12、諦めた筈の想い
何だろう?
そう思った時には、感じた何かは消えていた。
少年は手を離して、笑顔を向けてくる。
今のは……聞こうとする前に、少年が振り向いた。先程、入って行こうとした道の方へ。
意識すると、誰かを呼ぶ声。
反応したということは、それが少年の名前なのか。
「もう行かないと」
「足を止めさせて……ごめんなさい」
「ううん、また逢えて嬉しかったよ」
そして、また……「またね」と言う。
本当に不思議な子。
またがあるなら……。
「待って!……私、ディアーナというの」
「俺はエオだよ。またね、ディアーナ」
「えぇ、また、ね……エオ」
手を振るエオに、私からも小さく手を振り返した。手を振るなんて慣れないことを私がするなんて不思議。
エオは道の先で黒髪の背の高そうな女性と落ち合い、共に歩いていく。騎士の格好をした女性だから、護衛だったのだろうか?
私も護衛達と向き合って、帰ることを告げた。
家族以外と親しく話せたのは久しぶりで楽しかった。
また、があるだろうことを嬉しく思った。
けれども、頭を過った、もう一つのことで少し寂しくなった。
また、と約束して、いつの間にか何年も経ってしまった…………あなたを思い出して。
「この俺に人捜しをさせる気か?」
試しだ。
試しに聞いてみただけのこと。
夜、休む前にいつもの様に林檎を食べに来た大魔導主に。
「さ、捜せるか聞いただけよ……。昔のことで顔もはっきり覚えていない人のことを捜せるか」
「捜せないことはない」
「本当!?」
思わず大きな声を出してしまった。
部屋の外から使用人が声を掛けて来て、周章てて「何でもないわ」と返して控えさせる。
また静まってから、大魔導主を見た。
「本当に捜せるの?私、その人のことをあまり覚えていないのだけど」
「残滓……お前に対するその誰かの想いが残っている。どれだけ時が経とうと消えることは無え。特に人間は想いが強いから、そいつを追えば簡単に見付かるだろうな」
「それなら……」
「想いは当時のものだ。現在も同じ想いとは限らねえ。それでも捜したいか?」
「ぁ…………」
すぐに、「それでも良い」とは返せなかった。
何年も経っている。
かつての私も、すでにこの歳になった頃には顔も忘れてしまっていた。だから、王妃候補になった時も捜すことなど出来ないと諦めた。
相手も、約束どころか……私のことさえ忘れてしまっているかもしれない。十二まで同じ場所に暮らし続けていたのに、何の音沙汰も無かったのだから。
それで、逢いに行って何を言おうというのか。
「……そうね。きっと、その人は……私のことを忘れているわ」
そう言いながら、まだ少し、諦め切れない私がいた。
かつての私はあんなにもあっさりと諦めたのに……可笑しい。
一度、失くした人生を得られたからかしら……。
自嘲する私を、大魔導主はどう思ったかは知れない。
ただ黙って、林檎を齧っていた。
【危ない魔法使い】