11、気付いていない“力”
もっと街を知りたいと思った。
大魔導主に逢いに行った治安の悪い地区。
こんなことが無ければ、知らないままだっただろう。
他にも華やかな王都とは違う表情を見せる場所があるかもしれない。
知って、何かが変わることは無いかもしれない。
王族でもない、貴族でもない、私が大きくは変えられないが、知ることからしか始められない。
「お嬢様、そちらは危険です」
五月蝿いわね。
護衛がいると、思う様に歩けない。
また撒こうかしら?
……いや、次から出掛けることも許されなくなる。
大魔導主の“力”で護衛の目を欺くことは出来ないか。
溜め息を噛み殺して、向かう先を変えた。
そして、行き着いた、ここは居住区だろう。
幾つもの家屋が連なっている。
まだ、活気のある場所の様。
すれ違う者は笑顔だ。子供も元気に駆けている。
更に進むと噴水のある広場に出た。
放射状に幾つも道が伸びていて、一帯の住民達の憩いの場になっている様に見える。
水に足を浸ける者もいれば、長椅子に腰掛け話をしている者、木陰でうたた寝する者もいる。
建物に囲まれた場所だというのに、とても長閑。
王都には、こんな場所もあるのか……。
ゆっくりと、広場を進んで行くと見覚えのある者がいた。
大魔導主に逢う前に、逢った……青みのある黒髪の子供だ。
「あ、そこの……君!」
名前を知らないから呼び止め難いが、子供は振り向いた。
私を見て、覚えているのか、穏やかな笑顔を見せる。
会話……会話をしなければ。
そうだ。大魔導主に取られてしまったが、林檎を貰った。
そのお礼を……。
「この間は、林檎をありがとう」
「また林檎いる?」
腕に抱えた袋からまた林檎を取り出した。
林檎が好きなのだろうか?
袋に沢山入っている様に思う。
けれど、今回は断った。
押し付ける気はない様で袋に仕舞い直し……。
「今日はこの辺りに用事?」
「えっと……王都は初めてで、街を見て回っているの」
「そう。この辺りは人も穏やかだから良いところだよ」
「……君は、ここに住んで?」
「ううん、俺の住んでいるところは貴族街。この先に商店があって、ここを通ると近いんだよ」
良い物を着ていると思ったが、貴族だったか。
それに「俺」と言うことは少年。とても綺麗な子だから、少女だと思っていた。
魔導大国の衣装は性別が分かり難い。私達の様な成長途中の子供は特に。
「貴族なのに護衛は付けていないの、ですか?」
「平気。俺は強いからね。後、言葉は改めなくていいよ」
強い……見たところ剣などの類いは持っていない様に見える。魔力、魔法に長けているのだろうか。
私には無い“力”。
「羨ましい…………っ」
口にしてしまってから、恥ずかしさが込み上げる。
少年はきょとんとした様子で首を傾げた。
「何が羨ましいの?」
「……私には“力”が無いから」
これを言うことに抵抗はあったのに……。
「可笑しいね。“力”の無いヒトなんていないよ?無いと思うのは、気付いていないか……自分の望む“力”じゃないから。本当は誰もが“力”を持っている」
「私にも?」
「うん、きっと……人も羨む“力”があるよ」
「そう」
少年の言葉は私の中にすんなり入ってくる。
まだ、私は自分の“力”に気付いていないだけ。
ふいに取られた手。
他人の身体に勝手に触れることは不躾なことではあるが、嫌な気はしなかった。護衛の方は当然反応したが。
「俺達の中に在る“力”は、自分で気付かないと使えないのだから」
自分の中の、何かが……小さな火が点る様に温かく揺らいだ。
【危ない魔法使い】