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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
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4、疑心と羨望


翌日には、私に本当によく似たモノを用意してきた。

朝起きた時に目の前に自分がいて、思わず叫びそうになった。叫ばなかった自分を褒めたい。

只の人形という訳ではなく、受け答えも出来る複製(コピー)だ。

優秀でもない求めた私そのもの。


私が心配していた魔法使いに気付かれるのでは、との心配もする必要の無い作り。

流石、大魔導主と言っておこう。









【危ない魔法使い】









使用人が来る前に私は隠れ、複製(コピー)に後は任せた。

支度を済ませ、使用人共々出て行くのを見送り、私自身も支度をする。

簡素なワンピースに、部屋の窓から降りる為のロープ。

城から抜け出す為に用意しようとした魔道具だが、明確な使用目的を示さないと城には持ち込めない物だった。どう説明するべきか。

大魔導主に持ってきてもらうべきだったか。いや、あの男の魔法なら城から抜け出すことも容易だろう。いつもやっているのだから。

だが、複製(コピー)だけ置いて、すでに姿は無かった。複製(コピー)の説明は複製(コピー)自身から聞いたので大魔導主がいなくても困らなかったが、他の頼みが出来ず終い。

結局、外に出る方法は、まずロープで降りるしか無いのだ。


窓を開けて、ロープを垂らす。

前回も無事降りられたのだから、大丈夫だ。

それに、グランはたまたまあの日がソフィア嬢に逢いに来ていただけだろう。ソフィア嬢に確かめると私のしていたことまで露呈してしまうから聞けはしないが。また、見付かることは無い。今回はソフィア嬢も教育中になるから、逢いには来ない。

「大丈夫!」と拳を握った後、窓に足を掛けた。


「何が大丈夫なのかな?」


──え?

目の前に、被さってくる様な影が。


「なっ、なんで……」


いる筈がない。

どうして、ここに……。


影を作っている者は、窓の縁に足を乗せ、驚く私を柔らかな笑顔で見下ろしてくる。


「危険だって言ったの忘れた?」


言われたけれど、何故あなたが……グランが、ここにいるの!?

驚いて、固まっている内にロープを引き上げて部屋の中に落とされてしまう。


「これは危ないから駄目だよ」

「何勝手なこと……」


それで下に降りるのに!

邪魔をするつもりなのか。


「また抜け出すのなら手を貸そうか?安全だよ」

「手を貸すってあなた……」


何を考えているの?


手を合わせろ、という様に手の平を向けてくる。

いきなり現れて、邪魔をするのかと思えば、手を貸す?

戸惑っていると「ほら早く、見付かるよ」と急かされた。

時間を掛ければ見付かる可能性は確かに高くなる。

何人かいるらしい“不自然”を見付けて、生き残る為にここは度胸の見せ所だ。

向けられた手の平に、手の平を合わせた。


手は握り込まれ、引かれる。

浮いた身体はグランと共に、外へ……。

落ちる──と思った。

けれど、優しい風が身体を包み、ゆっくりと降りていく。


「風の、魔法?」

「そう、魔道具の力だけどね」


人の身体を浮かせる程の風は凄まじいものとなるだろう。しかし、息苦しさは感じない。

幾つかの風の魔法を組み合わせた、恐らく人を……生き物を運ぶ為に作られた魔道具。

良い物だ。肌で感じる。安物なら、人の身体に多少害があるから。

不安定な浮遊にバランスを崩しそうになるが、グランがそっと腰に手を添え支えてくれる。

随分と、楽しげである。


先に地に足を着けたグランに続いて、私も爪先からゆっくり足を着けた。

手は握ったまま、腰にも手は添えられたまま。

しっかりと足が着いてしまうまで支えとなり、風も優しく吹いていた。


風が止んでから「安全だっただろ?」とまた笑われて……「ありがとう」と返すしかない。


必要以上に関わりたくはない。

ミュロス公爵家の人間で、ソフィア嬢の兄。

私が怖れている、その時……必ず私にとって敵になるのだから、下手な情など持ちたくはないし、持ってもほしくはない。


だが、今、ここで、城に戻って報告されたら、どれだけ精巧に出来た複製(コピー)も偽物だと知られてしまう。

今だけは味方につけておかねばならないというのに、私は……。


「付いて来ないで下さい」

「何故?」

「何故って……」


迷惑だからに他ならない。

思ったまま、迷惑そうな表情でもしてしまったのか、グランが苦笑する。


「私は気になるんだ」

「何がです?」

「君は魔法を使わないだろう?」

「はい」


正確には使えないのだが。


「そんな君が誰にも気付かれずに城を出入りしているのだから、何処かに穴があるということだ」


……その通り。

少し考えたら、分かることだ。

不味い……。


「国の中枢がそれでは困るんだよ」

「……その穴を閉じる、ということですか?」

「あぁ」


当然のこと。

ではあるが、そうすると私が困る。


「なら、教えたくありません!」


あぁ……駄々を捏ねる子供の様だ。

恥ずかしい!

恥ずかしいが、死活問題なのだ。


「人手を使ってしらみ潰しで探せるんだよ?それだとそこを使っていた()()()の存在も探すことになるかもしれないけれど」

「………………」


警告、なのは理解出来る。

出来ても、今は退く訳にはいかない。


「解りました。教えます。……教えますが、報告するのも、穴を塞ぐのも待って下さい」

「待つ?いつまで?」

「私が候補者としての務めを終えて城から出るまでです」


“不自然”はどれだけいるかが分からない。

城にいる間は、いつでも捜しに行ける様にしたい。

不測の事態もあるかもしれないなら、いつでも逃げられる様にもしておかなければ。


「務めを終えてって……」


目を丸くしている……?

綺麗な顔をしているから、可愛いわね。

別に驚くことでもないじゃない。

以前逢った時に、王妃にはなる気は無いと言ってあるのに。

しばらく沈黙してから、口を開く。


「……分かった。()()()()()()()()()()()()()、なら良いよ。ただ、他に出入りされるといけないから防御壁(まほう)は使わせてもらう」

「それなら……」


私の出入りを可能にしてくれるのであれば良い。

気は進まないが仕方がなく、城壁の隠れた穴に案内する。

穴を見て「こんな大きな穴が……」と眉を顰める。気持ちは解るが、また塞ぐと言われないか、こちらは気が気じゃない。

……言われなかったのは、良かった。


今度こそ、これでお別れだと思った。

しかし……。


「もう私に用は無い筈では?」


外に出ても、まだ私の後を付いて来る。

今日逢ったのは、恐らく、穴の存在に気付いて私を張っていたのだろう。穏便に済まそうとしてくれたことには感謝はするが、用が済んだなら関わらないでほしい。

今は見逃してもくれると思ったのだが……。


「随分邪見にするね。……まぁ、確かに仕事(よう)は済んだよ。だから、ここからは私の興味だよ」


一番迷惑なやつ!


「今日は休みじゃないだろう?バレたら大事になるのに、危険(リスク)を負ってでも外に出る理由が知りたくてね」


危険(リスク)……。

グランに逢った時点で、相当危険なのだが。


「……人捜しをする為です」


全ては話す訳にはいかないが、嘘を吐いてしまうと後々面倒になる。


「そうか。なら、街に詳しい私が協力しよう」


え?付いて来る気!?

あなたと一緒だとあなたがさっき言った危険(リスク)しかないの!!

と、言いたい。

言いたいが、一人では行ける所は限られる。

“不自然”が私の行くのが難しい場所にいたら?

大魔導主は言った。私の逢ったことの無い者にも可能性がある、と。

一人でも多く出逢う為には行かなければならない。

グランは腰に剣を差している。

腕前は分からないが、一応使えるのだろう。

下手に断って機嫌を損ねたら報告される可能性もないとは言えないし、付いて来るならいっそ案内役兼護衛として使ってしまおうか。

運が良ければ、ソフィア嬢やミュロス公爵家、私を良く思っていない者達の動きも分かるかもしれない。


「……では、お願いします」

「あれ?素直だね」

「別に、邪見にしている訳ではありませんから」

「そぅ」


笑うグランに、素っ気ない態度を取る私。


敵になるかもしれない相手だ。

もっと愛想を良くするべきなのに、それが上手く出来ない。

そもそも、私は誰かにそんな可愛らしい態度を取ったことがあったかしら?

覚えが無いわね。


可愛らしい態度で浮かぶのはソフィア嬢だろうか。

かつてを思い返しても、いつも、誰に対しても笑顔で……特に陛下に対しては飛び切り愛らしく笑っていた。性格も良いのだろうと思うぐらいの純真な子に見えた。

毒を盛ったとされ、中枢を担う者達の前に引き摺り出された時に唯一私がそんなことをする筈がないと言った子。

現在(いま)となっては、それさえ疑わしく思えてしまう。


現在(いま)、私は本当に誰かを心から信じているのだろうか?


お兄様達のことも……少し疑っている。

かつて、投獄されてから、家族も私を信じてはいないと聞かされた。

当時は、無実を口にする私の心を折る為の言葉だと思っていた。……思いたかった。

その可能性もあるが、家を守る為に不出来で愚かな娘を切り捨てることは少なくはない。お父様は古来(ふるく)からあるブランシュ家を尊んでいる方だから。お兄様も家を大切にしている方だ。

好きだと、大切だと思ってはいても、私は家族のことさえ疑っている。


そういうところが可愛くないのだ。

態度も才能も、生まれも、ソフィア嬢の様なら、棄てられることは無いだろう。

皆が信じてしまうのだろう。

もしかしたら、嘘さえ真だと捻じ曲げてしまうのだろう。私が陥れられた(とき)の様に。

そこまで愛されることが、少しだけ……。


「あなたの妹御が羨ましいわ」


皆、の一人だろう隣を歩く彼女の兄に言ってしまう。

これは、只の愚痴。






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