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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
30/101

10、君だけの“魔”の力


私の、前の王妃も……同じだったかもしれない。


他にも思うところはあったが、一番に思ったのはそれだった。

罪が偽りであるならば、私よりも無念の死を遂げたことになる。腹に、王との子がいたのだから。


だが、民に疑念を抱かせたからこそ、彼女は悪女となり切らなかったのだろう。


私とは違う。









【危ない魔法使い】









繋いだ手に、無意識に力を込めていた。

それ同じぐるい、グランの手も私の手をしっかりと握っていた。


今の気持ちをどう言葉にするべきか、迷う。

内容はとんでもないことだ。

酒場でよく「昔は良かった」と口にしているので、政治に関してはその通りの可能性はある。

貴族達は確実に儲け、民は高い税に苦しんでいるのは事実だ。

だが、王太子の聞いた噂は本当なのか?

私の生まれる前の話で、王族に関わることをおいそれと人に聞く訳にはいかない。批判を口にしたことが密告され、裁かれた例もある。


どう言えばいいか。


第二妃に殿下も強いられてきたなら、今回の王妃選抜も望んだことではないのかもしれない。

第二妃の推す貴族の娘と婚姻すれば、貴族に更に力を与えることになる。子が生まれれば更に、だ。


そうならない為に、かつての私が王妃になったのかもしれない。貴族ではないから。

あの方が望まれたのかも……。


あぁ、そういえば……第二妃も貴族達も私が王妃になることを反対していた。

あの方だけが、私を庇い、守ろうとしてくれた。

何故、忘れていたのか。

けれど、拒絶してしまったことで愛想も尽きたのかもしれない。


「王太子には仲間が必要なのね」


求める力とは、仲間のことだ。

貴族達を退かせたところで、一人では政は担えない。

同じ様に全ての民の為の政を考えられる者でなければ、貴族達がまた口を出してくるだろう。

口を出されても揺るがない者でなければ、同じことが繰り返される。

強行な貴族達を牽制する為には、精神面だけではなく、魔法にも長けた者である必要もある。

王や王妃の時の様に、優しいだけでは戦えない。


「あぁ、仲間になってくれる人を捜している」

「あなたも仲間なの?あなたは貴族でしょ」

「関係無いよ」


……あなたも、優しいだけではいないんだね。

かつては変えようとした、グランの邪魔をしてしまっていたのかもしれない。私が、邪魔を。

それなら、私はここにいない方が……。


「ある人が言ったんだ、『魔導大国(フィゴナ)は苦しむ人々の為に生まれたんだよ』って。それなのに、後から入って来て我が物顔で居座っている貴族が国を好き勝手するなんて間違っている」


ん?……後から?


「貴族が居座っているってどういうこと?」

「この魔導大国(くに)には貴族は居なかったんだよ。……あ、いや、ノワール家だけ建国時から居たな。元は他国の貴族だったが、初代王の思想に賛同して共に国を創ったと聞く。それ以外の貴族は、後から魔導大国(フィゴナ)の豊富な資源に目を付け金儲けを企んだ他国の貴族達だよ」

「知らなかった」

「今じゃ、自分達の国の様に振る舞っているからね」

「違うの?」

「彼らは正式に認められた者じゃない。第二妃が手続きし国民となっているが、魔導大国(フィゴナ)の民になるには……この土地に古来(ふるく)からいるとされる“神獣”から祝福を受けなければならないらしいよ。だから、私も正式には魔導大国(フィゴナ)の民じゃない」


“神獣”の話は聞いたことがある。

美しく、赤い、狼の様な姿をした獣。

元はその獣の土地だったのを、()()()国を建てたのだと。

だから、そこに住む許可が必要なのだ。


「只の伝承だと思っていたけど……」

「この魔導大国(フィゴナ)の、本当の民は生まれた時から魔力を感じられるんだよ。呼吸をするのと同じくらい普通のことらしい。私にはそれが無かった。魔法使いに長年習って十の頃に漸く感じられる様になったよ。何十年修行しても未だに感じられない人もいるから、私は運が良い方だね」

「私、感じるだけなら、たぶん覚えていないぐらい前から……かしら」

「ディナは魔導大国(フィゴナ)の民だってことだよ」

「そう。でも、魔法は……」


使えない。

幾ら感じられても、使えなかった。


「もしかして、使えない?」


あ、……言って、しまったのだろうか。

ここで誤魔化しても疑われそうだ。

頷くと、グランは「そうか」と言っただけだった。


「笑わないの?」


領地の方では馬鹿にする男の子が多くて、幼い頃はよく泣かされていた。


「笑わないよ。なんで、笑うの?」

「よく馬鹿にされるから」

「そいつらこそ馬鹿じゃないの?魔力には種類がある。自分の魔力がどの性質を持った魔力なのか、自分自身で気付いて初めて使える。魔力は、全部で六種類って言われている。火、水、風、土、光、闇。どれも性質が分かり易く出るから、分かり易いんだ」

「気付けていないということでしょ、私が」

「……でも、本当は他にも沢山あるんだよ。その場合は気付き難い。六種だと思い込んでいる人も多いし、はっきりとこの性質の魔力だと言い切れる者がいないから。気付けていないってことは、その珍しい魔力を持っているのかもね、ディナは」


才能が無いから、じゃない?


「“個”性って言うんだよ。六つとは違う固有の性質。たまに被ることもあるらしいけど、その生涯でその人にだけ与えられた魔力も在るという。この世で唯一無二、君だけの“魔”の力だよ」


……素敵だね、と私を見て微笑む。

まるで、私のことを言われた様で胸が高鳴ってしまった。

魔力について言っているのだから、変に反応しない!

というか、この男はこうして女性達を勘違いさせていきそうだな。既に勘違いしている幼気(いたいけ)な少女が居そうだ。

それはいいとして……。


私の魔力が“個”の魔力であるなら、また新しい道を拓くことが出来るだろう。

だが、それなら何故、大魔導主は何も言わない。

珍しく、自身でも気付き難い性質であるが、他の者にも気付かれ難い性質でもある。

それでも、国で一番の魔法使いは、最も魔力にも詳しい者といえる。分からない筈はない。

……大魔導主、いったい何を考えているのか。

最近、顔も見せないし。


兎に角、私が魔力を使える様になるべきだろう。

六種以外にあると知れたのだ。

もっと広く自分の魔力について考えられる。

六種以外かもしれないのだから。


そして、王太子殿下の話を考えると……只、王妃候補から外れるだけでは無事に済むとは言い難い様に思えてくる。生きていられても、不安しかない未来だ。

私に出来ることはしなくては。


「……話を戻すけど、貴族達が正式な魔導大国(フィゴナ)の民じゃないなら……追い出す方法もあるということじゃないの?」


只の伝承ではないなら、民と認められた者のみが持つ()()があるかもしれない。


「それは、考えたよ。だが、何処にもそのことに触れた記述は無くてね」

「なら、獣を捜せば良いじゃない」

「簡単に言うね。お伽噺でしかない存在って言われているんだよ?」


私にもそれぐらいは解る。

あらゆる方法で、赤い獣を捜してきたと語られている。

魔導大国(フィゴナ)は魔法使いの国、魔法も使ってきたのだろう。

他の、魔法も無い国には出来ない方法も幾らでもあっただろう。

だが、見付からなかった。

見付からないまま、不確かな存在になった。


「勿論、本当にいるか分からないものにだけ頼っても仕方がないわ」


実際に存在していても、実体の無いものなら、意思など介さないものなら、そんなものに頼る方が危険だ。


「私、王妃になるつもりはないけど、婚約者までなら付き合うわよ」


婚約から約一年、私が成人するまで。

殿下……いや、陛下の隣に立ち、貴族との結婚を邪魔するぐらいまでならやっても良い。

いや、やらなきゃいけないことだろう。私の死を望む者と逢う為にも。

前と似た様なものだ。

前は体調が悪くて、隣には立つことは殆ど無かったが……今度は回避出来る筈。


隣に立って見せよう。


「だから、殿下に伝えて。私が仲間として協力します、と」


胸を張って、不敵に笑って見せる。


「危ない目に合うかもしれないよ」

「でも、協力してほしいから話したのでしょう?」

「まぁ、ね」

「それに、領地に戻っても穏やかに楽しく過ごしたいの。貴族共に金を毟り取られ続けたら、気持ち良く生きていけないじゃない」


生き残れても、そんな生活を一生続けるなんて堪ったものではない。

私は悠々自適(スローライフ)を満喫したいの!


本音を暴露した。

グランが国を変えたいというのなら、この願いを受け入れてくれるだろう。


返事より先に聞こえてきた笑い声。


「ハハ……いいね。全部片付いたら、私も君に付いて行ってもいい?」


は?

何、言っているの!?

付いて行く……私に、付いて来たいってこと??


「言っている意味、解っています?」

「ディナこそ解っているのかな。私の言葉の真意」


意味深な言い方!

これは別の形の、喧嘩の売り方かしら!??

喧嘩なら買ってやる、と思ったのに……。


繋がれた手は離れないから、もう片方の手で拳を作って軽くグランの胸に押し付けた。

本当は叩き付けてやりたかったけれど……。

押し付けた拳まで取られて、解かれて、握り込まれる。


「もっと、一緒にいたいって想ったのは……ディナだけだから」

「………………」


そんな、優しい声で言わないでほしい。






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