4、協力者に成り得る者
覚えている限りを日記に書き記す。
思い出したことをその都度書き足していく。
読み返して、今との差を探す。
単純でも、これしか私には出来ない。
単純でも、現実を知ることは出来た。
私の記憶と大差はなかった。
いや、記憶そのままと言っても良いかもしれない。細かなところまで完璧に覚えている訳ではないから。
差があったとすれば、私が違う行動を取ってしまった時に生じた出来事ぐらいだ。
そう、私だ。
お兄様の時も、私ではなかったか?
お父様から話があった時に、食い気味に王都に行くことを喜んだ。王妃という、幼い子が夢見る煌びやかな世界、立場を得られるかもしれないことにも喜んだ覚えもある。
けれど、今の私は迷った。
どうするべきか迷って、応えを遅らせた。
私が不安を感じていることに気付かれたのかもしれない。
だから、お兄様は私を案じて下さったのだ。
気遣って下さったから、違う言葉が出てきた。
王都に行きたいと言ったかつての私に反対を突き付けたのも気遣ったからこそ。軽率に事を決めた私の思慮の浅さを心配して、あの時は反対された。子供の私は意地悪と捉えてしまったのだけれど、今なら解る。
この変化……。
私の行動で、言葉一つで、変えられる?
けれども、私一人では起こせる変化は小さなものばかりだった。
着々と私の王都行きが進んでいると感じる。
積み重ねれば変えられるかもしれないが、今からだと……十年も無い。
城に入るのは二年後。
王妃候補としての教育が始まれば行動は制限され、変化を起こし難くなる。
その前に、私には大きな変化が必要だ。
あの結末には向かわない程の、大きな変化。
それを起こせるのは……。
やはり逢わなくてはならない。
忌まわしい記憶を刻んだ王都にいる、私の運命を変えてくるだろう“力”を持った者に。
あの男なら……きっと、協力者になってくれる。
投獄された私に、唯一「生きろ」と言った者。
接点など無かった。
王妃となり、一度だけ、陛下と共に挨拶しただけの男だ。
それでも、男は「生きろ」と言った。
私の手を握り、懇願する様に涙を流して……。
何故、あの男がそんな風に言うのか解らず、私はあの男に何も返さなかった。
何度も言ってくれたが、陛下の意思を尊重し、塔から出ることを……逃げることを拒んだ。
結局、毒を盛られ呆気なく生命を落としたが。
その後、男はどうしただろうか。
あれも現実とするなら、あの男は私に起きた事実を知っているかもしれない。
今、こうして、ここにいる原因も。
何故なら、あの男は……
魔導大国で最も偉大な魔法使いなのだから。
【危ない魔法使い】