69話 ブラックホールトライアングルの戦い3
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「順調です。あと1分で背後に回ります」
福富の解答を実はただ一人、それが古いデータだと見破った奴がいる。叢雲と一緒に居る第1軽巡洋艦船団長だ。
「敵の艦隊が遠ざかるように移動していますでしょ。こっちも軌道修正しなくちゃいけないから」
膝ポケットに突っ込んである算盤を弾いて計算している。叢雲には何を計算しているのかは分からない。
「うん。ブラックホールに対し30度上昇。到着は62秒遅れですね」
「何がうんなのかすらも分からないのですが」
「え?ああ。こいつは東洋の計算機ですよ」
「いや、同じ日本人ですよ。それが算盤なのは知っています」
「ああそうか。これは失礼しました」
再び頭を掻くと、フケがチラチラと舞い落ちる。汚い。
叢雲はその旨を連絡すると、笹本の他に福富もホログラム通信に加わっている。
「これは凄い。計算ピッタリじゃないですか。その方はどんな化け物ですかね」
「算盤お兄さんです。今度参謀府に呼びます」
ここで周回した軽巡洋艦がジュルベーズ艦隊の向こうに出現した。軽巡洋艦からの斉射も開始される。
一方では笹本が揚陸艦のカミカゼ強襲を一旦停止させ、全ての分乗艦と旗艦に一斉強襲できる体制を小島に整えさせた。ジュルベーズがまさか揚陸された艦艇に同士討ちまでする未来を予測できなかったからだ。
「笹本さん、このままでは誰も旗艦に届かないよ。敵の艦船もっと減らしてよ」
小島からの連絡は地味にシビアだ。相手は減らして欲しいかもしれないが、一番まずいのは撃ち落とした艦艇が運悪く旗艦にぶち当たり全員が死亡判定を喰らう事だ。ここで取り逃がすのは世界が納得しても笹本は受け入れられないのだ。
「10分後には何とか」
福富とウルシュラが共にサムズアップしている。
「サムズアップ好きねあなたたち。それしか出来ないの?やってくれるのは確信しているけど」
エチエンヌが思わず皮肉を言ってしまう。二人は聞いていない。もう計算ソフトに沈没後の流動を組み込むのに精いっぱいなのだ。
そこ行くと軽巡洋艦の動きは速い。的確に旗艦付近の艦船を狙い撃って、それでいて旗艦にはその沈没船が当たらない。何をどう計算しているのかは間近で見ている叢雲にも分からない。
「まああれです。広めに計算しているだけですよ」
「何をどう計算しているのか分かりません」
「簡単ですよ。ブラックホールの落下速度と描く放物線、更に激突して2次被害を出す可能性を考慮して、それを追加で同じ計算しておけば良いんですよ」
「うん。半分も分かりません」
「えー」
船団長は何が分からないのかが分からない様子だ。
「計算式が回ってきましたよ。やっぱり化け物ですね」
相変わらず淡々と福富が呟いた。あれから約5分。早くもバージョンアップが完了している。
「出来上がったよ。一発計算ソフトバージョン1.03だよ」
笹本は返事が出来ない。斉射を指示するまでだ。横合いに居るサントスは回避に必死だ。ついでにエチエンヌは大場一家の突入はまだかの催促に対応していた。
「小島さん、突入のタイミングは任せます。残りを同時に仕留めてください」
「分かってるよ。でもまだ厳しいんだよ。私でも旗艦に当てられないよ」
実際旗艦に対しての防御は濃密で、いくらそぎ落としてもどうにもならない様子だった。しかしそれを簡単に済ませる奴らはどこかから現れる。
「駆逐艦出番少ねーな。姉ちゃん」
「そうね。でも仕方ないわ。質量兵器はバランスを崩してブラックホールに引き込まれるそうよ」
「直上からさ。リモート艦だけで質量兵器落とすのはダメなのかな?」
「え?それは爽快でスキっとするけどそれって規律を乱すわよ」
「埒あかねえや。おれはやるよねーちゃん」
「待ちなさい雄哉。お叱りを受けるのも姉弟諸共よ」
その駆逐艦の行動は勝手にも程が有ったが、通信手のミアリー・ラボロロニアイナから報告があり、笹本は知っていた。
「怒らないからやってしまってください」
笹本がその無線に混ざり込み、二人の行動が始まった。やる事は簡単だ。ただリモート艦をジュルベーズの真上に移動し、ナハトドンナーミサイルを自由落下させる。させた後から計算ソフトが上手に旗艦に傷をつけないように誘導するのだ。
「多分100機で一度に全部落とせば16秒突入チャンスが出来ますね」
相変わらず軽巡洋艦の船団長がサラリと答える。その算盤片手の呟きは叢雲が各所に連絡している。雄哉と霙、そして小島。更に笹本の元にも。おおむねこの宇宙論大好き算盤王子の言う事を聞いていれば間違いはない。それは雄哉と霙にも見当がついているようで、両者から55機の駆逐艦が放たれ、そのように実行した。
亀甲隊列のように密集した敵艦の群れは、いつかの時のようにナハトドンナーミサイル1発で10隻以上の艦艇を薙ぎ倒した。どうもジュルベーズは自艦隊の損害なんて考慮に入れていないようだ。半ばブラックホールに捕まった状態で、国家からも半ば見放され、挙句の果てに騙し討ちの会場に足を踏み入れ、現状逃げ出す事もいつかみたいに自決テレポートも出来ないのだ。
雄哉と霙が仲良く放ったナハトドンナーミサイルの自由落下攻撃はものの見事に殻のような艦船の群れに大きな穴を開けてくれた。旗艦が見える。
「今こそ行っちゃうよ!!」
やけに陽気なトーンで小島が各揚陸艦に突入の合図を出す。設計がしっかりし、操作性が格段に向上した揚陸艦が多数敵の指揮艦、分乗艦に世界が言うところのカミカゼ。第6艦隊の言うところの衝角戦を仕掛ける。次々と揚陸艦がぶち当たり、その瞬間に多数の敵艦船がリモートを外れてブラックホールに落下していく。何隻かはリモート艦への通信機能にぶち当たったようだ。
大場一家もここで突入を開始する。今回全く意外だったのだが、エチエンヌが突如テレポーターゲートの向こうに消えた。実の所分乗している上に各艦船の船団長も多数乗りこんで行ってしまった為、大した敵も現れなかったのだが、ジュルベーズの抵抗だけは強烈だった。
持っている散弾銃や拳銃で迫るAI歩兵を撃ちまくり、空になった銃を接近してきた大場霰に投げつけ、そこいらに有る本やペンまで投げつけて抵抗した。霰はそれを躱す事しかしていないが、そこに切り込んだ者が居る。
「おんどりゃウッシャー!!」
エチエンヌがおかしな掛け声をあげながら駆け込みながらジュルベーズにパンチを食らわした。元々そのような事をする女性でもないエチエンヌのパンチは力は籠っておらず、そのまま体当たりになってもつれ込んだ。
「貴様のせいでフランス人がどれだけ肩身の狭い思いしてると思ってんだくっそがぁ」
そのまま平手打ちでボコボコにし始める。
「なんて掛け声してんだ」
思わずアリーナがぼそりと言った。
「助走をつけて殴るって表現はたまに聞くけど実践したのを見たのはこれが初めてです」
思わず小鳥遊も呟く。
このエチエンヌのパンチがハイライトの1枚目に来ているものだから話題になっている。着々と決着が着き、敵の艦船がブラックホールに呑まれる中、エチエンヌの行動は『参謀府の激情家の常識人』という矛盾した二つ名を与える結果になった。
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