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そんなものでは屈しない

三嶋 春とも無事約束を取り付けたし、今日は疲れたのでもう寝ようか。

その前に例のゲーム『ピピネビ』を少し始めておこう。幸いにもネット環境が揃ったPCが部屋にある。

電源を付けてっと…検索して見慣れたタイトル画面が出てきた。

大げさなチュートリアルの説明を軽く飛ばしながらゲームを進める。ゲームの仕様は何から何まで私が知っているものと一緒だ。現状ではこのゲームだけが元の世界と私の繋がりなのだと思うと感慨じみたものが湧いてくる。しかし、如何せん朝からの疲労は並大抵のものではなかった。とても眠くなってきた。今日ここまでにしておこう。最後にゲームのアカウント名を初期ネームから変えておこう。元に戻れる願いを込めて「ジュリア」と名付け、ゲームを終了しPCの電源を落とす。ベッドに入ると瞼の重みに3秒も耐えることができなかった。


「うん…」

妙な臭いがして目を覚ます。ひょっとすると昨日の出来事は夢だったのではという淡い期待は部屋にある姿見によって粉々に破壊される。しかし何の臭いだこれは。と臭いのもとを探すと自身の枕であることが判った。あんまりな事実に心が折れかける。あとで香水を買おう。

ふと時計を見るともう11時過ぎだった。精神的な疲労もあったのだろう、明らかに寝すぎだ。

「いっけない!」

約束の時間まであと1時間しかない。急いで出かけなければ。何せ私には土地鑑がない。身支度もそこそこに慌てて家を出る。鰻屋に行くまでに寄るべき場所もある。スマホで地図を検索して待ち合わせ場所へ向かう。なんとか間に合いそうだ。


待ち合わせ場所へ着くと銀髪ショートカットから一束ほど髪を伸ばし、青い髪飾りを付けた長身で細身の女性が立っていた。

「ハルさんですか。」

話しかけるとややぎょっとした目でこちらを見てくる。

「あ、はい。思ったより歳上っすね。よろしくっす。」

こちらが気にしていることをズバリと言ってくる。

「しゃべり方がギャルみたいなんで若いかと思ってました。」

もういいってーの!挨拶もそこそこに鰻屋へと向かう。


「好きなもの頼んでいいよ。」

と水を向けると嬉しそうに目を輝かし

「やったー!マジありがとうございます。何でも聞いてください。」

とりあえずは運ばれてきた鰻重を先にいただくことにした。よく考えたら私も昨日ソンナさんに昼飯をご馳走になってから何も食べていなかった。お腹がペコペコだ。


一通り、食べ終えてゲームの話を聞いてみる。だがそこで得た情報は私が知るものと大差なかった。

彼女は戦争ゲームが好きらしく諍いの起こし方を饒舌に語ってくれる。

だが私が知りたいのはそんなことではない。異世界に行くアイテムの話なのだ。思い切って直球で聞いてみる。

「異世界?いやーそれはちょっとわかんねっすね。そんなアイテムあるんすか。」

落胆する答えだった。これで手掛かりはなくなってしまったのかと思った。

「あ、でも何だっけ。半年前くらいに運営が転生システムを導入するとか言ったのにそのまま続報がないんすよね。転生出来たら異世界と言えなくもないっすね。」

転生…?まさしくそれではないのか。私はこのおっさんに転生したも同然だ。

「そ、それ!詳しく教えてほしいなって。」

と3日ぶりに獲物を見つけたライオンの如くがっつく。

「いや詳しくはわかんねっす。でも気になるなら運営と連絡とれるようになればいいんじゃないっすか。」

と努めて冷静に返される。

「それってどうすれば…」

正直に言うとこの問いの答えは知っていた。

「まあ課金しまくれば直接意見とか言えるみたいなんで。」

そうなのだ。『ピピネビ』は課金煽りの激しいゲームで有名なのだ。元の世界の私は小遣いだけでは足らず兄から借金までしてアイテムを買ったこともあった。

「んじゃ、まあそろそろ私は。ごちそうさまっす。」

去ろうとするハルさん。

「待って。もう一つお願いがある。」

このゲームは課金ともう一つ大事なのが強い連盟に入ることなのだ。強い連盟なら情報を持っているであろう課金者も多い。彼女は戦争を引き起こす連盟のリーダーだと言っていた。それなりには強い連盟なのだろう。私を入れてくれないか頼む。

「ウチ初心者はちょっとなー…」

渋る彼女。だがそんな時どうすればいいかはリサーチ済である。

「これ飲んだことある?」

先程、ここに向かう前に寄った酒屋で手に入れた高級ウィスキーを見せびらかす。

「え…なんすかそれ…」

明らかに目の色が変わった。

「連盟に入れてくれたらあげてもいいよ」

動揺しながらもプライドが邪魔するのかなかなか承諾しようとしない。

「じゃあもう一本!えい!」

「にゃーん。」

即堕ち完了。やはりチョロインだな。

アカウントを交換し連盟に入れてもらう。

「ネームはジュリアさんっすね。私はハルなんで好きなように呼んでくれていいすよ。」

彼女の事はハーさんと呼ぶことに決め、ひとまず別れを告げた。


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