2、幸せを願う
これが、死後に見る夢なのか。
それとも、これまで見たものが夢だったのか。
ふふ……物語に、死後に過去に戻ってやり直すものもあった。
そんなことは有り得ないとは思うのだけれど。
実際はどういったことなのか、まずは私の今を確認してみないとね。
振り返って、もう一度、その景色を見る。
かつては、かつての十二の私は、ここから遠くを眺めていた。
こんな田舎ではなく、もっと……もっと、広い世界を、知らない世界を見たいと願っていた。
けれど、知った世界は、私が望んだものじゃなかった。
「我が儘ね……」
【危ない魔法使い】
我が国フィゴナは、魔法使いの国として知られる魔法に長けた国。
土地もまた魔法に満ち、その辺に生える草木や落ちている小石にも宿っている。
他国の土地にはないことで、魔法の力を身に付け出した国々がそれらを求めて……いや、狙って、というべきだろう。押し寄せてくる。
時には武力を行使して、だ。
その為、国境沿いは特に狙われ易いのだが、フィゴナには周囲を囲む森がある。恐ろしい魔獣の巣窟になっており、他国の者では数分と持たない危険な場所。
それにより、国は護られている。
ただ、所々に穴はある。森の途切れた場所が。
私の家は、この自然に囲まれた国境沿いを治める領主で、その穴を護る役割を担ってきた。
フィゴナで一番、強い騎士の家。
貴族ではなかったけれど、私の自慢だった。
屋敷前に、自分が帰ってきたのだと実感する。
幼い頃は、早くこの家を出ようと考え。
大人になれば、早くこの家に帰りたかった。
これが夢だとして、ここで夢が終わってしまってもかまわない。
今、幸せだと思っているから。
「ディアーナ?……帰ったのか?」
……あぁ、なんて幸せな夢だろう。
お兄様だ、お兄様が目の前にいる。
清く美しい白の申し子。
盲目でありながら、それを感じさせない立ち居振舞い。
私が一番憧れた方。
お兄様の手を握る。私はここにいる、と。
「ただいま帰りました、お兄様」
「お帰り、ディアーナ」
落ち着いた、優しい声にホッとした。
あの頃と変わらないお兄様。
我が儘ばかり言ってごめんなさい。
今の私が言うには、まだ早い。
けれど、あの頃のような我が儘は言う気はない。
私がいなくなった後、お兄様は……家族はどうしたのだろう。
どうなったのだろう。
もう一度、家族との時間を過ごして、私は決意する。
もう、繰り返さない。
この夢がいつまで続くとしても、お兄様たちと幸せに暮らしていけたら……それでいい。
思ってはいても、時は同じように繰り返される。
変える為に必要なことは……。
変える為に、私がすることは……。
我が儘は、また言わねばならない時が来るかもしれない。