18、一抹の夢に想う
風邪を引いたわ。
やはり雪の上に寝転んでいたのがいけなかった。
夜は何ともなかったけれど、朝になったら頭が重くて熱っている気がした。
でも、その時はまだ風邪とは思わなかったから、起き上がろうとしたの。そうしたら、ヘリオが勢い良く戸を開けてきた。
淑女の部屋にいきなり入って来るなんて、失礼じゃない!?
文句の一つは言ってやらないとと口を開こうとしたら、それより早く布団に沈められる。
「風邪引くっ言っただろーが!このバカ!」
起きてすぐ酷くない?
それに何故私が風邪だと解ったのよ!?
言われてから、自身が風邪だと気付いた。
納得もしたから、「違う」と強がることはしなかった。
ただ、バカ呼ばわりは気に食わない。
「失礼ね。礼儀もなってない人に言われたくないわ」
「礼儀なんて教えてもらってねーからな」
「なら、私が教えるわ!まず、淑女の」
「良いから寝ろ!」
起き上がろうとしたら、また布団の中に押し込められた。
「次起きたら強制的に眠らせるぞ」
「すでに強制されているわよ?」
一度目は気付かなかったけれど、その手がとても熱く感じた。よく見ると、息遣いも重い。
「……熱が、あるんじゃない?」
手だけを額に伸ばそうとして、掴まれる。
見せたくない顔、見えてしまうかもしれないものね。
「あなたも寝たら?」
「添い寝希望か?」
「違うわよ」
「そ。じゃあ、お前は寝とけよ」
手は離され、ヘリオは立ち上がった。
今の言い方は自分は寝ないと言っている様なもの。
「悪化しても知らないわよ」
心配して言っているのに、手をひらりと振るだけで流された。
ヘリオが出て行くと、入れ替わる様にお兄様が顔を見せる。「入っても良いか?」と聞いて下さるところが流石だわ。
勿論、駄目とは言わない。
「今日はゆっくり休むと良い」
「はい。……薪足りていますか?」
薪を拾うのは私の仕事だったから気になったのだけれど……。
「昨日は沢山拾って来ていたな。足りるだろう」
「そうですか。良かった」
昨日、帰って来たらグランが驚くぐらい薪を集めていた。大きな山が出来る程に。
流石に、私一人で拾ったと言うには無理があるので、ヘリオやグランにも手伝ってもらったことにはした。
でも、あんな薪の量、本当に落ちていたのかしら?
そう言いたくなる程に多い。
グラン、あんなにも小さな身体で凄いのね。
魔獣の神秘かもしれない。
食事はリュミが作ってくれているところだから、もう少し寝ている様に言われ、大人しく眠りに就く。
ほんの一瞬の様な夢を見た。
幼い私が泣いていた。
ガンに出逢うより前の、だと思う。
『どうして一緒にいてくれないの』と繰り返して、寂しさを訴える。
そこには誰もいないのに、一人で泣いている筈なのに、私はその時二人で泣いていた。
ハッとして、目が覚める。
悪夢、と言う程のものではないのに……涙が流れた。
けれど、不快感も無い。
幼い頃の想い出、なのかも解らない。
私は、いったい誰と泣いていたのか。
もっと長く夢を見ていたら、解ったのだろうか。
それはきっと無理だっただろう。
涙を拭ったすぐ、扉がノックされた。
食事を持って来てくれたお兄様だ。
きっと起こされていたから。
寝ながら泣いていたら、悪夢だと思われるに違いない。
食事を摂りながら、この後のことを聞く。
お兄様は村の者と周辺の森の巡回。
私が魔獣に襲われたので、また起こらない様に様子の可笑しい魔獣がいないか見て回っていた。
リュミは温室を見に外に出ることもあるが、基本家にいてくれる何かあったら彼女に言う様にと。
ヘリオは……もう何処に出掛けてしまったらしい。その辺で倒れていないと良いけれど。
食事が終わるとまた寝る様に言われる。
今度は、たぶん、夢を見なかった。
【危ない魔法使い】