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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
三章
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4、お茶会への招待


招待状が届いた。


人生初の、友人からのお茶会への招待状。

アナベル嬢らしい、見本の様な丁寧な文字で書かれていた。

何度も読み返し、現実だと実感する。


「お兄様!お兄様どうしましょ!」


招待されたら、どうしたら良いのかしら!?

招待状を胸に抱いて、お兄様の元に走った。









【危ない魔法使い】









お兄様に宥められて、冷静になった。


まずは返事を書かないといけなかったわね。

勿論、招待を受けるという返事。


「何、お茶会?」

「ガン!」


書いている最中、後ろからガンが覗き込んできた。

いつ来たのかしら?

今日は来る予定は無かった筈……。

でも、予定に無いからこそ、逢えて嬉しい。


「行くの?」

「えぇ、そう思って、今返事を書いていたのよ。お茶会と言っても、私とアナベル嬢の二人でするものだけど」

「良いと思う。グリーズ家は曲者だらけだから気を付けて」


曲者だらけ……。

ガンにまで言われるなんて余程ね。

少なくとも、アナベル嬢はお父君も兄君も尊敬出来る立派な方だと言っていたのだけれど。

まぁ、よくある話か。

私のお父様もお兄様も他所では変人扱いされているもの。立派な方々なのに、失礼しちゃう。


「ガン、アナベル嬢は……」

「ディナの気持ちは解るけど、前に話したこと覚えているよね」


そうね。聞いたわ。

第二妃……今の王太后に取り入って、貴族となり公爵位を手に入れたアナベル嬢のお父君のこと。

そうなったことで、一族全員が貴族に与したこと。

アナベル嬢自身は貴族派ではない様だけれど、信頼し切るのは危険かもしれないと。

生きることが優先の今は確かに危険だ。


「……解っている。警戒は、忘れないわ」

「おおっぴらに何かされることは無いだろうけど、護身用の魔道具も忘れず付けて行くんだよ」


私の手を取り、指輪型の魔道具が指に嵌まっているのを確認する。

一番、信頼している人の言葉、想いだから……聞かない訳にはいかないわね。

どうせなら、危険にはならない程度に探ってみようかしら。

ガンの役に立ちたい。

グリーズ家は今後必ず私達の脅威になってくるに違いないのだから、何か分かれば……。


「えぇ、私にはガンがいるもの。ガンが、守ってくれるから、きっと大丈夫」


私も護身用の指輪に触れる。

これがあることで気持ちはずっと楽になっていた。


ガンは、少し顔を見に来ただけの様で、名残惜しげに帰って行った。

行き来するのは大変なのに……ガンこそ、気を付けてほしい。


招待への返事は、翌日頼んで届けてもらった。

畏まったお茶会ではないとしても、公爵家にお邪魔する訳で、王の婚約者となったのだから不恰好ではいられない。

カティに相談しなきゃ。

何か手土産も用意するべき?

お兄様に相談して、手作りにするならネヴィルに手伝ってもらうべきね。

警戒はしないといけないけれど、お茶会は楽しみだわ!


かつては、友人はいなくとも王の婚約者、妃という立場からお茶会への招待は受けていた。ただ、例の如く体調の悪さで大半は出られず。王太后主催は流石に出なければならなかったが、体調の悪さに加えて王太后を前に緊張していた所為で楽しんだことは一度も無い。

王太后主催のお茶会の記憶といえば、集まったご令嬢達による私をこき下ろす大会と化していたことだろうか。王太后もそれを止めずに笑っていた。あれは、その為のお茶会だったのだろう。

今考えたら腹立たしい。

今回も他のご令嬢達からの招待は受けてはいない。

王太后主催のお茶会は仕方なく全て出たが、毎回始まって早々にガンが来てくれる。

悪口なんて言っていたら、どうしていたのかしら。

忙しい合間を縫って作った時間に婚約者との仲を深めたいので譲って下さい、と結構強引に連れ出してくれた。

私としては、有り難いのだけど……後が面倒だったわね。ご令嬢達に何度も絡まれたから。

ガンの地位と外見しか見ていないご令嬢は可愛いものだわ。脅威を感じない。

むしろ、何も言って来ない王太后が怖い。

明らかに悪意を持った目を向けてくるのに、何も無い。

かつての方がまだ直接的に言って来ていたからこそ、今何を考えているのか。


あ……そういえば、最後のお茶会の後だわ。このグリーズ家招待は。

やはり、警戒しないと?




「グリーズならお菓子よ!お菓子がオススメ!」

「五月蝿い、追い出されたくなかったら黙って」


うん、五月蝿いし、なんでいるのかしら?

城に行かなくて良い日を選んで、話し易さからネヴィルに相談しに来たのだが、カティがいた。

招待の返事をした後すぐに、カティにはお茶会に着ていく物の相談をし頼んでいた。今は……作っている最中ではなくて?

追い出すと言われ、「はーい」と大人しくなるカティ。

この二人の関係がよく解らないわ。


それはいいとして、手土産の話もしていないのだけど。手土産についてはお兄様に相談してからの予定だもの。

ネヴィルには、グリーズ家のことを相談しに来た。

王太后のお茶会で何度も喧嘩を売っている様なものだから、グリーズ家から何かあるのではないかという心配を聞いてもらっていた筈。


「あそこのと親交があることはあの貉も知っているなら、話は行っているだろうね。だとしても、気にすることはないよ」


王太后を「貉」と呼ぶのは、ネヴィルぐらいではないかしら。怖いもの知らずね。

……気にすることはない、か。


「アナベル嬢は大丈夫だと思うけれど、アナベル嬢の家族に睨まれないかしら……」

「親類筋は良く思っていないから気を付けるべきだが、親父さんは大丈夫。娘に友人がいないことを気にしていたから、君が友人になってくれたこと喜んでいるよ」


剣のことばかりで同年代の同性の友人はいないと言っていた。

私のお父様もお兄様も、私に友人の一人もいないことを気にしていたわね。

アナベル嬢と親交を持ってからは、お兄様は安心した様だし、お父様も手紙で喜んで下さった。

アナベル嬢のお父様もそんな気持ちなのだろうか。

友人として認めてもらえたら、危険性も減る……とは言い難いが、考える余地は生まれるかもしれない。


実際、逢ってみなければ何も解らない。

逢っても解らないことは多いとは思うが、自分で判断する材料にはなる。

グリーズ家のことは、アナベル嬢とアナベル嬢やガン達から聞いたことしか知らないのだから。


アナベル嬢と友人になったことを喜んで下さっているなら、印象を悪くしない様に準備をしなくては!

服は嫌らしさが出ない物を頼んでいるから大丈夫。

挨拶の練習もした方が良いかしら?

手土産はお兄様に相談したら、甘い物を用意したら良いと言っていたのでカティにお勧めの店を教えてもらった。


準備やガン達とお茶会の話をしていたら、意外と早く日々は過ぎていく。


いざ、グリーズ家へ。

意気込み、家を出ようとしたら、お兄様に呼び止められた。


「ディアーナ、これを持って行くと良い」

「これは?」


市で買って来たと思われる紙袋を手渡された。

朝から出掛けたのはこれを買いに行っていたのだろうか。

……ほんのり、香ばしい匂いがする。


「甘い物だけでは機嫌を損ねる大人気ない男がいる。それを渡しておけば悪い様にはされないだろう」


もしかして、私の為に?

でも、グリーズ家の人のことよね。

グリーズ家の者達が甘い物が好きという話は有名な様だけれど、ブランシュ家は長く交流を断っていると聞いていたのに、その人の好みを何故知っているのかしら……。

昔は付き合いがあったのか。

そうだとしても、お兄様は幼かった筈。

今でも覚えていたということ?


「ありがとうございます、お兄様」


ゆっくり聞いている時間は無いから、帰ってから聞くことにしよう。


「では、行ってきます」

「行ってらっしゃい。楽しんでおいで」

「はい!」


今度こそ、グリーズ家に向かう為に家を出て、馬車に乗り込む。

貴族街は少し離れているので、お兄様が用意してくれた馬車だ。

正直、馬車とは相性が悪いけれど、カティに作ってもらった薄紫色の綺麗なワンピースを汚さなくて済むから有り難い。履き慣れない踵の高い靴ではそんなにも歩けなかったし……。


グリーズ家は、流石公爵家というだけあり、立派だった。

馬車のまま門を通され、少し走るぐらいに屋敷までに距離がある。

屋敷も、私の領地の屋敷より大きいのではないだろうか。領地の屋敷は田舎故の広さだけれど、こちらは外壁からとても綺麗だ。

羨ましいとは思わないのが、そこに対して欲が無いのかしらね、私。


屋敷の前で馬車が止まり、外に出ると待っていた使用人に中に案内される。

内装は、思ったより派手ではなかった。

案内されたのは部屋……というより、温室の様な場所で「こちらでお待ち下さい」と言って使用人は下がる。

アナベル嬢が後からここに来るということかしら。

東の方では見ない植物ばかりだ。他の地域のものだろう。幾つかは、以前ガンに連れて行ってもらった商会の支部がある地区で見た気がする。


「おや、お客さんかな?」


植物を見て歩きながら温室を進んでいると、声が掛かる。

見れば、植物に水を撒いている年配の男性がいた。


あれ?この人、何処かで……。






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