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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
39/101

19、汚したくないもの(side.G)


「お姫様なら、まだ帰ってねーぜ」


ディナの顔を少しでも良いから見れたらと思って来たら、ソファーに我が物顔で座っていた彼は言った。

ディナは確かに部屋にはいなかった。

「まだ授業が?」と首を傾げると、窓を差した。

まさか、外に出たまま戻っていないのか?


「遅くない?」

「そうなんだよなぁ~」


悠長な……。


「だから、お坊ちゃん捜して来いよ」

「言われなくとも行く」


心配していないのか?

期待して良い存在ではないから、何を言っても仕方がないが……。


私はまた窓から外に出る。




……無事でいて、ディナ。









【危ない魔法使い】









王宮から出て、まず酒場に向かう。


彼女のいる場所……と考えて、始めに浮かんだ場所だ。仕事を始めたから、そこには行っているだろうと思った。

酒場で働くのは心配だから出来たら止めてほしいけど、頭ごなしに駄目だと言っても向きになるだろうと思って様子を見ることにしたんだよね。

最近はずっと、彼女に似せて作った、彼が用意した人形を行かせているから油断していた。

聞いていないけど、たまに行っていたのかもしれないと思うと、もっと気にしておくべきだったと少し後悔した。


メインの通りから路地に入った先にある。

一度、行ったきりだが、場所は覚えている。

……近くまで来た筈。

なのに、路地の入り口が見付からない。

もう少し行った先、だったか。

違うな。

北の民芸品を売る店と、古い書を扱う店の間に道が間違いなくあった。

私は、それを覚えている。

だが、通りを行き交う者達が気にもしていない。

違和感を感じてもいない様だ。


……“不自然”に気付ける者は“不自然”だけ、か。


彼が確か言っていたな。

何が“不自然”なのかと笑ってしまいたくなる。

本来、私の感じるものが“自然”で、私が求めるものが()()()()()()だ。

それを、誰が捩じ曲げたのか。


ここで邪魔をしている魔法を燃やしても良いが、人目が有り過ぎる。

魔法が燃えた、なんて有り得ないこと……王宮に知らせが行くに決まっているから、第二妃(はは)は私だと気付く。

反対側に回るか……。どちらも塞いでしまえば、私以外にも違和感を持つ者が現れる。向こうまでは、塞いではいないだろう。

魔法にしろ、魔道具にしろ、周囲に違和感を与えない程のとなると相当精巧なものだ。誰にでも出来るものではなく、誰にでも作れるものではない。

彼が調べると言っていた介入者が関わっている可能性もあるんじゃないか。


……ディナ。


住宅街に回り、酒場に行く道を見付ける。

そちらから入っていく者達に続いた。

だいぶ、暗くなった道を進んで行く。

酒場の入り口は近く、そこに入って行く者達の横を通り過ぎ、一歩道を更に進む。

以前より湿っぽさが増している。

……最近は、雨も降っていなかった筈だが。


私の魔力は特殊でも、炎は炎。

こういった湿っぽさのある場所は苦手だ。

それに、別のものも感じる。


路地の終わりが見えた。

こちらからの見た目は変わらないが、向こうからは分からない様になっているのか。

可笑しいことに気付かせない魔法……どう考えても高度だろ。魔導大国(フィゴナ)の魔法使い達も気付かないものなんて。

ますます、介入者が気になってくる。

見付けることも難しそうだが、彼なら見付けられるだろう。


今は、ここで何があったか、だ。

ディナが巻き込まれているとは言い切れないが、可能性はある。

他人の魔力をはっきり感じられたら、もっと簡単だった。何かがあったなら、魔力の痕跡を追えたのだから。

残念ながら、私は接触していないと他人の魔力は感じられない。


誰かの手を借りようか。


幸い、先程通ってきた住宅街にジェリーとジュジュの家がある。

今の時間帯なら帰っているだろう。


「という訳で、手を貸してよ」

「や、何一つ説明してねぇんだけど?」


早々に住宅街に戻り、ジェリーの家の戸を叩いて引っ張って来た。


「……土の魔力を感じる。後、水気が少し混ざっているから……魔道具かな?」


一緒に来てくれたジュジュは話が早く、そこに残った魔力を感じ取っていた。


「追える?」

「粘着質がある魔力だから大丈夫」

「おい、勝手に話進めんな」


ジェリーは五月蝿いなぁ。


「ジュジュは協力してくれているのに、ジェリーは薄情じゃない?」

「何とでも言え」

「前に殿下が引き逢わせたお嬢様の魔力も感じるけど……」

「しゃーねぇなぁー」

「変わり身が早くない!?」


なんで、ディナのこと聞いたら意見変わるの?

助かるけど、腹立つね。

……ディナ、やっぱり巻き込まれていたんだ。

巻き込まれたというより、ディナが目的かもしれない。

先走る気持ちを抑えて、ジュジュに先導を頼む。


早く、と思ったのは確かだが……。

普段はゆったりと、静かなタイプのジュジュが目の前を素早く駆けていく。

追い掛けるのが大変な程とは思わなかった。

距離を離して、私とジェリーが後を追っていた。


「ジュジュって……あんな、走れたんだ……」

「お前さんの前じゃ機会が無かっただけだ。あいつは昔から速い」


そうだったんだ……意外な一面。

私と並んで走っているから、「ジェリーよりも速いの?」と聞いたら無言で先に行かれた。

でも、私より少し前に行く程度。

もっと先に行ってしまえそうな雰囲気なのに、私を置いて行かない様にしてくれている。

目付きも、口は悪いけど、ジェリーは優しいんだよね。

たぶん、気遣いに欠けるタイプはジュジュの方だ。いつの間にか見えなくなった。

ジェリーには行き先が分かるみたいだから、ジェリーについて行く。

それも魔力を追っているのだろう。


羨ましいと思う。

他は兎も角、ディナの魔力だけでも、感じられたら良いのに……。

そうしたら、ディナに何があってもすぐに駆け付けることが出来る。彼女を、護ることが出来る。


ジェリーと共に追い掛け、ジュジュが待っていたのは王都の西側。

以前、ディナと行った場所に近いが……人のいなくなった地区だ。

随分と長く使われていなかったのが分かる外観の小さな家の前で足を止める。


「……ここ?」

「うん、お嬢様の魔力も感じる」


声を潜め、間違い無いと断定する。

中から人の気配は……感じない。窓から中を確認しようとしたが、窓は曇り見えない。

これも何かで邪魔をしているのだろうか。

全て燃やしてしまいたくなる。

ディナに何かあったら、それこそ……。

何も、まだ無くとも私の炎ならディナだけは傷付けずに燃やしてしまえる。

……けど、煤で汚してしまうだろうな、ディナのこと。それはしたくない。綺麗なままで助けたい。


「……何考えているか知らねぇが、オレ達も協力するんだ。一人で無茶すんなよ」

「頼もしいね」


無茶するな、と言うこの人が一番無茶しそうなんだよね。

期待通りに、扉をぶち破ってくれた。

派手だね。

勢い余って扉の破片がディナを傷付けたらどうしてくれるんだろう。治療したからって許さないよ。

もっと許せないのは……ディナの上に乗っかっているオッサンだけど。

握った拳に()()()が灯って、ジュジュから「落ち着いて」と声が掛かる。

私は、結構冷静だよ?

意識の無いディナをベッドに寝かせ、その上に股がった男が服を脱がそうとしているところを見てもすぐに殴り掛からなかったんだから。


……どう、殺してやろうか。


笑いが込み上げる。

炎を鎮めてから、私達が入ってきたことに驚いて動きを止めた男に近付て行く。。

男は、ハッとした様にディナを引き寄せ、「近付くな」と声を荒らげた。

愚かなことをする奴は何処までも愚かだ。

力が無く、男にされるがままになったディナ。衣服の胸元が裂かれ、白い肌が見えている。

既に、この男は触れたのか?


「手を離せ」


お前の様な人間が触れて良い方ではない。


一度は止めたが、再び男に近付いて行く。

男は大人しく捕まる気は無かった。

鋭く尖らせた凶器の様な乾いた土の塊を飛ばしてくる。

それを少し足をずらし、避けた。

小手先の魔法など意味は無い。


「………………?」


足が何かに取られる。

泥だ。……ジュジュが水気が混じっていると言っていたのはこの所為だろう。

ディナもこれに捕まったのかもしれない。あそこにも土と水の魔力が残っていたから。魔力も使えないディナには逃げられなかったんだ。

もっと身を守れる魔道具を持たせないと……。


男は自分が優位に立ったかの様に笑う。

足を取っただけで?

また、乾いた土の塊を飛ばしてきた。

避けられないと思ったのだろう。

避ける必要も無いのに……。


土の塊は私に届く前に燃え尽きる。


()()()は燃え滓も残さない。それが何だろうと。

足を取る泥も、男が動かそうとする土も全て燃やした。

忌まわしい力だが、彼女を護れるなら私は迷うこと無くこの力を振るおう。


()()()を身に纏う。

身に付けた魔道具達が炎に耐えきれず砕ける音がした。……後で怒られるだろうな、と他人事の様に思い、笑った。

通常の炎に見える様に偽装する指輪型の魔道具もあったから、もう誰の目にも()()()にしか見えなくなってしまった。


目の前の男にも、今は()()()に見えている。

余裕を見せた表情から一変し、怯えを見せた。

第二妃(はは)に言われ隠し始めてから、久しく向けられることのなかった表情だ。

もう苦しく思うことは無いな。これがディナに向けられるなら……違ったかもしれないが。


炎を纏った手を男に伸ばすと、ディナを私の方に押しやり、逃げようとする。

自身を守る為に他人を盾にする様な行い。

許し難いが、ディナがこの腕の中に戻ってきたのだから良い。

「ディナ」と呼んで、抱き締める。

目が覚めていたら、出来ないことだ。


「ジェリー、ジュジュ、捕まえて」


彼女を抱き締め、気持ちを落ち着かせて、すぐ扉の無くなったそこに立つ二人に頼んだ。

返事は無かったが、ジェリーが一発顔面に拳を叩き込むのが見えた。

倒れた男を、ジュジュは魔道具で拘束する。確か止血に使う紐状の、だ。

用意が良いな。


「後でそいつから話を聞くから、何処かに閉じ込めて置いてくれる?」

「分かった。場所が決まったら連絡する」


二人は男を引き摺って行く。


犯罪者として、騎士に引き渡すとディナのことも話さないといけなくなる。

内密にしたくとも、私が関わっていると知れたら確実に第二妃(はは)に話が行くだろう。第二妃(はは)が飼っている者は様々なところにいるから、何処からバレるか。

それなら、この件自体を今は隠しておいた方が得策だ。


ディナのことを第一に考えるなら、ね。






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