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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
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18、現実となる不安


グランと別れたという話は否定しておいた。


が、そうなると、恋人とまったく逢えておらず寂しいのではないかと酔っ払いが絡んでくる様になった。

「俺が慰めてやろうか?」と下品な笑みを浮かべてくるのだ。お父様ぐらいか、それ以上の良い歳をした男達が!明らかに既婚者と分かる者も多い。

腕を掴まれたり、肩を抱き寄せられる。

触らないで!

グランにもされたことがあるが、その時には無かった不快感があり、「いい加減にして!」と声を荒らげてしまった。

私も知る常連ばかりで、笑って「悪い悪い」と返ってくる。

からかわれていただけだったのか。

まったく、男って奴は……。


まったく逢えていない訳ではないのに、急に、グランに逢いたくなってしまった。









【危ない魔法使い】









逢いたいと思ったところで、そう逢えるものではないと分かっている。

そんなに経たずに逢えることも分かっているので、寂しさは特には感じていなかった。

次に逢ったら、ここでのことを話そうか。

いつの間にか、別れたことになっているのを知ったらどんな表情をするだろう?

付き合っていると匂わせたのはグランだから、何かしらの反応はあると思うのだが。


絡んで来る酔っ払い達の手を払い除けながら、注文を聞き、料理を運ぶ。

休憩を挟みつつ、夕方近くまで働いていた。


気になる客が何人かいた。

まず、当初から嫌らしい視線を向けてきていた客。

声を掛けられることもないので気にしなければ良い話だが、視線だけでも気になってしまう。セィや他の店員の子達もよく見られているらしい。若い娘が好きなのか?

二人目に気になったのは、確か前に人探しをしていると言っていた客。

セィ達も噂するぐらいの男前だ。

まだ、ここに来ているということは捜し人は見つかっていないのだろうか?

捜し人のことを語っている時の表情が、まるで恋人を語る様に愛しさを滲ませていたので、秘かに早く見付かってほしいと私も願っている。

次に初見らしい穏やかそうな年配の客。

良い物を身に付けているのが一目で分かる。

貴族にも見えるが、この国の貴族は平民の利用する酒場を好まないから大きな商会の長辺りかもしれない。

そんな者が注文する時に必ず私を呼び止める。

何故、私なの?

他の酔っ払いとは違って、あまり酔ってはいない様だが……。

娘か、孫に似ている、とか?

後は、絡み酒の若い客。

他の酔っ払い達より頻繁に絡んでくる。

問題はその絡み方だ。口説く様なことを言って、セィ達からは「惚れられたぁ?」とからかわれてしまうから大変だった。

もっと大変だったのは、私の恋人と別れていないという言葉は強がりに思われていたこと。しつこい!


私が気になっただけで、そんな客がいたというだけのこと。だが、特に絡んでくる客のことはディルにも注意する様に言っておくべきだろう。


同じ時間に仕事を終えたセィ達とは店の前で別れた。彼女らの住む家は住宅街の方にあり、私の帰る城とは反対側の道になるのだ。

一人になり、途端に静かに。先程まで賑やかな中にいたので、少し寂しさを感じてしまう。

大きな通りから外れた場所にある酒場に繋がる道は、その酒場が目的の客しか通らず、まだ明るい今の人通りは少ない。

この静けさが、寂しさを煽るのか。

遠くに人の声が聞こえる程度で、自分の足音が響く。


………………?


自分の足音に、別の足音が重なって聞こえた。

足を止めるとその重なって聞こえた足音も止む。

ただ、音が反響しているだけか?

また歩き始めるとまた重なり、止まるとそちらも止まる。

誰かが後ろを歩いている?

足音は響くが、ここはそれ程響くとは思えない。

意識すれば、誰かがいるのが分かった。

人の気配……いや、これは魔力だろう。

湿った、魔力を感じた。

通常は余程の魔法使いでなければ、離れた者の魔力を感じることは難しいが、私でも感じられるということは……この魔力の持ち主は故意に振り撒いているのか。

魔力から嫌なものを感じる。

遠回りになってもセィ達と一度住宅街まで行ってから、城に向かう方が安心だっただろうか。

住宅街に向かう方が路地から早く出られるから。

早く、この道を抜けて、人通りのあるところに出るべき?

下手に動いたら、もっと危ないか。

私が魔法を、せめて魔力を使えたなら、不安に思うことも無かったかもしれない。

周囲を警戒しながら、ここから出ることを考える。


……ここは、こんなにも人が通らなかったかしら?


気持ち悪さに加えて違和感まで感じ、足を少し速めた。

まだ明るい時間帯とはいえ、日が沈んで来ている為に路地は薄暗い。元々湿っぽさはあるが、今は更にだ。不気味さも醸してくる。通りへの出口はここより明るいので分かり易いことだけが良いことか。

出口の明かりが見え、人の賑わう声が大きくなっていく。


もうすぐ、出られる。


と思って、また一歩進めた。

……が、何かに足が取られた。沈み込む様な感覚。進めた足だけじゃなく、もう片方の足も沈む。

これは、泥?

先程から感じていた、湿った、魔力か。

水だと思ったのだが、違った様だ。

足を動かそうとしても動かない。


「……誰なの?」


こんなことをするのは……。

護衛や研究などで使用する以外、街中で魔法を使用することは原則禁止されている。

使えても魔道具を通して小規模のもの。

一帯を魔力で充満させ、人の足を取り、拘束する……なんてことは許さない。


姿を見せない者に、問うても返事は無い。

どう、ここから抜け出すか。

持っている魔道具は風の魔道具だけだ。

足を取られた状態では使ったところで浮かべない。

周囲の魔力だけなら吹き飛ばせるが、肝心の泥をどうにかしなくては逃げることは出来ないだろう。魔道具内の魔力量にも不安がある。

助けを呼ぶ為に大声も出すか。

後々、面倒になることは必定。

事件になるのだ。被害者側も調べられる。

外にいる筈の無い王妃候補がこんなところにいるとバレてしまうかもしれない。それは非常にまずい。殿下の役に立とうと思っているのに、反対に迷惑を掛けてしまうことになるのだから。

そもそも、声が届くのか?

夕方になり、酒場に向かう人は増える。前は帰る時に何人も擦れ違ったというのに、ここまで誰とも擦れ違ってはいない。

これも魔法?

魔法で何処までのことが出来るかは未だに未知数。

一人が使える魔力の性質は一つだが、組み合わせることで様々な魔法が生まれている。

何かの魔法で人避けをしたか。

単独か、複数か。

魔道具という形にすれば誰にでも使える様になるから、単独の可能性もあるな。

魔法にしろ、魔道具にしろ、準備は必要だろう。

……計画的なのか。


ただ、足を止める為とは思えない。

ずっとこのままではないだろう。

また少し日は傾き、路地も暗くなっていく。


……漸くか?


足音が聞こえた。

奥から何者かが近付いてくる。

出口に向かおうとして、足を取られているので上手く振り返れない。視線を向けられない訳ではないだけマシだが……。

奥が暗いから、顔は見えない。

男ということは分かる。


「あなた、誰?」


もう一度、問う。

答えは無いが、男が笑った様に思える。

いったい、何が目的なのか。

誰でも良かったのか、私個人を狙ってなのか、も分からない。

その辺にいる平民を装おった私が狙われるとは思えないが……。


男を睨んでいると、ふいに別の魔力?を感じた。

男がいる方とは反対、出口の方から。


「……っ!!」


そちらに視線を向けるよりも早く、背中に衝撃が走る。


……なに?


誰かがいたのだけは分かったが、顔を見る前に私の意識は途切れた。






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