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41話  陳興道会戦2

 見つけてくれてありがとうございます

「なあおい。これがアイツのエンブレムなのか?」

 指揮艦を失ったへぼな提督の残骸は放って置いて第6艦隊は一旦全軍合流し敵が3艦隊集結しているところに向かう。その時笹本はパラメスワラでコテンパンにしてやったスターク提督のエンブレムを見かけたのだ。赤地に黒でDiabetest(糖尿病)と書かれたそれの事を誰ともなく聞いてみたのである。

「そうなんじゃないかな?知らないけど」

 答えを返したのはウルシュラだった。

「自分の病名をエンブレムにする?普通?」

 エチエンヌ・ユボーも呆れている。今回このスタークはベトナム宇宙軍が相手するので笹本達には関係は無いが、あっという間に艦隊を恢復出来る工業力的な物には恐れ入ってしまう。

 

「で?スタークは置いておいて次は誰を狩るんだい?」

「この突撃馬鹿っぽいテプラーさんって便利そうだよね」

「戦歴が有るのは稀有な例ですね。ニュージーランドパトロール艦隊、パプアニューギニア哨戒艦隊、先程ベトナムパトロール艦隊を。全て突撃で倒していますね」

 各務原の解説は抑揚が無い分聞き入れやすい。ちなみにパトロール艦隊とは、通常の艦隊の10分の1程度の規模しかない。しかしテプラー提督にしてみたら突撃こそ至高の戦術になってる可能性は有る。

「今回もコイツ突撃で来ると思うんだよね。そこでサントス、がっちり防御頼むね。戦えなくなるまで攻撃させよう。それと突撃が嫌がるのは側面攻撃だね。叢雲さんとユボーさんはあそこら辺の星に伏兵して側面を突いてください」

「了解です」

「全くあなたって人は騙し討ちしかしないのね」

 叢雲の士気も充分に上がっている。エチエンヌ・ユボーは苦い事を言わないと調子が悪くなる病気なのかもしれない。

「それは良いですね。作戦名は『君が泣くまで騙し討ちをやめない』作戦で行こう」

「焼肉食べたいです先輩さん」

「叙◯苑ではありません!」

 すっかり古典サブカルのツッコミ役になった各務原のツッコミが笹本にとっては奇妙に心地よい。


 その間も早速機動防御円陣を敷いているサントスは実に真面目な好人物だと言えるだろう。

「ケンジ、配置は終わったよ。で?なんで焼き肉なんだい?」

 サントスも本当なら話に加わりたかったらしい。

 

 敵3艦隊が整然とやって来る。笹本独りならお手上げ状態な見事な艦隊運用だ。しかし乱れる時は必ず来る。サントスが演出する宇宙円陣の運用の方が一枚も二枚も上手なのだ。徐々に後退しながら。斜めに下がりながら。そして敵の主砲斉射を巧みにかわしながら叢雲とエチエンヌが待つキルゾーンに誘導する。しばらくすると案の定テプラーが動き出した。突撃をかけながら態々(わざわざ)無線連絡までくれた。

「討ち取られろこのドブネズミ!」

「たまに聞くけど使い勝手の悪い悪口ですよねドブネズミって罵倒。殺鼠剤(さっそざい)ならお近くの薬局薬店でどうぞ」

 思わず笹本は返答してしまったが、相手のテプラーが逆上してどんどん突撃してくれているのは笹本にとっては楽でいい。サントスは若干大変そうではあるが。

 大変な時間は長くは続かなかった。サントスが巧みな後退戦を演じている内にテプラーはきれいに罠に嵌った。

 衛星の陰からまず軽巡洋艦から攻撃が始まった。

「斉射!」

 エチエンヌ・ユボーの号令一過軽巡洋艦が満を持して主砲を放つ。軽巡洋艦は重巡洋艦に比べ脚が速く、高速戦艦の速度に充分追随出来る。その反面主砲が若干貧弱で威力不足は否めない。しかし今回は側面攻撃な上に充分に距離を詰める事が出来た。不足感のある斉射が今回に限っては充分な威力を発揮する。

 斉射が放たれると同時に高速戦艦も敵艦隊に襲い掛かる。

「殲滅してください」

 叢雲の号令一過高速戦艦が電磁レーザーを乱れ討つ。その攻撃回数は叢雲自身お気に入りだ。

 目の前で多数の艦船が吹き飛びひしゃげ、更に多数の艦船が轟音と共に吹き飛ぶ。本隊である笹本とサントスはそれでも攻撃に転じることが出来ない。比較的至近距離に他の2艦隊が居るので防御態勢を維持するしかないのだ。

 その攻撃力不足が仇になってしまう。せっかくのロケーションのさなかにテプラーはとんでもない事をしでかした。敵前で一隻だけで回頭をし出したのだ。

 本来ならこれは最大の悪手だ。敵前で回頭なんて海戦ならいざ知らず宇宙戦ではあり得ない。何故なら宇宙向けの戦艦は真正面から撃ち合う事を大前提としており、前面が固く、側面は武装も装甲も薄めになっているのだ。しかし今回第6艦隊にそれを咎める手段がなかった。

「あの艦に向けて電磁レーザーの集中砲火を」

「無念ですが届きません」

「第2斉射を!」

「まだエネルギーが充填出来ていません」

 やっとそれに応じれたのは笹本達の本隊だった。

「何か当てて!」

 笹本の声に応え、何隻かの駆逐艦からナハトドンナーミサイルが放たれ、比較的至近距離で爆発してはくれたが、生憎撃沈には至らなかった。リモート艦は徐々にコントロールが出来なくなり沈黙し始めた。

「くそ。長蛇を逸したか」

「確かに蛇行長蛇(だこうちょうだ)陣形でしたね」

 この時だけは淡々と答えた各務原に笹本は一瞬イラっとしたが、これこそが若干コミュ障各務原の本領発揮って言えば言えると思い、切り返した。

「まあ、陣形はどうあれあんな奴長い蛇でもないか」

「はい。小物です。精々ミミズ程度です」

「ま。あの一隻逃げても誰かに捕食されるだろうな」

「はい」

「気を取り直して行こう。後退しながら防衛陣形を解除。各艦魚鱗陣に移行。航宙隊は発艦を開始していきましょう。多分今回はお楽しみもきっと有ります」

 『おー!』

 『やったるぞー!』

 『(たま)とったらー!』

 航宙隊が元気よく飛び出してきた。若い子が多い航宙隊は元気が有って良い。後退しながらの追いかけっこはあっという間に恒星チャン・フン・ダオの向こう側に移行している。

 陳興道(チャン・フン・ダオ)とは陳朝ベトナムの公子の一人で、ユーラシア大陸を席捲した元王朝と戦う事3回。全てに勝利したベトナムの英雄の名である。

 彼の戦い方は騎馬が苦手とする密林をひたすらヒットアンドアウェイで徒歩で駆けて相手を削り続けるという戦い方だったらしい。まさに今恒星陳興道(チャン・フン・ダオ)をその英雄の如くに第6艦隊は駆けているのである。

 読んでくれてありがとうございます

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