24話 その名は『暗幕の戦い』
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航宙機はその足取りの軽やかさが自慢だ。巡航速度を平気でついて行き、武装によっては急な戦場でそのままの速度でやり合える。ただし航続距離が稼げない為、巡航速度時や外宇宙航行時に直援などはしない。
その航宙機の先駆けをしている連中が早くも敵艦に纏わりつく。武装がまちまちなので相変わらず攻撃はバラエティー豊かだ。
第62艦隊の残党、もはやシュルツ艦隊とでも言うべきか。の足取りが鈍る。目の前や脇合いに航宙機が集るだけで戦艦や巡洋艦には地味に脅威になり得るからだ。ダメージを受けたリモート艦はバランスを保つ為に速度が鈍るし、コントロールアウトした艦船を避けなくてはならなくなるからだ。
それでも彼我の距離が徐々に縮まり、お互い一斉射の距離が近づく。
「サントスさん、斉射直後の回避、頼って良いですか?」
叢雲の問い合わせにフランシスコ・サントス・マイア参謀が胸を張って答える。
「任せてよサナエ。こちらの被害を多分20隻以内に納めてみせるよ」
「助かります。あとどのくらいですか?」
「斉射射程まであと12秒」
「14秒で頼むよ」
時間を割り出したのは航海長のフセイン・ゼルコウトで、時間を指定したのはメンテナンス担当のウルシュラ・キタだ。
叢雲は始まるカウント読み上げを聴きながら理解した。足取りが更に鈍るから2秒追加した訳かと。ならばそうした方が良いのだろうと。
カウント14秒目に叢雲が動いた。
「斉射!」
お互い一斉射がほぼ同じタイミングだったのを見ていたサントスが回避を指令する。
「上へ!」
何本ものビームが虚空を劈き暗闇に艶やかなラインを形成する。これが戦場で無かったならばどれほど美しい天体ショーかと見紛うばかりだろう。実際には脱出用テレポーターが頭に点灯していなければバタバタ人が消えていく恐怖の光なのだが。
サントスの守備はやはり見事なものだ。全乗組員がサントスに従えば間違いないと知っている為、回避の動きもスムーズだ。
「良いですね。皆見事な回避だよ」
サントスが回避を誉めた。
「全く嘆かわしいわね。第6艦隊は回避ばかりが巧くなるって言われちゃうわ」
エチエンヌが満面の笑みでエスプリジョークを放つ。
「被害報告沈没5、小破損壊6。死亡判定無し。ケガ人……1?誰だい?」
「あー。儂じゃ。今の光にビックラして腰抜かして尻もち突いた。イタタ」
尻餅ついた軍医ドルチトドエンが照れながら答えた。
「軍医ーーーーーーーーー!!」
「ドクター、身体は大事にした方が良いですよ。どうぞご自愛下さい」
艦内で一番手持無沙汰なグェン提督が手を差し出して助け起こした。
「ミアリーさんは通信補助具を付けてください。無線封鎖解除。有線ケーブルを巻き取ります。索敵担当に連絡。全員帰投せよ」
「ひゃい!」ミアリー・ラボロロニアイナは返事とも悲鳴ともつかない声を上げて補助具を被った。これが無い場合余りに過多な情報に頭の方がパンクしてしまうらしい。
突如始まる5枚のハイライトはどれも見どころ満載だ。呑気に見ている暇なんか無いのが残念なほどだ。そんな中3枚目と4枚目が他と違って圧巻だ。3枚目はアリーナが航宙機と連れているリモート機を巧みに扱い、ロケット弾9発でリモート艦の艦橋部分を破壊し、最後の1発だけ器用に艦の船首より少し手前に当て、コントロールを失った艦が回転運動をし出す様子を映し出し、4枚目は小鳥遊高尾君がエンジンにロケット弾を叩き込んで、その爆風でドロップアウトした艦が他の艦に衝突しているシーンである。
艦内の無線も結構な盛り上がりを見せている。
『解除』
『解除』
『いやさ無線封鎖されてる間にもう敵こんだけしか居なくね?』
『あ。やっぱそう?コイツラが俺らの昇給と賞与なんだよな?なんか少なくね?』
『いやお前らは良いよ現場にいるから。オイラ帰投中やぜ』
『ちょっと待てや!航宙隊は良い仕事してるよ。問題は俺ら船団長や師団長だ。今からでも一隻でも落とさないとさ』
『そうだな!急げ!獲物が無くなるぞ』
やおら艦隊の動きが速まり、何でもかんでも撃ち始める。実のところ初っぱなの叢雲の演説が高い効果を上げていたのだ。素敵な休日の為に、無名の英雄たる為に、給料や賞与の為に。
一人ひとりの思いは違えど、第6艦隊のかなりの乗組員がやる気に満ちていた。今までは無線封鎖がそれを個人の胸に留めていたのだが、解除してみれば皆同じ気持ちでいた事が分かり、今更ながらのヒートアップが始まったのだ。誰が言い出すでもなくそれは突撃に昇華していく。
慌ただしい中無線もやってくる。
「笹本さーん、酷いですよー!私単なる置物じゃないですか!」
無線に顔まで入るからすぐ分かる。第7揚陸艦船団長の小島鼎だ。モデルみたいな体幹と顔立ちだが意外と短気だ。
「徐々に接近して突撃だっけ?やれば良いのに」
「みんなケリつけるんだもの酷いですよ」
「言われてみれば……そうだね」
「もうやるよ!殺るからね!」
そう言い残して無線を切った。アレか。アレをやる気なんだろうなとは分かるのがまた困ったものだ。
戦場も慌ただしい。接近し過ぎた軽巡洋艦の艦橋を敵の電磁レーザーが掠めた。中には船団長しかいなかったようだが腕に何か破片が突き刺さり出血している。そんな船団長が艦内の空気を漏らさないように応急接着パッチがふわふわ飛び交う中激高した。
「怯むな!突き崩せ」
その艦が逸れこそありったけの武装をそこいら中の敵にバラまく。主砲の実弾、電磁レーザー、高角砲、側面機関砲、対航宙機機銃、果てはAI兵には手持ち式ロケットバズーカーに重機関銃。もう意味が有るのかも分からない。しかしやりたくて仕方がないような奴も居る。どんな子なのかと見てみればマレーシアの男の子だそうだ。それは必死にもなるだろうと笹本も得心した。そのハイライトでは早くもさっきまで尻もち突いて痛がっていたドルチ先生が手当を始めている。
艦船はどんどん前に出ていく。もはや行かざるを得ない状況なのだ。立ち止まれば後ろの味方からせっつかれて、追突事故を起こしてしまう。第6艦隊内で謎のチキンランが始まっている。
そんな状況が実の所叢雲は不満でならないようだ。ぶんむくれながら怒り出した。
「くっ!こんなザマ無い戦いがしたくて私は先輩さんから参謀長バッジを借りた訳では無いです!」
参謀長バッジに手をかけた叢雲に笹本が厳しく言い放つ。
「叢雲さん!許しません!参謀バッジを投げ捨てるな!」
大爆発と共に笹本と叢雲の会話は轟音と閃光に呑まれた。
もはや提督座乗艦である第1戦艦船団の傍も敵中に有り、誰がやったのかは知らないがチェリーブロッサム号至近に居た敵の揚陸艦を誰かが吹き飛ばしたのだ。
「ちょっとー!私の出番無いじゃない?もう良いから突撃しちゃうよ!」
せっかく新調した衝角付きの玩具を見せびらかすように小島のリモート揚陸艦が突っ込んでいった。爆轟と砲弾が降りしきる中、遠慮も躊躇も無く放った小島の揚陸艦が光の渦に消えていく。
消えていった先に居たのは過たずシュルツ参謀の座乗艦だった。このリモート揚陸艦に最後に残ったサムライであるサムライキッズこと大場雄哉君がテレポーターで移乗する筈なのだが、そこは雄哉君が冷静だった。
「行く必要なんて有るかよ。あれ見てよ」
どの艦艇もカミカゼガールの行く先はしっかり注視していたようだ。シュルツの座乗艦にその直後7本の実弾主砲、76発の電磁レーザー、2発のナハトドンナーミサイルが直撃し、座乗艦が跡形も無く吹き飛んだ。これはちょっとしたオーバーキルである。
この瞬間勝利は確定した。敵の艦船は全て動かない。ただ惰性で流れているだけだ。しかし攻撃の手は止まらない。ドイツもコイツも士気の高さが反面し、動かなくなった敵の攻撃に移行する。
「勝敗は兵家の常、敗軍の将は兵を語らずとは言いますが、これは一方的に余りある」
第2戦艦船団長の大場忠道もその一方的な結果の前にただ茫然としたままだった。
「パパ、まだよ。まだ終わってないわ」
新人船団長の第7駆逐艦船団長の大場霙が父を励ます。
「まだやらなきゃダメだよとーちゃん」
同じく新人船団長になった大場雄哉第8駆逐船団長が父を引き戻そうと声をかける。
戦場の怒号と共にその後はかき消されていく。
終わっていないのではない。終われないのだ。皆が皆豚狩りに勤しんでいる為、停滞したら味方の誰かに衝突してしまうのだ。とりあえず呆然とするより冷静になれる余地を模索しなくてはならないのだ。
しかしながら戦闘そのものはこの辺りで終了している。この戦いは当初パラメスワラ惑星系の戦い。叢雲は第2次豚戦争とか名付けたかったようなのだが、後世の記録には『暗幕の戦い』という名前で記録されている。
これはこの戦場を無線封鎖で殆ど手持無沙汰であったマダカスカルの戦争記録家、ミアリー・ラボロロニアイナ女史がその戦場を「本来その戦場はまるで暗幕を下ろした実験室のように暗かった」と書き記した事に起因している。時は宇宙開発歴286年間もなく12月。戦争はまだ続いているのではあるが、世界に宣戦布告した実力至上主義の公国との戦争はまだ続いているのである。
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事も有ろうに私が書いているこれがSFの宇宙部門で累積100位タイになりました。本当にありがとうございます




