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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
23/101

3、“不自然”を“自然”に


候補者達の暮らす宮にも美しく整えられた庭があり、休みの日、時間にはそこでゆっくりお茶をし、散歩が出来る。


厳しいことは厳しいが、休みを取れる様になり、私もその庭を楽しんでいた。

本当は走り回れたらもっと良いのだが、そうはいかない。

「はしたない」の一言で片付けられてしまうけれど、少しの散歩だけでは体力は落ちる一方だ。

たまに外に出ないと、と改めて思う。









【危ない魔法使い】









庭の散策中に、他の候補者達の姿をよく見掛ける。


前からだが、休憩時間は交流の時間にもなるので揃えているのだろう。私は、他の候補者と過ごしたことは一度も無いけれど。

家と家の繋がりを求めるもの、という理由が大きい為に貴族ではないブランシュと繋がりを持ちたいとは彼女らも、彼女らの親も思ってはいないのだ。利は無いと決め付けて。


リリアーヌ嬢とルネ嬢、キャロライン嬢はその良い代表。

公爵家のアナベル嬢とソフィア嬢に取り入ろうとたまに貢物までしている。

しかし、アナベル嬢はそれを受け取らず、どの候補者とも交流はせずに庭の一角で鍛練をしているので取り入るのは無理だった様だ。

殆どの自由な時間をソフィア嬢に費やしていた。


これもその一貫。

また、四人でお茶をしている。庭の中で一番花が……薔薇が美しく咲く場所に椅子とテーブルを用意させて。

彼女らへの使用人達の態度もあからさまだ。

私に出すお茶やお菓子より良い物を出して、媚びている。

特にソフィア嬢に対してだろう。

使用人達も彼女が王妃になるものだと決め付けているので、今の内から気に入られようとしているのだ。

そんな周りの態度にソフィア嬢は笑顔だった。


けれど、四人で話し始めてから、少ししたら表情を曇らせる。

聞き耳を立てるつもりは……無くは無いが、表向きには無いと言っておこう。これも大事な情報収集。


「こんなに近くにいるのに、お兄様が会いに来て下さらない……」


お兄様、と聞いてグランかと思ったが、近くという言葉に首を傾げる。

それに、少し前にこの宮にいたことを考えると妹のソフィア嬢に逢いに来ていたのだろう。

……あぁ、そういえば、ソフィア嬢は……。


「王太子殿下はお忙しい方ですから」

「そうです。ソフィア様に会いたくても、なかなか時間が取れないのでしょう」

「第二妃様も仰っていたではありませんか」


そう、殿下のことを「お兄様」と呼んでいた。

殿下と幼馴染みではあるが、ソフィア嬢の方が二つ歳が下で、親しみを込めて幼い頃からそう呼んでいるのだと聞いたことがある。


「そうですね。我が儘は言えません。お兄様もがんばっていらっしゃるのですから、(わたくし)もがんばらなくては」

「えぇ!ソフィア様」

「殿下の為に立派な王妃様になって下さい!」

「ソフィア様以外の王妃様なんて考えられませんもの」

「お三方共、ありがとうございます。第二妃様(おかあさま)は、ミオンお兄様がこのソフィアを望んで下さっていると言って下さっていますから、今は会えなくても我慢です」


成る程、話の出所は……第二妃か。

前も「おかあさま」と呼んでいたから、話の流れからして間違いない。

ミオン……殿下の名前だったか?

もっと長かった気がするが……。

知っていて当たり前のことだから今更聞けないし、「王太子殿下」が一般的な呼び方だから誰も殿下の名前を呼ばない。

聞いても、大丈夫そうな者はいないだろうか……。


それにしても、殿下がソフィア嬢に会いに来ない?

今ぐらいには一度目の逢い引きがあったと思うが、もっと先だっただろうか?

記憶が曖昧になっている。

確かな日付は覚えていないから、日記には大体で書いているのではないだろうか。

また少し、日記の確認が必要だ。


「記憶と違っている?」


夜、日記を確認していると大魔導主が林檎を食べに来たので話してみた。


「当たり前だろ。違うことしてりゃあ変わる」

「でも、殿下がソフィア嬢に逢いに来ないのは違和感があるわ。昔から、何を措いてもソフィア嬢を優先すると言われているのよ?」

「良いじゃねーか」

「結構、大きな違いよ?あの程度の違いで、そこまで変わるのかしら?二人とは直接関わってもいないし……」


殿下とソフィア嬢の関係を考えたら、違和感のある変化だ。


「“前”とは言っているが、それは()()()()()()()だ。只、時間が戻っただけなら記憶には残らない。まだ起きていない時間に戻るんだからな。記憶に残らないから、人も、あらゆるモノが同じ選択をして、同じ未来に向かう。それが“自然”なことだから。だが、どういう訳か、お前には記憶がある。記憶があるからこそ、同じ行動は取れない。変えたい変えたくないの話じゃねぇ。記憶があるから、同じ行動をしようとしても()()は必ず生じる。意識をしているからだ。その時間において感情が“不自然”に動くから、同じことをしても、言葉にしても、相手方の受け方が変わる。ここまでのお前がしていたこと全てが蓄積されて大きくなることもある」


意外と話すわね。

いや、それは良いとして蓄積もされるのか。

直接関わらなくとも変わっていくこともあるということか。


「だが、気をつけろよ?」


…………?


「お前の知る未来が本来進むべき“自然”な形だ。それに逆らうお前には必ず強制力が働く。“自然”に戻す為にな」

「私が、死ぬ未来にってこと?」

「あぁ。逆らい“不自然”を続ければ、予定された(とき)より先に排除される可能性もある。“自然”であるが為に」

「“不自然”は存在してはいけないの?」


何を以て“自然”で、何を以て“不自然”なのか。

確かに、一度死を体験した私が過去に戻り、その死を阻止しようとしていることは“不自然”なのかもしれない。けれど……生きたいと思うことは“自然”なことの筈だ。望まぬ形で死がもう一度繰り返されようとしているのに、それを受け入れることの方が“不自然”。


「いや、悪かねぇよ。現に“不自然”は存在している」

「そうなの?」

「あぁ、お前の目の前にいるだろう?」

「それって……」


大魔導主のこと?

いったいどういうこと?


「お前という“不自然”を受け入れている時点で俺も“不自然”なんだよ。そして、捜せば他にも存在している。只、気付いていないだけだ。だが、気付かないままいたら“不自然”は“自然”に同化して消えていく」

「消えたらどうなるの?」

「お前の知る“自然”が続くだけだ」

「なら、どうしたらいいの?」

「只、出逢えば良い。逢って、気付けば良い。同じ“不自然”は、同じ願いから生まれた存在だ。お前の生を望む、な。だから、出逢うだけでそいつらはお前と共に生きていく。それをお前が拒まないことだ」

「そんな簡単なこと?」

「そう、簡単なことだ。だが、人はその簡単なことが出来ない」


言葉にすることは確かに簡単。

只、出逢えば良い、なんて……。

人が、王都だけでもどれだけいると思っているのか。もし、王都にいなかったら?

城から出ることも、難しいのに。

出逢う確率を上げる為に、休息日の度に街に出る必要がある。

いっそ、途中で城から放り出される様なことをするべきか?

先程、大魔導主の言った強制力の所為で死が早まったら?

下手をすれば、危なくなる。

候補者に選ばれたとして、貴族ではない。お父様やお兄様とは違い騎士でさえない私の身分は平民のまま。

貴族や王族への不敬と捉えられることになったら、重い罪となる可能性がある。首が飛ぶ可能性が。


「“不自然”は“自然”に勝てるの?」

「勝つ必要は無い。一つの“不自然”は“自然”にとって邪魔でしかないが、同じ“不自然”が幾つもあれば……それは、“自然”なものになるってだけだ。大事なのは、その“不自然”に気付いて主張していくこと。消えない様にな」


“不自然”を“自然”に。

それが、私の生きる道?


「私には時間が無いわ。いつ消されるか分からないことが解ったのだから……あなたの力を借りたい」

「何か考えたみたいだな。言え」

「……私の複製の様なものは出来ない?私が城の外でその“不自然”を捜している間に王妃教育を代わりに受けてくれる存在が欲しいの」

「成る程」


軽く返事が出来るぐらいが好ましいが、人形程度が限界だろうか?

魔導大国(フィゴナ)の民は皆が魔法使いだから、魔力で作れば気付かれるか?

大魔導主は、国一の魔法使いなのだから期待したいが……。


「言い方が悪いな」


え?


「この俺に出来ないことがあると思っているのか?言い直せ」


そういうことか。


「そうね、ごめんなさい。私の複製(コピー)を作って、私が城から出ている間気付かれない様にして頂戴。あなたなら、簡単でしょう」

「仰せのままに、お姫様」


今度の言い方は気に入った様で、口角を引き上げた。

この男への頼み事は、疑問符を付けて言ってはいけない。この男が好むのは率直な、あれをしろ、これをやれ、と言う言葉。ついでに、挑発的な言葉を付け足せばやる気は上がる。

面倒な男だ。


まぁ、私もこの言い方の方が楽しいのだけれど。






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