13、知るべきこと
エオと名乗り合ってからは、たまに街で逢う様になった。
待ち合わせる時もあれば、互いに街を散策している最中にも。
する話は、魔法についてや王都について。ブランシュの領地しか知らなかった私の為と、他の領地のことも話してくれる。そして、今の王族や貴族のことも。
私が生まれる前に若くして亡くなられた王の時代までの実力社会と云われる……平民でも政に関われた頃とは違い、現在は身分社会。貴族というだけで優先される様になっている。
貴族ではあるが、それを語るエオは少し嘆いている様に見えた。優しいこの少年は心を痛めているのだろう。
平民は不満があっても、口にし、貴族の耳に入れば不敬罪として重い罰が与えられる為に誰も口には出せない。富める者がより富む為の政策の所為で貧富の差が酷くなり、貧民窟が増えているという。苦しんでいる者が増え、国が荒れているのだ。
三年後、戴冠を迎える王太子……あの方はどう思っているのだろう。
どう……思っていたのだろう。
今はこうした状態であるなら、かつての私が過ごしていた王都も……いや、魔導大国も同じだったに違いない。
王となった、あの方が知らない筈はないだろう。
私は、何も知らない。
国の状態も、あの方の想いも。
指折りで数えられる程しか逢わず、投獄されてから死ぬまでの数年間逢うことも無かった、あの方。
そんな関係だったから私は薄情にも……あの方の顔も忘れた。一度も呼ぶことの無かった名前さえ。
想うことなど無かった。
まだ何の関係も無くない現在に戻って初めて、こんなにもあの方のことを考えるなんて皮肉な話。
もう、関係を築くことも無いのに……。
けれど、出来ることはある。
私は王妃にはならないが、候補として選ばれている他の五人の中で民を真に想う国母に相応しい者を推せば良い。
とはいえ、どんな人物なのか知らない。
かつては全員と顔を合わせたもの、競争相手だ。本質を見るにはあまりに接点が無く、当時の私には負けられない相手でもあって、素直に人柄を見ることは出来なかった。
私以外は皆貴族。
歳も近いエオなら、知った者達かもしれない。
「エオ、王妃候補の話は聞いたことはある?」
私が候補の一人ということはすでに話してあった。
貴族ではない者が候補に選ばれたことは王都でも話題になっているらしい。身分社会を推奨する貴族間では当然良くは思われていない。
これまで話した内容はその程度。
他の候補について聞いたのは初めてだった。
少し驚いたのか目を丸くしたエオは「興味無いと思った」と言う。
興味が無かったのは確かだ。
街を、国を知り、もう少し知るべきだと思った。
これ以上、無責任な人間にはなりたくなかったから。……結局は自分可愛さだ。
【危ない魔法使い】