1、悪女と呼ばれる女
悪女として、その国の歴史に名を刻む『王妃ディアーナ』──それが私。
王妃としての義務も果たさないのに新しく迎えた第二妃に嫉妬し、第二妃が身籠ったと知るや毒を盛り第二妃の生命を危険にさらし腹の子を殺した、自分勝手な狂った女。
世間では面白おかしく吹聴されていたことだろう。
事実は噂される内容とはだいぶ違う。
確かに、私は義務を果たしてはいない。果たせる状態ではなかったから。
嫉妬?……嫉妬に狂うほど私は王を知らない。
王妃になる気もなかったのに……。
だから、第二妃にもその子供にも思うところは何一つなかった。
関わることもなかった。
それが、どうして、あの様なことになったのか。
知らない内に罪人となり、陛下の前に引き摺り出された。
陛下はどんな表情をしておられただろう。…覚えていない。
ただ、それ以外から向けられる視線でわかった。私が何を言おうと全て無意味であると。
視線が空気が──私に対する悪意を告げていた。
罪人とはいえ、王族の一員。牢には入れられず、離塔で王命を待つこととなった。
第二妃の生命は助かったが、腹の子は亡くなった。王の子の命を奪った罰となれば、死は免れない。
陛下から毒を賜るか、斬首、火炙り。
どう処断されるか。
待つだけの時間となった。
遅くとも一週間以内に下さると思っていた王命は、十日を過ぎても一月を過ぎても下されなかった。
以降も何も無く、いつ死ぬかわからない恐怖を味わえという罰なのかと思った。
そうして、季節は移ろい、月日は巡る。
二年近くの刻が過ぎ、陛下の真意もわからなくなってきた頃──私は、死んだ。
王命が下されたのではなく、食事に毒が盛られて。
王命であれば、間接的に陛下から毒を賜る。
何の言伝てもなく、食事に盛られることはない。
だから、それは陛下の意に反した行いとなる。
私が王妃になることを反対していた者も多かったのを覚えているから、その誰か、なのだろう。
悪意ばかりを向けられてきたから、誰が毒を盛ったのかはわからない。
私の死で何かが変わったとして、それを知ることも出来ないのなら、私が想いを馳せることに意味などない。
そこにはもういないのだから。
気づいた時には、新しい場所に立っていた。
いや、懐かしい場所、というべきだろうか。
……ずっと、帰りたかった場所、でもある。
叶わないと思っていた。
愛しい、故郷の景色を眺める。
何を信じていいかわからなくなった大人の私の見ていた色を失った世界とは違って、この目には色鮮やかな世界が広がって見えた。
どうしてかはわからないけれど、生命を終えたはずの私は……まだ何もわかってはいなかった頃の十二歳になる年に戻っていた。
もう一度、夢を見てもいいのだろうか──?
【危ない魔法使い】