1/101
0、私の英雄
けたたましい音を響かせ、破られた分厚い石の壁。
空いた大穴、土煙の向こうから現れた者。
黒いローブを纏い、目深に被ったフードのせいで表情の全ては読み取れはしないけれど……意地悪く上がる口角はとてもではないが、囚われの姫を救いに来た英雄のそれではない。
私の腕を掴む男も、周りにいた男たちも、ほんの数秒茫然とした後に、大胆な侵入者を敵と見なした。複数人が迫っても笑みはより深まるだけ。手にした、彼曰く“杖”を、力強く横に振り動かし薙ぎ祓い、高笑いをする。宛ら、魔王のように。
そんな姿を見て笑ってしまう私もどうかしているかもしれない。
決して英雄とは呼べる存在ではないけれど……少なくとも、今の私にとっての彼は間違いなく──英雄、だった。
………二度目の生は少しだけ優しい時間になるかもしれないと、思わせてくれた。
【危ない魔法使い】