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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
26/101

6、忘れない覚悟


瞬き一つした後、何の変哲もない薄紅色に戻っていた。


「あなたの眸の色は変わるの?」

「え?……変わっていた、かな?」

「えぇ、初めて逢った時も、今もあかい色をしていた。それに……」

「それに?」


輝いていた。宝石の様に。

私のよく知る、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と……


()と同じ眸だった」


顔を忘れてしまったけれど、印象に強く残った美しい眸のことだけは忘れなかった。

何故寂しかったのかも忘れてしまったけれど、とても寂しくて哀しかった私を慰めてくれた。


この国でも珍しい「ガン」という名前の、()









【危ない魔法使い】









「……彼」とグランは繰り返しただけだった。

私はその眸のことを聞きたかったが、深く何かを考え込んでしまった所為で聞ける空気感ではなくなった。

魔力に魔法、特殊な体質の者も魔導大国(フィゴナ)では珍しくはないので、()だけが特別ではないのかもしれない。私が出逢っていないだけで。

グランに聞かなくても、王都なら広い範囲で聞いていけば情報を得られるだろうか。

かつて、近い所でしか聞かず、早々に諦めてしまったから……。

現在(いま)なら、広く歩き回れる。


西側の地区を歩きながら、時折思い出した様にグランが説明してくれた。知らないことを知ることは楽しくも、内容としては苦しくもなることもあった。

昼時になると、建物は大丈夫かと思う程に……古びた店にグランに引っ張られながら入る。私も随分お嬢様感覚になっていたのかもしれない。建物は崩れそうで不安な気持ちになったけれど……出てきた料理は領地のシンプルな味に似て美味しかった。城で出される料理は濃い味付けだから、ほっとした。初めて口にした、かつては嫌がらせの一貫かと思った程だった。王都の味付けはそんなに濃くないのに。

グランもこのシンプルな味の方が好きだと言った。どうやら、ミュロス公爵家は味の濃い料理を好むらしい。ソフィア嬢とはたまに同席するから、美味しそうに食べていたのは知っていたが……家族で好みが違うと大変そうだ。

グランの好みがそちら側だったなら、この後の時間は鬱屈していただろう。


「この後も……ロード・ミュロスは時間大丈夫なのですか?」

「なんで、そんな畏まっているの?さっきみたいに自然な話し方で良いよ。グランって呼んで。私も、勝手にディアーナと呼んでいるしね。それに爵位や家の名前で呼ぶとバレちゃうよ?様付けもしなくて良いから」


……ん。御尤である。


「で、では……グラン、と」

「うん、いいね。ディアーナは愛称はある?」

「えっと、友人にはディナと呼ばれています」

「じゃあ、私もディナって呼んで良いかな?」

「そこまで親しくありませんけど……」

「つれないな。なら、これあげるから呼ばせてよ」


指から外してテーブルの上に置いたのは、緑色の石の付いた指輪(リング)


「窓の下に降りる時に使って風の魔道具。帰りにも使えるし、後数回は往復出来るよ。充填したら、幾らでも使える便利な道具(アイテム)


使い捨てではない物なら、予想していた物よりも良い物だ。

充填式は作れる職人が少ないから、貴族ぐらいしか持てない高価な代物。しかも、造形(デザイン)がとても美しい。

こんな貴重な代物を愛称を呼ばせるだけで貰える?「あげる」と言ったので、貸すのではない。

物に釣られるなんて、はしたないけれど……。


「す、好きに呼んで下さってかまいません」

「うん、ありがとう。ディナ」


テーブルの上を滑らせ、私の前に置いた指輪をおずおずと手に取った。

お洒落で、身に付けても良さげだ。

試しに指に嵌めて見ても、良いと思ってしまう。自分に似合うかどうかは別として。


「気に入ったみたいだね」

「とても綺麗……本当に貰っちゃいますよ。後で返せと言われても返しませんから」

「言わないよ。ディナの為に用意したんだから」

「私の為?」

「勿論。私には窓から抜け出す様なやんちゃさは無いからね」


あら、あらぁ?

この公子様はちらほらと喧嘩を売ってくるわね。

望んではいないけれど、生命(いのち)が危険に晒された時には一発ぐらい殴って逃亡しましょうか。


まぁ、貰える物は貰いますよ。

余計な魔法が組み込まれていないかは後で大魔導主に見てもらうことにする。


私の為に、なんて……。

これだけ見目も良い公子なら、人気も高いだろう。他のご令嬢にでも言えば、大喜びしていたに違いない。私の様な擦れた女に言っても面白くも無いだろうに……。

私のことを変わっていると言うが、グランも十分変わっている。


「グランこそ、私への興味からここまで来たのでしょう。お仕事、サボったのでは?」


跡継ぎなら成人前でも仕事はしているだろう。公爵家なら城を出入りする様な重要な仕事を任せられている筈。

けれど、朝から私と共にいる。

報告もしている様には見えなかったのだから、あそこは恐らく放置したまま。

どう考えても、サボりだ。


「ハハ……うん、その通り。後できっと怒られるよ」

「笑い事、なの?」

「今は私がいてもいなくても何かが変わる訳じゃないから」

「……お互い、まだ何者でもないということね」

「何かになれても変えられないこともあるから、今が一番良いよ」


どれだけ考えていても、決めて、事を進めていくのは大人達。

大人と認められる歳になっても、話さえ聞いてもらえないことも少なくはない。

歳よりも身分。身分より歳。

その時々で、相手の都合の良い立場が優先されてきた。

理不尽な世の中。


今が一番良い、と言ったけれど……いつ死ぬか分からない今が嫌。

自分の生命(いのち)も大切な人達も望まない形で奪われたりしない、平穏な暮らしが良い。


「私は何かになりたいし、変えたい。意地でもやってやるわ」

「ディナは強いね」

「強くなりたいだけ」

「そう言えるだけで十分な強さだよ。私は……言葉に出すことも迷っている。変えなきゃいけないことがあるのに、そうする勇気が無い」


強さ、なのかな?

まだ分からない。

グランも変えたいことが、変えなきゃいけないことがある。

どんなことか知らない私が無責任に変えられるなんて言えない。もし、私の……あの未来に繋がることでもあるかもしれないから。

グランはそういう存在。

良く、してもらっても忘れちゃいけないことだ。


「……変えなきゃ、と思うなら、それを忘れないことよ」


多くを忘れて後悔ばかりになった。

かつて、しなくてはいけないことが沢山あったかもしれないのに。

残ったのは、生にしがみつく気持ちだけ。


「今に甘んじて、委ねるだけだと忘れてしまうから」

「なんか、実感が込もっているね」

「あなたが思っているより、濃密な人生よ?」

「聞いてみたいな、その人生」


笑って誤魔化す。

一回死んで、やり直している。なんて言える訳がない。

大魔導主が特殊なだけ。

普通は、頭の可笑しな者と思われる。


……もし、グランが敵にはならない未来があったなら、話しても良いかもしれない。

笑って済まされる気もするが、笑い話になる来になる様に……私は生きる。


話はそこまで。

落ちた気分を高める為に、午後からはもう少し賑わいのある地区に向かった。


魔導大国(フィゴナ)各地の産物が集まる穴場。

主要な通りで扱っている品は王都の為の品物だが、王都を守る様に建つ壁に沿う一帯では各地で必要とする物資を扱っている。

各商会の支部がある場所だ。

持って来た大量の品物を保管する場所であり、商人同士が取引をする場所。

通りでは売られることのない珍しい物も見れるという。


多くの商人が物資を大量に取引をしている合間を進んでいく。


領地(うち)で採れた物や出回っている物もこうして取引しているのね」


わざわざ来なければ見れない活気ある光景。


「ディナ、危ないから前見て歩いて」


周りの様子に目を奪われいた。

グランに腕を引かれ、肩を抱かれる。

何かにぶつかりそうになっていたらしい。

広く取られた道も売り買いされた大量の物資を運ぶので人一人通るのもやっとになる。

確かに、前を見て避けて歩かなければ怪我をしそうだ。商人達の方は大量に積み重ねて運ぶ所為で視界を奪われている。こちらが気を付けなければ。

「ありがとう」と言って離れるつもりだったが、「しばらくこのままね」と離してもらえなかった。

信用が無い。

有るとは思っていないけれど、幼い子供じゃああるまいし。

手を掴まれるより近い。

初心なくせに、こういうことを意外としてくる。初心なくせに。

気にしたら負けな気がしてきた。


馴染みの無い土地の食材や薬草、鉱物、民芸品など様々。

通りにある店にも並ばない物は多く、少量でも売り買いしている物もある。

魔力の効果や魔法を宿した物、込めた物も多いので、見ているだけで楽しい。祭の出店を見ている時と似ている。

今の自分には要らない物でも欲しくなった。

グランも同じ様で、面白そうな物を見付けては腕を引かれた。買おうかと悩んでは買わずに終わることも。

その場で食べれる果物やお菓子は買って二人で食べた。


時間も忘れるぐらい楽しんだのは久しぶりだった。






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