9、求める“応え”
改めて、男を見た。
装飾は少ないが、裾に一重に入った金の花の刺繍には覚えがある。
私の知る、大魔導主の着ていたローブと同じ。
背格好も似ている気がする。
声は……あんなゴロツキと似た口調ではなかったから、この人だとは言い切れないけれど、可能性は高い。
顔を知っていれば、そうだと言えるが、残念ながら知らない。
話し掛けただけで殴っては来ないわよね?
「あ、あの……!」
まずはなんて言うべきか。
いきなり、協力して下さい!では信用が……。
「……なんだ、お前は」
此方を向いた。
聞かなければ、あれが本当に有ったことなのか。
只の夢ではないのか。
まずは貴方が私を知っているか。
知っていたら、あれを知るかもしれない。
私達は、まだ逢ったこともなかったのだから。
「…………私を、知っていますか?」
貴方は、知っているの?
真っ直ぐに、男を見た。
「……それを聞いて、どんな答えが欲しい?」
「え?」
思いもよらない答えに、何も答えられない。
どんな、答えが欲しい?
決まっている。知っているなら何故知っているのか、知らないなら知らないで話して協力を……。
「どう答えたとしても、お前が求める応えは一つだろう」
………………
……そう、だ。
彼からの協力。
私が欲しいものはそれ。
「他は後からどうとでもなる。お前が求めるものを言え」
「……協力、して」
こんな簡潔で良い?
もっと言うべきでは……。
そう思う私を、この俺は否定する。
私の手から林檎を取り、愛おしげに口付け一つしてから懐に仕舞い……。
「御意に、お姫様」
臣下が主に忠誠を示す様に、片膝を着き頭を垂れる。
彼は、私の魔法使いになった。
当代の、最も偉大で……危ない魔法使いが。
林檎一つで……?
【危ない魔法使い】