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危ない魔法使い  作者: 一之瀬 椛
一章
13/101

12、諦めた筈の想い


何だろう?

そう思った時には、感じた()()は消えていた。


少年は手を離して、笑顔を向けてくる。

今のは……聞こうとする前に、少年が振り向いた。先程、入って行こうとした道の方へ。

意識すると、誰かを呼ぶ声。

反応したということは、それが少年の名前なのか。


「もう行かないと」

「足を止めさせて……ごめんなさい」

「ううん、また逢えて嬉しかったよ」


そして、また……「またね」と言う。

本当に不思議な子。

またがあるなら……。


「待って!……私、ディアーナというの」

「俺はエオだよ。またね、ディアーナ」

「えぇ、また、ね……エオ」


手を振るエオに、私からも小さく手を振り返した。手を振るなんて慣れないことを私がするなんて不思議。

エオは道の先で黒髪の背の高そうな女性と落ち合い、共に歩いていく。騎士の格好をした女性だから、護衛だったのだろうか?

私も護衛達と向き合って、帰ることを告げた。


家族以外と親しく話せたのは久しぶりで楽しかった。

また、があるだろうことを嬉しく思った。

けれども、頭を過った、もう一つのことで少し寂しくなった。

また、と約束して、いつの間にか何年も経ってしまった…………()()()を思い出して。




「この俺に人捜しをさせる気か?」


試しだ。

試しに聞いてみただけのこと。

夜、休む前にいつもの様に林檎を食べに来た大魔導主に。


「さ、捜せるか聞いただけよ……。昔のことで顔もはっきり覚えていない人のことを捜せるか」

「捜せないことはない」

「本当!?」


思わず大きな声を出してしまった。

部屋の外から使用人が声を掛けて来て、周章てて「何でもないわ」と返して控えさせる。

また静まってから、大魔導主を見た。


「本当に捜せるの?私、その人のことをあまり覚えていないのだけど」

「残滓……お前に対するその誰かの想いが残っている。どれだけ時が経とうと消えることは()え。特に人間は想いが強いから、そいつを追えば簡単に見付かるだろうな」

「それなら……」

「想いは当時のものだ。現在(いま)も同じ想いとは限らねえ。それでも捜したいか?」

「ぁ…………」


すぐに、「それでも良い」とは返せなかった。

何年も経っている。

かつての私も、すでにこの歳になった頃には顔も忘れてしまっていた。だから、王妃候補になった時も捜すことなど出来ないと諦めた。

相手も、約束どころか……私のことさえ忘れてしまっているかもしれない。十二まで同じ場所に暮らし続けていたのに、何の音沙汰も無かったのだから。

それで、逢いに行って何を言おうというのか。


「……そうね。きっと、その人は……私のことを忘れているわ」


そう言いながら、まだ少し、諦め切れない私がいた。

かつての私はあんなにもあっさりと諦めたのに……可笑しい。

一度、失くした人生を得られたからかしら……。


自嘲する私を、大魔導主はどう思ったかは知れない。

ただ黙って、林檎を齧っていた。









【危ない魔法使い】






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