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あの日の修学旅行  作者: カルビちゃん
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焦り

 私は今めちゃめちゃ焦っている。


 私の隣にはずっと好きだった男子。大江くんが座っている。うちの学年の修学旅行の班分けはくじ引きで決められた。仲が良い友達と同じ班になれないかもしれないことから、クラスの皆からは決め方に非難轟々。


 でも、私は運のいいことに大江くんと同じ班になることができた。とても嬉しく何回も何回も神様に感謝した。楽しい修学旅行になるはずだったのに。


 トイレに行きたい。


 奈良の東大寺。京都の清水寺。そして修学旅行一番の目当ては大阪のテーマパーク。楽しみで昨日は寝られなかった。寝られなかったのは小学一年生の運動会以来。どうやって大江くんと二人っきりになろうかな。どこのアトラクションに行こうかな。ワクワクは尽きることがなかった。それなのに。それなのに。


 トイレに行きたくなるなんて。


 トイレ休憩まであと一時間ぐらいある。一時間ぐらいなら耐えられるかも。下腹部に違和感を感じる。心臓の鼓動が早い。こみ上げてくる尿意や切迫感から逃れるため、深く座り、背筋を伸ばす。二、三度体を横に揺らすと尿意が収まる。それでもしばらくするとまた尿意がこみ上げてくる。


 あぁ…おしっこ行きたい。


 時計を見る。違和感を感じてからどれぐらい経っただろうか。尿意の波が断続的に来る。なんとしても気をそらしたい。窓の外を見る。


 「この先、渋滞20キロ」


 血の気が引いた。夜は浴衣を使うつもりだったから、修学旅行には、下着と制服この一着しか持ってきていない。もしも、もしも、漏らしてスカートが汚れたら。着替えはない。


 小学校の時、漏らした子は保健室でダサい体操服を借りてたっけ。保険の先生は体操服持ってるかな。


 でも、この先の修学旅行の残りは一人だけ恥ずかしい体操服で過ごさないといけない。まだ集合写真も撮ってないのに。みんな制服なのに自分だけ顔を真っ赤にして体操服を着ている。一生恥ずかしい記録が残ってしまう。そんなことを想像したくない。


 尿意との一進一退の攻防が続く。貧乏ゆすりをしたり、みっともないけど手で出口を抑えたり、つま先をぐるぐるしたり、やれることはなんでもする。


 それでも尿意は私の出口をこじ開けようとする。足がガクガク震えてきた。隣の大江くんが心配そうに私の顔を見ている。もう、私がおしっこ行きたいのバレてるよね。


 あぁ…終わった。大江くんに知られた。おしっこ我慢できない女だと思われた。もうだめだ。落胆したその瞬間。


 チョロッ…チョロチョロ…ピシューシュー……


 大きな音を立てて私のスカートからおしっこが溢れ出始めた。無我夢中で出口を抑え、止めようとした。しかし、欲望に逆らえるぐらいの気力は私には残っていなかった。シートに吸収できないおしっこは下に流れていく。私は悟った。真っ赤になった顔を両手で覆って伏せた。


 あぁ、大江くんはどんな反応をしているのだろう?


 ピシャピシャ…ピシャ……


 全てが終わった頃、みんなが気づき始めた。バス内が騒がしくなる。地獄の修学旅行が始まる。







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