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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
二章
22/101

2、出逢い


どさり。


落ちた筈だが、思う程の衝撃は襲って来なかった。

それどころか、自分の下に少し柔らかに感じるものがある。

恐る恐る目を開けると、私の下にやはり人がいた。

声を掛けてきた少年だ。

少年とは言っても成人間近に見える。


間近で合う目。

落ちている時に見た眸の色より薄い、薄紅色。

見間違い?


つい、まじまじと見てしまい、怪訝な表情をされる。

いや、これは……。


「重いよ。早く退いてくれるか」


私が悪いのだけれど、淑女(レディ)に対して失礼な言い方。重い、だなんて……。私は軽いぐらいだ。

「ごめんなさい」と一応謝る。

相手が無礼でも謝るところは謝らなければ。


「怪我は無い様だな」

「え、えぇ……」


あら、心配してくれるの?

案外可愛……


「不審者とはいえ、怪我人が出ると事だからな」


くはなかったわ。

見逃してはくれないかもしれない。









【危ない魔法使い】









「それで、君は何者だい?」


立ち上がって、向き合うと早々に聞かれる。

まだ子供とされる年頃とはいえ、城の敷地内に入れるということは身分の高い者だ。しかも、城の中の最も高い身分の者達と関係を持つ。

嘘は必要な時もあるが、今の様な場では身を滅ぼす。


「王妃候補の一人として城に上がりました、ブランシュ家のディアーナです」

「君がブランシュ家の……。だが、何故こんな所で、あんなことを?」

「それは……」


しかし、城を勝手に抜け出したとなんとなく言葉にし難い。言葉にしなくても気付きそうなことではあるのだが。

少年も候補者と聞いたからには気付いているだろう。


「抜け出していたのかい?」


ほら。

素直に頷くしかない。

少し、呆れられた表情をされる。


「バレたら、候補者ではいられなくなるのに無謀なことを……」

「別にいいの。名ばかりの候補者だもの」


それに、王妃になることを望んではいないから。


「名ばかり?」

「体裁の為に私を含めた候補者は集められただけ。ミュロス公爵家のご令嬢が王妃様になるのだと決まっているそうよ」


言っていいか分からないけれど、気分としては愚痴だ。かつてはそう聞いていた。

かつて言えなかった愚痴を、言ってしまいたくなった。


「ミュロスの……ソフィアが王妃?」


公爵家のご令嬢を呼び捨て?

貴族の礼儀では確か、許可を得た者でなければ呼び捨てることは失礼になる筈。

それ程親しい者なのか?

良くない相手と逢ってしまったかもしれない。


つい、眉間に皺を寄せてしまう。

少年は気付いた様で。


「……あぁ、私は……ソフィアの兄だ。名は、グラン」


兄!?

彼女には兄がいた?

幼い弟はいた筈だが、兄までいた……のか。

珍しい色ではないけれど、確かにミュロス公爵家と同じ白銀の髪だ。


尚、良くない相手。

少し足を後ろにずらした。

今更、逃げられもしない。逃げても意味はないが、心情はそうした方が楽になる。距離を空けた方が。

それなのに、目敏く気付き、手を掴まれる。

これは失礼ではないか?いきなり触れるなど。


「それでソフィアが王妃になるのが決まっているってどういうこと?そんな話聞いていないけど」


……聞いていない?

ミュロス公爵家の令息が?

そうなることが当然と思っていないのだろうか。ソフィア嬢は、そう振る舞っている様に思うのに。

「まさか」と少年……グランは口にする。


「彼女は将来の王、王太子殿下の幼馴染みでとても親しくされていると聞くし……殿下がそう望んでおられると」


聞いた話しかないが、親しい者が……恐らく、殿下の母君である第二妃様が言っていたと言葉を濁して高官が言うのだ。

嘘とは言い切れない。


それなのに、ますます訝しむグラン。


「そんなことは言っていない!……と、殿下なら言う。本人からも、聞いたことは無い」


否定までする。

公爵家の令息なら、殿下とも親しい?

ソフィア嬢が幼馴染みなら、このグランも、なのだろうか。可笑しくはない。


「令息が言うのならそうかもしれませんが、私は王妃になる気なんてありません」


裏にどういう思わくがあったとしても、これは変わらない。


「何故?」

「見ての通り、城に籠る生活が私には合わないからです」


少しばかり、土で汚れてしまったワンピース。

私らしさだと見せ付ける。


「……殿下、のことが嫌いだからじゃない?」

「嫌う程知りません」


先程から何が聞きたいのか。

「そう」と考える様な素振りを見せるが、そろそろもう部屋に戻りたい。

本当にバレてしまう。

バレない様に出てきたのに、バレるのは好まない展開だ。どうせなら、バレることを前提に立てた計画の内でバレたい。


「私、もう行っても良いでしょうか?戻らないと部屋にいないことに気付かれるので」

「バレても良いんじゃないの?」


先程はそう言いましたけれども!

やはり、それは……。


「不本意です」

「我が儘だな。いいよ、行っても」

「……あ、その前に、このことは出来れば秘密に」


上手く戻れても、グランが話してしまえば終わる。

「わかった」とあっさりと言うが、本当に信じて良いものか。

……信じるしかないので、一礼して背を向けた。

また、裾を捲って……のところで再度声が掛かる。


「何やっているの!?」

「何って……木を上るのですが?」


正面から中には入れないのだから、木に上って壁に移る以外に帰る道は私には無い。

首を傾げると、盛大な溜め息が返ってくる。

失礼ではなくって?


「危険だろ。さっきも落ちたのを忘れた?」


と言いながら、目を背けている。

何故?と思ったけれど、心なしか頬を赤らめているグランに気付き、私は自分が脚を剥き出しにしていたことにも気付いた。

パッと手を離して脚を隠す。

やはり気にしていたのはそこだったのか、ほっとした様な表情をして向き直った彼に何事も無かった様に今度は私が言う。


「あれは、あなたが声を掛けたから……」

「今回はたまたま私だっただけの話。もし、別の何かに驚いて落ちたらどうする?誰もいない所で起きたら生命(いのち)にも関わるのだから、もっと安全な方法を取るべきだ」

「………………」


そうは言われても……。

せめて、魔法が使えたなら、グランの言うもっと安全に行けるだろうが、その魔法が私には使えない。

魔道具ならいけるだろうから、次から用意するとして、問題は今。

困っていると、グランが笑う。


「バレない様に帰りたいなら手を貸すよ」

「本当ですか!?」


つい、食い付いてしまった。


「実際に手を貸すのは私じゃないけど……少し待っていて」


手首に付けた魔道具らしき腕輪に話し掛ける。

誰かに来る様に言っていて肝を冷やすが、「信頼出来る人達だから大丈夫だ」と。

私としては、あなたに頼ることに心配はあるのだと言いたいところだ。

また木を上ろうとしても止められるのだから、不安はあっても任せるしかない。


程無く、やって来たのは二人組だった。

目付きの悪い長身の男と、平均的な背丈の女の。


「オレらを呼び出すとは良い身分だな」

「あぁ、良い身分だからな!」

「クソガキ……」

「クソガキでも良いから、彼女に協力して?」


グランが私を差すので男達の視線もこちらを向いた。私は、宜しくお願いします、と意味を込めて頭を下げる。

頭を上げた直後に男と目が合う。


「ブランシュのとこの娘か?」


私を知っている?

「はい」と答えると、「部屋まで送れば良いんだろ」と察し良く言ってくれた。

ただ送れば良いのではなく、見付からずにということも理解している。


「彼はジェリー、医師だ。もう一人はジュジュ、ジェリーの助手をしている」

「医師……」


目付きの悪さだけで見たら医師には見えないが、王宮を出入り出来る程に信頼されている者だという。

かつて、王宮の医師には良い思い出は無い。

その医師らの中にはいなかった顔だ。私の知る限りの中には。

知らない存在には懸けてみる価値はあるか。


男が女の方に目配せすると、女は抱えていた鞄を開く。


「中に入れ」

「魔道具だから、お嬢様が入っても窮屈には感じないよ」


あら?女だと思ったけれど、もう一人も男なのか……声が少し低めだった。


促されて、鞄に足をを入れていく。

グランに「ありがとう」と伝えて、中に入ってしまう。

最後に見たグランは笑顔だった。綺麗な、笑顔。……なんとなく懐かしい気がしたのは、きっと気のせい。


ジェリーとジュジュは、確かに私を部屋まで送ってくれた。少し強引な理由ではあったけれど……。

候補者の一人が体調を崩したと聞き、診に来たと私の部屋に入り、他の者が中に入らない様に閉め出した状態で鞄から私を出した。

体調の悪さを演出する為に寝着に着替え、ベッドに入る。着替えは部屋に併設された浴室でした。男の前では私も流石に恥ずかしい。


二人の存在は、私にとって良いものを齎した。

実際にも診てもらった上、話も聞いてくれて、体調を崩した理由を「ここまで休ませずにきた所為だ」と言い、他の候補者と同じだけの休みを勝ち取らせた。

ついでに、「公平に候補者達を審査するなら、同じ時間内で教えるべきだろ」と尤もなことまで言ったので、休み無く厳しくしていた者達を黙らせることにも成功した。


二人とは、この先も良い関係を気付いていきたい。






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