれるわね。

あなたも負けないぐらいやんちゃなくせに。

やんちゃな子は真面目な話に飽きてしまったらしい。

こっちは生命(いのち)懸けなのよ。


軽く触れ合い、唇以外にキスして、ベッドに共に横になる。

擽ったさと気恥ずかしさは何度やっても抜けないし、密着していると気付いてしまう。


「……ガン、当たっているのだけど?」


私としては結構真面目な話をしていたつもりなのに台無しだわ。


「何が?」

「言わせる気なの?あなた」

「……う~ん、それはそれで興奮するね」


本当に、台無し。

二度も閨教育は受けているから、私にだってそれが何かぐらいは解るわよ。

何度も抱き締め合っているから、似た様なことは何度もあった。言わなかっただけで。

抱き締め合って、絡めた脚に……太腿に当たる男の主張。

今になって、これまで以上に意識してしまうのはきっと結婚が近くなったからね。

かつては、していない初夜。

全てを片付けてからになるだろうけど、夫婦になるのなら気構えは持っておくべきじゃない?


ガンと……。


ううっ、恥ずかし過ぎる。

よく世の中の女性はこの羞恥心に耐えられるわね。


「ディナ、別に言わなくていいよ?」

「言わないわよ!」

「それを悩んでいたんじゃないのか。……じゃあ、いったい何を考えて顔を赤くしていたのかなぁ?」

「……言わない」

「うん、その方が良いかもね」


僕も意識しちゃうから、と耳元で囁くのは意地悪ではなくって?

もっと意識させたいのかしら。


熱を感じて、鼓動を感じて、抱き締め合ったまま。

たまに顔を見上げると必ず目が合う。

ガンの綺麗で私のこと好きという感情に溢れている笑顔は好きだが、目が合わない間もずっと旋毛を見られているかと思うと何とも言い難い。

先程の真面目な話よりもつまらなくない?

話もせずに抱き締め合っているだけだもの。

私は……まぁ、悪くは無いわ。

木から落ちて下敷きにしてしまったあの頃よりもしっかりして、服の上からでも分かるぐらいに筋肉が付いてきた。

お兄様みたいに鍛えているのかしら。

鍛練の時間は私が授業を受けている時間と被るから見に行けないのよね。


「こーら、悪戯っ子は大人しく寝て」


胸や腹を少し触っただけなのに……。


「あら、ガンだってよく悪戯してくるのに私は駄目なの?」


不公平なことを言っては駄目よ。


「駄目か駄目じゃないかと言われたら、駄目じゃないけど……」

「けど?」

「理性が試されているって思うね」

「じゃあ、こんな風に触れ合うの止める?」

「それはそれで耐えられない」


我が儘。

気持ちは解るけれど……。

私だって嫌だもの。あなたに触れられないなんで。

理性が試されているのは私も同じ。

精神は十分大人なのよ。経験が無いから、好奇心もあるし。

存分に、理性を試し合いましょ。


私は、ガンに胸を押し付けて、しっかり抱き付いてやった。






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