15、誓いは笑顔と共に
エオが知る候補達の情報は私の知る内容と大差は無かった。
まったく、彼女らに魅力を感じず興味も無かったかららしい。
見目も美しいと評判のご令嬢方が相手だ。幼くとも男。流石に興味が無さ過ぎでは?と心配したのだが、「俺は彼女らよりディナの方が魅力的だと思うよ」と笑顔で返されて……私は狼狽えた。
そんなことを言ってくれるのは贔屓目の有る家族だけだったので、面と向かって他人に言われると照れ臭い。「ディナ」と家族でも愛称で呼ぶことはないから、更に胸をざわつかせる。
こんな美しい少年に言われたのだ。平静を装える強者はそういないだろう。
初めての感覚に戸惑う。
エオとの時間は気を楽にしていられる。楽しさもある。もっと共にいられたら良い、とさえ思った。
しかし、同じ時間を過ごせるのも後少し。
候補として城に上がれば逢えなくなる。
今更辞退は無理だ。
……寂しい。
そうは思っても、時は流れる。
たまに、逢うことを繰り返して、季節は移り変わっていく。
王都でも愛らしい花々が咲く春。
「エオは背が伸びないわね」
「放っておいて。俺もその内目一杯伸びて、ディナのこと見下ろすんだから」
ずいぶんと軽口を叩き合う様になっていた。
エオより背が高くなった私は、隣に立って笑う。
以前、護衛だと思った背の高い女性騎士はエオのお姉様だった様で自身が小柄なことを気にしていた。女の子の方が男の子より成長は早いから、気にする必要はないと思うが……。
唇を尖らせてしまってもエオは相変わらず美しくも愛らしい。
言う通り、数年もすれば私が成長しても見下ろされることになるだろう。大人の私は平均的な背の高さだったのだから。
この少年がどう成長するか、楽しみだった。
城に上がり、成長過程が見れないのは残念。
逢えるのは、候補としての教育時間を終えた十五……いや、十六になる頃になる。
その頃には、エオの背も伸びているに違いない。まだ、伸びていくだろう。
「その頃には、また逢えるよね?」
「……そうだね」
しばらく逢えなくなることはお互いに分かっている。
エオも寂しく感じてくれていたら嬉しい。
「ディナに言えなかったけど、俺……後少ししたら、王都を離れる」
「え?」
思っていたより早い、別れ。
返す言葉が見付からず、俯いて「そう」とだけ答えた。
私の動揺に気付いて、手を握ってくれる。
「しばらく逢えないっていうだけだよ」
「本当にまた逢える?」
王都から離れる。
そのまま戻って来ないのでは、と思ってしまう。
昔、約束をした……彼の様に。
同じ街にいれば、まだ希望を持てたが、離れてしまうとなると不安になる。もうこれっきりになるのではないかと。
けれど、不安を見せる私にエオは笑顔だ。
笑顔で、私の手に口付けを落とし……。
「なら、誓うよ。……我が真炎に」
まるで、この魔導大国の魔法使いや騎士達が、王に誓いを立てる様に頭を垂れる。
【危ない魔法使い】