16、美しさの形
立場のあるアナベル嬢が口を出したことで、言い返せる者はおらず。
これで何が変われば良いのだが、リリアーヌ嬢とルネ嬢、キャロライン嬢は不快感を露にしていたので三人や三人から話を聞くことになるだろうソフィア嬢は難しいかもしれない。
でも、私は変わる!
「お友達になって下さい!」
先に席を立ったアナベル嬢を追い掛けて、頭を下げた。
彼女と友人関係になりたい。
「え?いや、悪いが、遠慮する」
なんで!?
断った後、足早に去っていくアナベル嬢は凛として綺麗だ。
かつては諦めたが、今生は諦めないわ!
彼女を絶対に私の友人に……親友にする!!
【危ない魔法使い】
とは言ったものの、相手にされない。
話し掛ければ応えてはくれるが、軽く去なされている気がする。
友人……。
現在はエオがいる。
友人と言うのは正しくはないが、グランや大魔導主もいる。カティやネヴィルとも仲は良好。
だが、同性に、友人もどころか親しく話せる者もいない。
カティは女性的ではあるが、精神面まで女性ではないと本人が言っていたから同性として数えることは出来ないのだ。
かつてもいなかったから、今生こそはと思っている。
のだけれど……。
「お姫様がオトモダチねぇ」
「良いと思うよ?グリーズの公女は取っ付き難いタイプだけど信頼出来ると思う」
なんで知っているのかしらね?
アナベル嬢に玉砕されて、部屋に戻ってきたら居た。大魔導主とグランだ。
一応、女性の部屋なのよ?解っているのかしら?
そこも問題だが、今はそこじゃない。
友人をと考えているだけじゃなく、アナベル嬢に目を付けたことまで知っているなんて……この男共、見ていたのか?
見られていた?断られたところも含めて?
この二人と考えたら、からかっている様にしか思えなかった。
ソファーに置いてあるクッションを手に取り、グランをそれで叩く。「え、何!?」「いきなりどうしたの??」と驚いている。「痛っ」とも言っているが、こんな柔らかいクッションでは痛くはないだろう。
そして、そんなグランを見て笑う大魔導主の顔にもう一つある色違いのクッションを投げ付けた。避けられることもなく、当たった。……あら、珍しい。
大魔導主に呆気に取られていたら、グランを叩いていたクッションを取られる。いや、取られそうになって追い掛けたら、グランの膝の上に上半身を乗り上げる体勢になってしまった。
「悪い子だね、ディナは」
「あなたも十分悪い男よ?」
「それは否定しないけど」
しないのね。
「ディナのことを真剣に考えているよ。からかっていないから拗ねないで?」
「拗ねている訳ではないわ」
素っ気ない返事をしてしまうけれど、私の所為ではない。自分で悪い男だと認めたのだ。
この悪い男に簡単に絆されては今後もずっと絆され続けることになるのだから、それは嫌。
そっぽを向いたら、「困ったなぁ」と呟いているのが聞こえた。
「お姫様は押しに弱いから、もっとグイグイ攻めて落とせば拗ねてても関係無ぇだろ」
大魔導主は黙っていなさいよ。
「攻めていいの?」
「初心だから手は出すなよ」
何か別の話に変わってない?
とりあえず、体勢は直そうかしら。
グランの膝の上から退こうとソファーに着いた手を払われ、膝の上からも落ちそうになる私の背……いや、腰を支え、引き寄せてくる。
前のめりだった体勢が、膝に座る体勢に変わった。
本人も認めた様に、本当に悪い男ね。
「手を出すなっていうのは厳しいかな」
顔を近付けて、そんなことを言う。
「ほんと参るね。……さっきも言ったけど、グリーズの公女は信頼出来るよ。ディナなら良い関係を築けると思うから頑張って」
「分かったわ」
何が参るのか分からないけれど、応援してくれるならその言葉は素直に受け取るわよ。
「ディナにはこれからも力になってくれる人達が必要になる。一人でも多くのね。私が傍にいれたら良いけど、そうはいかない」
「それは婚約者になった時の話?」
「ん~……その時も含めてかな」
それ以外でも?
「運命を変えたいなら、信頼出来る奴は一人でも増やしておけ。……少し厄介な奴が絡んで来ているかもしれねーからな」
「いつも思うけれど、詳しく話せないの?」
「大人の事情」
大人の狡さね。
私も精神は大人なのだけど。
グランのことは何も言わないから、大丈夫と判断しているのだろう。
しつこく聞いても答えてくれる相手ではないから無駄な労力は使わない。
この労力はアナベル嬢と友人関係になる為に使う。
それからは、空いている時間にアナベル嬢を捜して声を掛け続ける日々。
反対に嫌われないかしら?と思ったが、今更だ。
部屋に戻ってグランや大魔導主がいたら、私からその日の報告をした。主にアナベル嬢との進展具合の。
グランからは殿下の言伝てを聞くこともある。私達候補者の成績や日々の様子を聞いている様で、気遣う言葉を下さる。私に贈られる言葉。……嬉しかった。
かつてとは別に現在を記する日記にその言葉を残していく。また、忘れてしまわない様に。
かつては出来なかった語らいもいつかは叶うだろうか?
王妃にはならずとも、ブランシュは古来から王族に支えて来た家だから、何かお役に立つことをしていきたいとは思っている。具体的にはまだ何をとは決めていないが、私もブランシュ。当主となるお兄様にも負けないことを成すのだ。
「また綺麗になったわね~」
また一月程が経ち、採寸に来たカティが開口一番に嬉々として言う。
「ディアーナちゃんを見ていると創作意欲が掻き立てられて楽しいのよ」
楽しそうで何より。
口も動くが手もしっかり動かすタイプなので、助手が新しいドレスを並べる横で、採寸用の魔道具を起動させ、表示される数字を書き留めていく。
魔道具を使って採寸するので、身体に直接触れる必要も無ければ、薄着になる必要も無い。
男性のカティでも問題無く出来る、便利道具だ。
だが、デザイナーなので寸法を知られるのは仕方がないが……恥ずかしさはある。肥っていないだろうか。心配だ。
カティは書き留めてから、それを見て「う~ん」と首を傾げ唸る。
え、やはり肥ったの……かしら?
言ったことが料理人にも届いたのか、素材の味を生かした美味しい料理になったので以前より食が進むのだ。アナベル嬢も言ってくれたおかげだろう。
しかし、少し食べ過ぎてしまった所為か、少し服がキツくなった気がしていた。
不安を抱きながら、カティを見ていると急にカティが助手に声を潜めて指示を出す。
小さくて聞こえなかったが、私のことではあった様で助手の女性に促され、浴室の方に移動した。付いて来たのはその助手の女性だけ。扉を閉め鍵を掛けてから、そこで服を脱ぐ様に言われた。
こちらで改めて採寸する様だ。
何故また?と思ったが、服を脱ぐ際に「それは外して下さい」と言われてしまったので仕方がない。
採寸が終わり、また服を着て戻ると、カティに書き留めた物が手渡された。
「やっぱり」と呟くので、肩が跳ねる。
やっぱり、肥った?
誤魔化していたことに気付かれていた。
「ダメよ?ディアーナちゃん」
「……で、でも、少し肥っただけ、だから……すぐに取り戻せると、思って……」
最近は外に出ていないから、運動不足だから……であって、きっとどうとでもなると思うのだけれど……駄目、なのかしら?
「そうじゃないわ」
「……?」
「無理に胸を抑え付けるのは身体に良くないの。形も崩れちゃうし。……ちなみに肥っている訳ではないから、止めなさいね?」
止めなさい、と言われても気になる。
別に溢れる程の豊満ではないが、脂肪の塊だ。幾ら女性は肉が付き易いとはいえ、付き過ぎると嫌らしさも出てくるから美しいとは言えない。
それを好む者も多い様だが、王と共に国の象徴になる王妃に求められるものではない。成績だけではなく、外見の美しさも評価の対象になると聞いた。
そういった嫌らしさが出ない様にと身体を締めていたのに……。
成長期に変化が無さ過ぎて可笑しいと思われた様だ。城に上がる前からの付き合いになるから。
「衣も整えなければ本当の美しさにはならないのよ?身体に合わない物は健康を害するし、身に着ける物に合わせて無理に締めると身体の調和が崩れて美しくはならない。美醜の感覚は人各々だから一概には言い切れないところもあるけどね、まだ身体の出来上がっていない貴女はダーメ!大人になる前に身体を壊しちゃうわ」
……私を想っての言葉でもある。
今の服を着る為に、また締め付けた胸は先程より少し苦しく感じた。
カティはすぐに何着か手直しをすると言い、後から新しいアクセサリーを持って来たネヴィルにも手伝わせて、終わらせた。
ドレスを初めて作ってもらった時に二人が顔見知りと知ったが、手直しをしている間も気安く話していた。私が体型隠していたこともあっさりネヴィルに伝えられてしまい、ネヴィルにまで「やっぱり」と言われた
やっぱり、と言われるぐらいに隠せていなかったのか?