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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
41/101

21、変わる関係


抱き締められている。

抱き締められて、同じベッドに寝ている。


ふわふわとした意識だったのに、時間が経つに連れて、はっきりとしてきた。

触れ合う……心地の良い体温に、擦り寄ってしまった胸から聞こえる少し早い鼓動。

私自身も手を動かして、触れた身体は……確かにここに在る。

視線を上げると、そこにはグランの顔。

でも、私の知るグランの薄紅の眸と白銀の髪ではなく、私の知るガンと同じ……薔薇の眸と白金の髪をしていた。

グランが薔薇の眸になる時があったけれど、髪まで?色を、変えていたの?

白銀の髪より……似合ってて、綺麗。


言っていたことは全部、本当?

どうして、今まで言ってくれなかったの?

グランが、ガンだって……。


そうしたら、私は……



私は、どうしていたのだろう?









【危ない魔法使い】









これが現実だと解ると、反対に眠れなくなった。

温かくて心地は良いが、グランに……ガンに抱き締められて、同じベッドの上にいると考えたら変に意識してしまう。

私のことをずっと想っていた?

あの言葉も夢じゃない?

どうしよう……すごく、嬉しい。


……いや、嬉しいのだけれど、今は嬉しいとか言っている場合ではない気がする。

何故、グランとこんなことに?

部屋は、城の、私の部屋で間違いなさそう。

服は……私のだけれど、着替えた覚えはないから……着替えさせたのよね。まさか、グランが?……違っていてほしい。

思い出すのは、もっと、前。

いつの間にか、寝て……気を失っていたのかしら?

確か…………そう、仕事を終えて、酒場から帰るところだった。

セィ達と別れてから一人で路地を歩いていたら、湿っぽさのある土の魔力を感じて。それから、路地の出口が見えた時に、足を泥に取られて、誰かが……。

その後の記憶が無い。

襲われた……のよね?

でも、今、私はここにいて……。


「……あなたが、助けてくれたの?」

「逢いに来たら、まだ帰っていないって聞いてね」


心配して、捜してくれた?

グランが逢いに来てくれなかったら、どうなっていたのか。……考えたくない。

「ありがとう」とありきたりなお礼の言葉しか出て来なかった。グランの胸に額を押し付けて、不甲斐なさに顔を上げられない。

襲われた理由は分からないけれど、気を付ける様にずっと言われていたのにあっさり捕まって……迷惑を掛けてしまった。


グランは優しく背中を叩いてくる。幼い子をあやす様に。もう大丈夫だと言う様に。


「もっと早く逢いに行っていたら、って思ったよ。身体に、違和感とか無い?……魔法を、使われた様だし、何かあったら言って」


そうね。

魔法を使われた。……違和感か、今のところ何も違和感は無い。

「無いわ」と言ったら、ほっとした様に息を吐いたのが分かった。


「それで……捕まえたの?」


犯人はどうしたのか。

私を助けてくれたということは……。


「あぁ、捕まえたよ。夜が明けてから、じっくり話を聞こうと思っている」


じっくり、が強調されていた気がしたわ。

……そう、捕まえたのね。


()()()?」

「二人?」


この反応。捕まえたのは、一人だけ?

もう一人いたことを伝えた。

グランの話と合わせると、恐らく捕まえたのは先に姿を見せた方の男だろう。

もう一人、私の気を失わせた方がいる。

他にもいると聞いたグランは眉を顰めていた。

私には、しばらく外には出ない様に言う。

仕方の無いことだ。

捕まえた男から話が聞けたなら、何か分かるだろう。素直に話せば、だが。


私も犯人の顔を見たいと言ったが、却下された。

まずはグランが話を聞いてから判断するとか。

内容が内容なら逢わせない気だ。

とりあえず、任せるしかないので大人しく頷いておいた。


もう一人を捕まえてはいないことには不安は感じたのに、グランが……ガンがいるから安心はしている自分がいることに気付いて笑ってしまう。

既に夜も更けた時間帯になっているだろう。

そんな時間にいけないとは解っていても、私は今……ガンと離れたくなくて、抱き付いた。元から、抱き付いていた様なものだが、しっかりと意識した上で彼の背中に回してあった手で服を掴んだ。


ずっと胸が高鳴っていて、眠れないと思っていたのに……いつの間にか眠ってしまっていた。


ハッと目が覚めて、真っ先にガンのことが頭を過った。昨夜のことは……と考えるまでもなく、自分を包む温もりがまだ在ること安心した。

あのまま二人共に眠ってしまった様だ。

すぐに近くでも聞こえる寝息に顔を上げると、やはりガンがいた。

羨ましくなるぐらいに癖の無いサラサラとした綺麗な白金色の髪。グランと考えると慣れないが、ガンだと思えば不思議はない。

睫毛も同じ白金色で、私より長いのではと思う。

こんなにも近くで、じっくりと見たのは初めて。

見れば見る程に、綺麗という言葉が似合う男だ。

エオも綺麗な子だが、ガンの綺麗とは違う。ガンの方が、身体の線がしっかりしているのに……壊れ物の様な美しさがある。

幼い頃も綺麗だっただろう。

こんな綺麗な顔を忘れていたなんて……。


でも、もう忘れることは無いわ。

それに……。


「もっとあなたのことを知りたい」


聞いたら、答えてくれるかしら?

またガンの胸に額を押し付け、目を閉じた。



「……僕も、君のことが知りたいよ」

「ガン!」


起きていたの?

顔を上げたら、薔薇の眸が私を見ていた。

……あぁ、寝起きでも綺麗な顔だなんて憎らしい。

自分の寝起きの顔は?

良いものではないだろう。

両の手で顔を覆った。

ついでに、彼の腕の中で動き難いが、背中を向ける。

その所為でほんの少し空いた隙間を埋める様に、ガンが身を寄せてきた。

「どうしたの?」と聞いてきて、まったく乙女心が解っていないわ。

そこはグランらしいけれど、察してほしい。

ガンは察してくれるタイプではなかったかしら?


「こうして朝まで一緒にいられるの良いね」


ああああああああ。

口に出して言わないで!

別に疚しいことはしていないけれど、良くない。いや、同じところで寝てしまった時点で疚しいことかもしれないが。


「君はそう思わない?」


耳元で囁かれて、顔から火が出そうだ。

何も無かったとはいえ、誰かと一晩過ごすなど初めての経験。

これからも、ガンとこうして過ごせたなら、幸せだとは思う。

あ、いや、私は何を思っているのだろう。

何を……。


「ガンと、一緒なら……」

「うん、僕もディナとなら毎日こうしていたい」


抱き込まれたまま、項に柔らかなものが触れる。

昨夜を思い出す感触。

く、口付けられている。項に。

甘く音を立て、二、三度落とされた。

自分がどんな顔をしているのか、分からない。

首を傾けてガンを見れば、「やっとこっちを向いた」と今度は額や鼻先にまで口付けられた。


「一つ、大事な話をして良い?」


甘やかな雰囲気の中、薔薇の眸が一層紅く輝いて、真剣で、でも優しく聞かれる。

私があなたの話、聞かない訳はないわ。




城から出ないことで平穏な日々が続いた。

アナベル嬢からは「これが平穏と言える貴女の感覚はどうかと思うぞ」と言われたが、怪我も無く過ごせているのだから平穏だ。

あぁ、アナベル嬢とは少し仲良くなれたわ。

諦めずに話し掛け続けた結果ね。

諦めないことは大事!

話すついでに、剣の使い方も教えてもらっている。彼女が話すことは剣のことばかりで、私も身体を動かしたかったから。


ソフィア嬢も帰って戻ってきて、教育を再開させた。

これまでと変わらない、立ち居振舞い。

変わったところといえば、ドレスに合わせた肘上までの手袋を常にしていることぐらいで、遅れを感じさせなかった。

ただ、私としては、以前の様な明るい雰囲気ではないのが気に掛かる。

周囲も気付いているが、腕に残った痕の所為だろうと言う。憂いを帯びた表情も綺麗だと、溜め息を吐く者もいた。

確かに元が綺麗な子だから、そういう表情も綺麗ではあるけれど……たまに睨まれることがあって、私はそれどころではない。

()()()は、私が仕組んだものだと思われているのだろう。彼女の周りの人間は殆ど私を未だに犯人だと思っているから。

一度だけ、小箱はどうしたのかは聞かれた。

危ない物だから処分してもらったと伝えたら、それ以降は睨まれる以外は特には変わらない。

ただ、リリアーヌ嬢、ルネ嬢、キャロライン嬢の私に対する態度がこれまで以上に横柄にはなった様に思う。

後少しで教育が終わり、王妃となる者が決まるからか。

彼女らの中ではソフィア嬢が王妃になることが決定しているから、その派閥の自分達は安泰だと考えているのだろう。

実際、ソフィア嬢の評価は高い。

怪我で教育が受けられなかった期間があった分、彼女の優秀さは際立つ。


これを考えると、私の評価も悪くはないのでは?他の貴族のお嬢様方は元々それなりに教育を受けた上でここにいる。田舎の、貴族でも無く、貴族社会の教育も受けていない私とでは開始地点が違うのだから。学習能力は高いと判断されていたかもしれない。

始めはサボっていたから仕方がないとして、人生二度目の王妃教育だもの。長くはなかったけれど、一応王妃でもあった。

精神だけは、もう成人を迎えて何年も経っている。

十代半ばになったばかりや前半の小娘共に負ける訳にはいかないわ。

残り少ない期間だから、ここで一度気を引き締めないとね。

気も抜かなければ、手も抜かない。

あなたの、隣に立つ為に。




結果を出す一月前。

漸く、王太子殿下は、私達候補者の前に姿を見せた。






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